テレワークの課題解決「仮想オフィス」で何が行われているのか?

午前中に自宅などでメールのやり取りを済ませ、昼頃に職場へ「出勤」――。ソフトウェア企業「Priv Tech」(プライブテック、東京)に勤める角田翔さん(36)の日常的なスタイルだ。

「ちょっといい?」言える距離感を

職場はインターネット上に設けられた仮想オフィス。出勤するのは角田さん自身ではなく、自らを示すアイコンだ。パソコンの画面に机や椅子が並ぶ2次元の職場が表示され、アイコンを操作して着席。仮想オフィスに表示された同僚のアイコンに近付けば、実際には離れた場所にいる相手と会話ができる。

オフィスが入居するビルのラウンジで「仮想オフィス」の中の同僚と話す角田さん。「離れていても仕事の話がしやすくなりました」(東京都港区で)=西孝高撮影

「ちょっといいですか?」。マイク越しに角田さんが同僚へ声をかける。「近づいて話しかける動作は現実に近い。聞いたほうが早いなとか、いま思いついたんだけどとか、そんな時はチャットやメールより話しかけた方が楽です」

昨年3月設立の同社が、仮想オフィスを導入したのは9月から。コロナ禍で創業後すぐにテレワーク中心となり、社員同士が実際に顔を合わせるのは月1回程度に。ビデオ会議システムなどでは話しかけにくく、コミュニケーションが取りづらかったという。

アイコンにスタンプをつけて気持ちを表現したり、離席中だと伝える表示をしたりすることもできる。社員同士が話しやすいように、仮想オフィスでの細かなルールは決めていない。

代表の中道大輔さんは「社員同士の会話が増え、いいアイデアも出てくるようになった」と、手応えを感じている。

「出社」して雑談もできる「oVice」の仮想オフィス。ビデオ通話を併用することも可能だ

同社が使用しているのは、「oVice」(オヴィス、東京)が開発した仮想オフィスのシステム。企業からの問い合わせが相次いでおり、約300社が利用している。

3D画像を駆使したシステムも登場した。通訳などを行う「テンナイン・コミュニケーション」(東京)が日本の代理店となって展開する米国のシステム「Synergy Global 4U」(シナジー・グローバル・フォーユー)は、米国の50を超える企業や大学などで使われている。

「キャンパス」と呼ばれる仮想空間は街のような構成で、自らのアバター(分身)を操作して移動する。システムを利用する企業などが仮想空間のビルの一室を借りるという設定で、簡単なゲームを楽しめるサッカー場、作品を掲示できる美術館などもあり、他企業の社員らとも交流できる。

アバターは顔の向きを変えられ、握手や拍手などの身ぶり手ぶりが可能だ。テンナインの岡村朱乃さん(32)は自分の顔に似せたアバターを使用している。「ビデオ会議システムでは自分の映り方が気になるが、アバターなら気持ちが楽。身ぶり手ぶりで伝えるようにしています」

背景にテレワークの課題=コミュニケーション不足

広がる仮想オフィスサービスの背景には、コロナ禍で拡大したテレワークでのコミュニケーション不足がある。東京商工会議所が昨年秋、約1050社を対象にした調査によると、テレワーク実施率は53%。継続実施する上での課題(複数回答)として最も多かったのが、社内のコミュニケーションで58%だった。

企業の社内コミュニケーションを支援する「リクルートマネジメントソリューションズ」のシニアコンサルタント、松木知徳さんは「ちょっとした会話が減り、若手が先輩に相談しづらくなることも。仮想オフィスでリアルな距離感に近い状態をつくるのはいいこと」と話す。一方、「使い方のルールを細かくしすぎたり、参加を強制したりすると使いづらくなる。運用には工夫が必要」と助言する。

松木さんは、コロナ禍で働き方が大きく変わり、収束後もテレワークは拡大するだろうと予測する。「テレワークが増えても、実際に対面して話す大切さは変わらない。今後は、リアルな会話と、仮想空間でのコミュニケーションの特性をそれぞれ生かしながら、使い分けるようになるのでは」と分析している。

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