赤ちゃんが一人で寝つけるように練習する「ねんねトレーニング」、略して「ねんトレ」を知っていますか? 赤ちゃんが夜泣きをせず、長時間の寝かしつけも必要とせず、スムーズに眠りについてくれれば、ママもパパも平穏な日常を送ることができます。このため、赤ちゃんの月齢別にメソッドを提唱する育児書が次々と登場しています。でも、現実には、育児書どおりにいかずに苦しんだり、周囲から過保護扱いされたりしてしまうケースもあるようです。読売新聞の掲示板サイト「発言小町」に寄せられた「ねんトレ」に関する悩みについて、専門家に聞きました。
育児書どおりにできず、ストレスためる妻
「ねんトレどおりできず苦しむ妻」のタイトルで投稿したのは、生後4か月の子どもを育てる「トピ主」さん。妻が「ねんトレ」の本に全幅の信頼を寄せています。それには、トピ主さんの子どもの月齢だと、起きていられる時間は1時間半が限界だと書かれており、トピ主さんの妻は、スマートフォンのアプリで時間を5分単位で管理し、1時間10分たったら昼寝をさせようとしています。ところが、子どもはベッドに置かれただけで泣き始め、なかなか寝つきません。
「夜はよく寝る赤ちゃんなのに……。妻は『この月齢の子は昼間も1時間半しか起きていられないから』と無理に寝かせようとして、それを1日5回も繰り返しています。育児書どおりにできないことが(妻には)ストレスになっている様子。少しでも『ねんトレ』から解放してあげる方法はないでしょうか」と、発言小町にアドバイスを求めました。
この投稿には、30通を超える反響がありました。
子どもは敏感、焦りが睡眠を妨げる
保育士としての経験から、「子どもは眠る時に大人の醸し出す空気を敏感に悟っています」と書いてきたのは「みや」さん。「保育園児たちも、保育士同士が何やら談笑しながら(あえてです)トントンしていたら、どの子もあっという間に眠っているのに、『今日は会議があるから早く寝て!』と心の中で祈りながらトントンすると全然!!寝ません!! むしろ目がさえてキラキラしてきます。そういうものです。大人の焦りは子どもの睡眠を妨げます」とつづります。
「初めての子育ては、全て手探り。何かの方法を信じてやりたくなる気持ちも分かります」と書いたのは、「かめこ」さん。「私も子供の月齢が低い頃は、ねんトレ本にあるように子供がコロっと寝てくれたらどんなにいいだろうと日々思っていました。毎日意味不明に泣く子供に付き合って、寝不足でしんどかったからです。奥さんが、ねんトレにこだわる理由のひとつも、ここにあるのではないでしょうか?」とトピ主さんに問いかけました。
抱っこでしか寝てくれなかったのにセルフねんねに成功
「こんな事で過保護なの??」のタイトルで投稿したのは、同じく生後4か月の子どもを育てる母親「かや」さんです。「うちの子は抱っこでしか寝てくれず、昼も夜もずーっと抱っこ、抱っこ。体重も7キロほどになってきて腕も膝も痛くて……」。けんしょう炎になり、限界を感じていたとき、「ねんトレ」を始めました。部屋は暗くし、テレビの音量は小さめに、物音を極力たてないように。そのかいあって、「見事に成功し、セルフねんねしてくれるようになりました」と言います。
ところが、友人にこの話をすると、「過保護すぎる。赤ちゃんにそこまで遠慮してどうするの?」と言われてしまいました。「私は、赤ちゃんが起きたらまた抱っこ抱っこマンなのがつらいだけ……。たくさん寝たらご機嫌さんですし。客観的にみて、過保護、遠慮と思われますか?」とモヤモヤする気持ちを打ち明けています。
ママの幸福度によって赤ちゃんの「睡眠の土台」は作られる
乳幼児の睡眠コンサルタントとして活動する愛波文さんに「ねんトレ」をする上での心構えについて聞きました。愛波さんは現在、ニューヨーク在住。著書に「ママと赤ちゃんのぐっすり本 『夜泣き・寝かしつけ・早朝起き』解決ガイド」(講談社)、「ママにいいこと大全 育児のうつヌケ95の習慣」(星野仁彦さんらとの共著、主婦の友社)があります。
「月齢別の厳密な方法を守ろうとすると、パパやママたちを追い詰めてしまうことがあります。どうやったら赤ちゃんの睡眠が改善されるのか。周囲の人たちと一緒に考えていくことが大切です」と愛波さん。
ねんトレを始める時には、次の「睡眠の土台」についてチェックすることを勧めます。例えば、寝かしつけのタイミングについて、子どもが疲れすぎる前に寝かしつけるサイクルになっているか。子どもが寝る1時間前にはテレビや携帯電話、タブレットの電源をオフにしているか。寝室の温度は、大人が肌寒く感じる程度になっているか。また、寝つく前のルーティンを決めているかなど、いくつかのチェックポイントがあるといいます。
「私は、ママになった女性の心が満たされている状態かどうか、その幸福度によって、赤ちゃんの『睡眠の土台』は作られていると考えています。ねんトレが必要ないというご家庭では、あえて行う必要はありません。ベビーベッドにするか、それとも添い寝にするか、別室か同室かなど、環境を整えようにも、いろいろな制約があるので、ご両親は選択が必要でしょう。でも、スマホなどのブルーライトは寝る前には見せないようにしたほうがいいなど、科学的根拠に基づく方法論は確実にあるので、ぜひ取り入れてもらえれば。セルフねんねに成功すると、親の睡眠の質も上がりますし、赤ちゃんが寝付いた後の時間を楽しめるようになり、余裕もできます」

育児書どおりにはいかないと、頭でわかっていても、少しでも頼りになるのであれば、取り入れたいと思うのが親心。最近は、オルゴールの音楽や雨音などの「快眠音」で赤ちゃんを眠りに誘うアプリも登場しています。アプリの企画開発などを手掛ける株式会社カラダノート(本社・東京)によると、2015年に提供し始めた赤ちゃん向けの無料アプリ「ぐっすリンベビー」は累計で50万ダウンロード数に達し、乳幼児を育てるママたちに人気です。新型コロナ禍でストレスが募りやすいこの時期、赤ちゃんも両親も穏やかに過ごせるための方策をうまく取り入れていきたいものです。
(読売新聞メディア局編集部 永原香代子)
【紹介したトピ】
▽ねんトレどおりできず苦しむ妻
▽こんな事で過保護なの??