東京・日本橋で進められている「日本橋再生計画」は、2019年9月の商業施設「COREDO 室町テラス」のオープンを機に、新たなステージを迎えました。三井不動産(東京都中央区)で、日本橋エリアの活性化プロジェクトを担当する日本橋街づくり推進部の坂本彩さん(33)に、街の魅力とランチタイムの過ごし方を聞きました。
知り合いが増え、家族になれる街
坂本さんは15年から、日本橋室町エリアのエリアマネジメントやプロモーションを担当しています。取り引き先企業や行政機関との連絡調整を行うほか、日本橋にある個人経営の商店主らと協力・連携し、官民・地域一体となって街の将来像や活性化策を探っています。
「街の中の多くの方が参加でき、みんなが街に関わっていると思っていただけるような機会づくりを目指しています。街を活性化する主体者がどんどん増え、人のつながりがますます広がっていく。そんな街を目指したい」
現在の部署に配属が決まってから3年間、坂本さんは実際に日本橋で暮らしてみました。知り合いが増え、会社へ行く道すがら、顔なじみの商店主から「おはよう」「元気?」と声をかけられることも。生活者の目線で見つめてみると、日本橋は家族のように寄り添ってくれる街だと思うようになりました。
日本橋らしい街のあり方
生まれも育ちも日本橋という地域住民が、日本橋のコミュニティーを支えています。人と人のつながりが強く、街に対する誇りも人一倍あります。長い歴史に培われた独自の文化が根付いているため、ほかのエリアとは違った街づくりのプロセスが求められます。再開発が始まったころは、自らの商売や生活が脅かされるのではないかと不安の声もありました。
「意見を出し合いながら、現場で一緒に汗をかいて、信頼関係を築いていくしかありません。最初は怪訝そうだった表情の商店主が、顔をほころばせて迎えてくれるようになりました。街の人たちの意識が少しずつ、確実に変わってきています」と坂本さん。「街を活性化させるイベントは、イベントそのものよりも、多くの人が主体的にかかわれるプロセスが大事です。街づくりには終わりがありません。目先の集客や話題づくりではなく、息の長い取り組みが必要です」
地元の商店主らとの会話からヒントを得ることも少なくありません。「日本橋は街の中に熱量がたまっているようなエリアであるべき。見た目のかっこよさだけじゃなくて、中に入ってみたいと思えるような、街の内部のエネルギーが大事」。老舗の社長から聞いたこんな熱い思いに心動かされたことも。日本橋ならではの街の方向性があると気づかされました。
ランチタイムは仕事と息抜き
打ち合わせや会議の多い坂本さんのランチタイムは、日本橋の飲食店主らと語れる仕事の時間でもあり、息抜きの時間でもあります。うなぎ、穴子、そば、天丼、シュウマイ、オムライス、ピザ……。日本橋はランチの宝庫です。この日は、日本橋本町にある老舗すし店「繁乃鮨」へ。
すしを握るのは3代目の佐久間一郎さん。坂本さんとはイベントなどに一緒に取り組むことも多く、自らを「坂本部の課長」と言うほど親しい間柄。坂本さんの印象について、佐久間さんは「さかもっちゃんはハキハキして明るい性格。地元の重鎮たちにも物怖じせずに意見していた」と笑います。
坂本さんも「日本橋の人たちは、バイタリティーにあふれ、アイデアも豊富。佐久間さんのような方たちと意見交換をしていると、あれもやりたい、これもやりたいと、次から次へ実現したいことがあふれてきます」と話します。地元の人たちとの触れ合いが仕事の原動力になっているそうです。
参考になるのは地方の街づくり
アウトプットを求められることの多い業務。休日には、ほかの街を見に出かけたり、美術館を訪れたりし、インプットを心がけます。「日本橋の街づくりは、地元の人たちを巻き込むコミュニケーションが肝です。限られたリソースで、様々な取り組みをしている地方都市や個人レベルで推進しているようなプロジェクトの考え方が参考になります」と話す坂本さん。
ショッピングをして、映画を見て、福徳神社を参拝し、船に乗って川を巡り、老舗でごはんを食べる……。ほかにない体験ができるのも日本橋の魅力と言います。坂本さんは、「敷居が高いというイメージを持っている人もいるかもしれませんが、一歩足を踏み入れると普段着の生活が息づいている温かさを感じられます。この街の魅力をもっと知ってもらい、何度でも来てみたいと思ってもらえるようにしていきたい」
(取材・文/鈴木幸大、写真/金井尭子)
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生き生きと働く女性をクローズアップする「働く女のランチ図鑑」。職場での仕事ぶりや気になるランチの様子をお届けします。
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