タカラヅカには、花、月、雪、星、宙の五つの組があると書いてきましたが、もう一つ「専科」という組織があります。各組の組長経験者や、踊りや歌などの専門性が高いベテランが配属され、得意分野を生かして各組の公演に出演します。舞台をきりりと締める重みのある老け役などは専科の方の独壇場ですね。
ベテランならではの力
生徒名鑑「宝塚おとめ」の2019年度版では、14人が専科におり、うち2人は劇団理事でもあります。タカラヅカも近年は60歳定年制を取っているそうですが、劇団理事は、一般企業でいえば取締役のような立場ですから、定年は適用されないようです。また、理事以外でも、契約の延長制度があるのか、推定年齢60歳を超えていそうな方もちらほら。
一方で、年配者ばかりとも限らず、各組の2番手、3番手だった生徒も専科に配属されることがあります。ある意味で「ベテラン認定」をされたとも言えますし、実は専科から各組に出演して経験を積ませ、トップスターとして組に戻す例もあるのです。このあたり、ファンの立場としてはやや複雑なもの。贔屓のスターが専科に配属されると、「先々トップという可能性がまだあるのだろうか」と一抹の希望も抱きますし、そこを諦めると「早々と退団することはなくなったのだから、今後しばらく姿を見ることができる」と、妙な安心感も生じてきます。
さてお気づきのように、この専科という制度、一般のカイシャでいうスタッフ職や専門職、シニア職などと共通性がありますね。ラインからは離れ、経験や専門性を生かして各組織を助け、60歳超の雇用継続でも力を発揮する。ただ、人によっては何となく「はずれちゃったな」という一抹の寂しさもあり……。
もうひとつ、制度化されたものではないのですが、ファンの間で「別格」と呼ばれるベテランの位置づけもあります。ある時期までは3番手、4番手ぐらい、そしてトップスターや2番手が若返ってきて、「トップの目」はなくなった感があるのだが、人気と実力はかなりなもので、欠かせない存在として各組に所属し続ける、といったところでしょうか。またまたカイシャ組織になぞらえると、「担当部長」に近いかもしれません。
「はずれた」と思った後にも道がある
私、長くタカラヅカを見ている割には、個々のスターに熱中した経験があまりないのですが、一度だけ個人ファンクラブに入ったことがあります。その方はいわゆる「別格」に相当する方でした。当時はいつも「この人こそがトップにふさわしいのに」という思いでいっぱいでした。本公演ではない小ホールでショーの主演を務めたときは、これが大劇場であったらと、大階段と銀橋を頭の中で思い描きながら見ていたものです。でも、結局退団され、その日は来ませんでした。いま冷静に考えると、たぶん「別格」であるからこその生かされ方が、その人ならではの魅力を作り出していたのかもしれません。
組織の中で長年歩んでいると、ある日、目指していた方向とは異なる所属や肩書を提示される=メーンストリームから「はずれた!」と思う瞬間はやってくるものです。でも、道は案外たくさんあるのです。戻り道や迂回路も、そして今までにない道も。「はずれた!」時から何かが始まる――専科や別格のスターたちは、そんなことを教えてくれます。
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