井ざわ
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まな板の上で手早くカットされる食材、ボウルの中でかくはんされる生タマゴ……。料理の工程が1分ほどで分かるレシピ動画を活用している人は多いはず。「『誰でも簡単においしく作れる』がコンセプト。見た人が作りたくなり、実際に作れるものを、と考えています」。そう話すのは、日本最大級のレシピ動画メディア「DELISH KITCHEN(デリッシュキッチン)」の編集長、菅原千遥さん(29)です。
最初は4人でスタート
菅原さんは、新卒で入った総合インターネット企業「GREE」を3年前に退社、当時の同期や上司4人で動画メディア会社「エブリー」を設立しました。事務所として借りた3LDKのマンションはガランと広く、「絶対、1年で(スタッフで)いっぱいにしよう」と心に決めたそう。
菅原さんが担当したのは、「食」の分野。当時の人気レシピサイトは、食材などからレシピを検索するものがほとんどでした。そこで、「今日の献立に悩む人の課題解決ができるものを作りたい」と考え、料理の工程をわかりやすく1分程度にまとめて見せていくことで、こちらから料理を提案するレシピ動画サイトを作ることにしました。

1日1本の動画をアップすることを目標に、マンションのキッチンで撮影を始めた菅原さん。「動画は再生回数で『見る』『見られない』がわかるので、毎日がトライ・アンド・エラー。『当たる法則』を探していました」。1日1本から始まったレシピ動画は現在、1日50~60本、ひと月に1000~1500本が公開されており、月間再生回数は6.1億回に上ります。
「レシピ作りや調理を管理栄養士が担当するなど、レシピはすべてプロの手によって制作されています」。調理に当たるスタッフは約30人。「細かいことですが、調味料を入れる手を画面の下から出すなど、動作を統一して見やすくなるように心がけています」
根っからの「オタク」
菅原さんの仕事の原点は、自宅にあった1台のパソコンでした。小学生の頃から自分でホームページを作ったり、ブログを書いたりと、「根っからのオタクでした」。高校生の頃にコミュニティーサイト「mixi(ミクシィ)」を知り、「登録するのに紹介が必要だったり、他の人が自分のページを見たことがわかる『足跡機能』があったりと、こんな面白い仕組みがあるなんて」と感動したそう。いつからか、「自分もみんなに使ってもらえるサービスを作りたい」と漠然とした思いを胸に抱くようになりました。
もう一つ、大好きだったのが「お菓子作り」。タマゴ一つとっても、泡立てたものをオーブンで焼けば膨らんでスポンジ状になったり、蒸すとプリンになったり。状態の変化に魅せられ、大学生の頃には、まるで理科の実験をするように、お菓子作りに取り組んでいました。当時、「レシピに書かれている『八分立て』とか『切るように混ぜる』とか、写真だとわかりにくいなあ」と感じていたといいます。DELISH KITCHENは、そんな菅原さんの好きなもの、こうあったらいいなという思いが詰まっています。
他の人が注文するものが気になる
スタジオで作られた料理の味見でおなかがいっぱいになることも多いそうですが、なるべく週1回はランチに出るようにしています。今、どんな料理が人気なのかが気になり、外に食べに出ると、「他の人がどんなものを注文しているのか見てしまいます」と菅原さん。
お気に入りの「平日御膳ランチ」(1300円)は、オフィスから徒歩10分ほどの小料理屋のランチメニューです。「いろんなおかずがあって、一つ一つに手が込んでいるんです。里芋もしっかり揚げてあるし、生姜や長ネギの千切りもすごく丁寧。『なるほどなぁ』と感心しながら食べています」
菅原さんにとって、ランチは息抜きの時間にもなっています。3年前に4人で始めた会社の従業員数は今や300人。会社の規模が大きくなる一方で、DELISH KITCHENの編集長として、事業全体を統括するカンパニー長としての責任も大きくなり、周囲の人に仕事の悩みを気軽に話せなくなりました。だからこそ、「創業メンバーとランチに出て、ざっくばらんに話す時間が心の支えになっています」と菅原さんは打ち明けます。
料理にまつわるすべての流れをサポートしたい
DELISH KITCHENは、個人ユーザーに料理の作り方を紹介するだけでなく、スーパーなど小売店の売り場に置かれたディスプレーに動画を流して店の売り上げアップにつなげたり、動画を見たユーザーに自宅近くにある店のお買い得情報を知らせたりなど、ビジネスを広げています。
「DELISH KITCHENをもっと成長させて、レシピ選び、調理、買い物と、すべての流れをサポートできるようにしたい。ユーザーはもちろんですが、小売り業界、メーカー、みんなに喜んでもらえるサービスにしていきたいですね」
(取材・文/山口千尋、写真/金井尭子)
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生き生きと働く女性をクローズアップする「働く女のランチ図鑑」。職場での仕事ぶりや気になるランチの様子をお届けします。