アートとカルチャー四国4都市の旅、2022年は瀬戸内国際芸術祭

お遍路さん気分を味わいながら、マイペースで四国の4都市を巡る気ままな旅は、アート・カルチャーとの出会いという、思いがけない楽しみもあります。自然や絶景、日常のなかにすんなりと溶け込む文化は、旅の記憶をいっそう強くします。

徳島市の中心部にある豪華壮麗なお殿様の庭園

旧徳島城表御殿庭園
枯池にかかる自然石の橋

広大な徳島中央公園(徳島市)にある「旧徳島城表御殿庭園」は、徳島城の表御殿の庭として1600年頃に造られた庭園です。豪壮で華麗な文化が花開いた桃山時代のお殿様の庭園は、想像以上の見ごたえです。

水を用いずに自然を表現した「枯山水庭」と、池と築山からなる「築山泉水庭」の2部構成になっています。門を入り、まず目にするのが、枯山水の庭です。枯池にかかる長さ10m以上の石橋や、桃山時代に大名が好んで用いたという蘇鉄そてつが、往時の華やかな文化を想起させます。

ちなみに、大名庭園は、兼六園(石川県)や偕楽園(茨城県)のように、一般的にお城から離れた場所にあるもので、このように御殿(住居)のすぐ前にあるのは、とても珍しいケースなんです。 お殿様は日頃、よくこの庭をめでていたのでしょう。築山泉水庭の青々とした池は、地下水路を通して内堀の海水を導入しているため、居間にいながらにして潮の干満を把握できたのだそう。

庭園の入園料はわずか50円(!)。徳島駅からも近く、移動の合間にも気軽に訪ねることができます。

現代アートの聖地・高松市をぶらり散策

高松のパブリックアート
JR高松駅と、ことでん高松築港駅の間、高松城跡の石垣をバックに設置されているジュリアン・オピーの作品

高松市は街中の現代アートが魅力的な都市です。ほんの短い滞在時間だったにもかかわらず、港や商店街のアーケード、地下道など、いたるところでたくさんの印象的なアートに出会いました。

駅と港が隣り合うサンポート高松は、アートが集結するエリア。1時間もあれば、ぐるっと巡ることができます。パブリックアートなので、もちろん写真撮影もOK。どれも眺める角度や日の当たり方によって違う表情に見えるのが面白くて、カメラが手放せません。

徳島のパブリックアート
カラフルなポールの間を船が行き交う「Liminal Air -core-」(作・大巻伸嗣)

なかでも、ウォーターフロントでは海を借景にしたインパクトのある作品が点在していて、迫力あるアートを楽しむことができました。中央埠頭ふとうからまっすぐ延びる防波堤を歩いたり、潮風を感じながらアートを楽しんだりするのは、開放的で気持ちがいいもの。ここに来なければ味わうことのできない、ダイナミックな芸術鑑賞です。

屋外でのパブリックアート鑑賞は、withコロナにもぴったりの楽しみ方。折しも、この春からは3年に1度の「瀬戸内国際芸術祭」も開かれます。私が歩いた高松港の周辺や、高松港から20~40分の女木島と男木島も舞台のひとつとして、おおいに盛り上がることでしょう。

松山市の大正ロマン漂う洋館は、建物そのものが美術館

松山市の萬翠荘
まるで「森の中のお城」のよう。貴重な建物が戦禍を免れ往時の面影を残しているのは、奇跡であり財産

美しい曲線を描く階段と、優しく光が差し込む踊り場のステングラス、クラシカルなシャンデリアやマントルピース……。足を踏み入れたとたん、エントランスホールの美しさに目を奪われたのは、松山市の「萬翠荘ばんすいそう」。その漂う気品と優雅さに、一瞬にして別世界へと誘われます。

ぜいを尽くした洋館は、今からちょうど100年前の大正11年(1922)、旧松山藩主の子孫である久松定謨さだこと伯爵が建てたフランス・ルネサンス様式の別邸です。陸軍駐在武官としてフランスに長く暮らした伯爵の“フランス愛”を、いたるところに感じます。

松山市の萬翠荘
階段を彩るステンドグラス

建物は、一般的な西洋建築のように左右対称にはなっていません。これは設計者の木子七郎が、日本人特有のアンバランスの美意識を取り入れたからなのだそう。私は建築には詳しくありませんが、フランス愛の中に光る日本人の美意識を知り、なんだか急に親近感が湧いてきました。

階段の踊り場や各部屋の間仕切りには、アールヌーボー調のステンドグラスが飾られています。それらひとつひとつはデザインが異なり、見ていて飽きることがありません。エントランスホールで見上げたステンドグラスは、2階の迎賓室の椅子に座るとちょうど目の位置に来るように設計されていました。そんな粋な工夫もすてきです。

ちなみに、昭和天皇が泊まった際、西部屋の三方に窓がある貴賓室で朝食をとられたといいます。貴重な文化財ながら、そこに座って往時に思いをはることができるなんて、なかなか貴重な体験です。庭に響く野鳥のさえずりを聞きながら、優雅な大正ロマンに浸ることができました。

高知市のボタニカルガーデンで牧野富太郎博士を知る

高知県立牧野植物園
展示館中庭の水盤。曇天や雨の日もまた情緒あり

高知市で訪ねたのは、竹林寺が建つ五台山に位置する「高知県立牧野植物園」。四季折々の野生植物あり、眺望あり、個性的な建築あり、そして日本の植物学の父と言われた牧野富太郎博士の軌跡ありと、自然と文化が調合する植物園です。野生植物が生い茂る森の中には、お遍路さんが歩く道も通っています。

牧野博士の植物のスケッチ
牧野博士の植物図。スキャンなどない時代、緻密なスケッチや標本の細かさに目を見張る

植物園というと、花を観賞するための場所を想像する人も多いかもしれませんが、ここはちょっとユニーク。自然のなかで、植物の美しさや面白さに触れるという趣向です。広大な敷地の、まさに「生きた植物を見せる植物園」という環境に、海外の旅先でたびたび訪れるボタニカルガーデンを思い出しました。

敷地内にある「牧野富太郎記念館 展示館」には、牧野博士の植物図や遺品などが展示されています。紹介されている生涯は驚くことばかり。「小学校の授業に飽き足らず自主退学。独学で勉強・研究し、日本人として国内で初めて新種の植物に学名をつける」「80歳を過ぎてもフィールドで果敢に活動していた」「膨大な植物の標本と書籍をリヤカーに載せて引っ越すこと約30回」など、その逸話は数知れません。

そのドラマチックな生涯はまさに小説そのもの……と思っていたら、後日、2023年春に放送予定のNHK連続テレビ小説「らんまん」(神木隆之介主演)の主人公は、博士がモデルと知ってびっくり。彼を支えた奥さんや家族のストーリーも興味深く、今から放送が楽しみでなりません。

ところで、写真で拝見した牧野博士はなぜか、いつもちょうネクタイ姿。「植物は恋人。恋人に会いにいくのだからおしゃれをする」と考えていたのだそうです。そんな植物への愛情を知るにつれ、私はすっかり牧野富太郎ファンになってしまいました。

(取材・芹澤和美)

取材協力:四国四市観光誘致促進協議会
高知市公式ホームページ
松山市公式観光WEBサイト
高松市公式観光サイト
徳島市公式観光サイト

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