「お茶テロワール」を楽しむ駿河の旅へ、至極のカフェ巡り

そろそろ旅に出てみたいな。そんな思いが芽生えたら、旅先候補のひとつにあげたいのが、首都圏から容易にアクセスできる静岡県中部地域。「駿河」と呼ばれるこの一帯には、南アルプスの源流から日本一深い駿河湾にいたるまで、美しい風景が広がっています。そんな自然とクロスするのが、お茶どころとしての文化。フランスのブルゴーニュのごとく、畑ごとに個性を放つ“お茶テロワール”が知的好奇心を刺激し、絶景とおいしいお茶が旅心を満たしてくれます。

オーガニック茶を楽しむ山峡のティーテラス

ティーテラス
120年続く農家を切り盛りする農園に今年完成したティーテラス

最初に訪ねたのは、オクシズ(奥静)と呼ばれる静岡市の山間部、標高450mに位置する「いはち農園」です。すり鉢状の畑をどんどん上っていくと、眼下にキラキラと光る駿河湾と安倍川、その向こうに南アルプスが広がるパノラマに迎えられました。畑の真ん中には、この眺望を独り占めするティーテラスが。ここぞ、絶景のなかで農園シングルオリジン(単一農園・生産者)のお茶を味わうことができる山峡のカフェです。

いはち農園

農園の15代目・繁田琢也さんが最初に入れてくれたのは、米もお茶もすべて自家製の特上玄米茶。茶器にお茶を入れた瞬間から包まれる香ばしさたるや。ガラスのティーポットの中で、一枚一枚ゆっくりと開いていく茶葉の美しさにも癒やされます。

農薬や化学肥料を一切使わず、試行錯誤して完成したお手製の有機肥料で育てるお茶は、アミノ酸が豊富でうま味たっぷり。なにより、野鳥の声がこだまする畑でいただくこの一杯は格別です。一方で、有機栽培だけに、雑草との闘い、急勾配の畑に手作業でまかなければいけない肥料など、手間は何倍もかかります。

日々、果敢に畑仕事に向き合う繁田さんの前職は、ファッションモデル。14代目であるお父さんの「農家は継ぐな」という大反対(!)を押し切って、36歳の時に農園に入ったのだそう。そして今、肥料作りから栽培、製茶、パッケージのデザイン、販売にいたるまで、すべて独自に取り組んでいます。製茶工場は、複数の農家が共同で持つのが一般的ですが、繁田さんは自分たちだけの工場を持っているのです。

畑の中にあるティーテラスも、繁田さんの手作りです。3種類の利き茶体験は1人3000円(お茶のお土産付き)。お茶づくりにまっすぐでひたむきな農家さんのお話を聞きながらティーテラスで過ごす時間は、いろんな気づきを与えてくれます。

絶景の茶園で生まれる甘~い極上紅茶

マルジョウ村上園
「マルジョウむらかみ園」は、明治時代から続く茶農家。美しい風景のなかで、手間を惜しまず、ひたむきにお茶を作り続けています

夜明けとともに辺りが明るくなり始めると、太陽に照らされオレンジ色に染まる雲海の合間に、一面の茶畑が現れる――。まるで夢のような光景が広がるのは、静岡市清水区吉原の「マルジョウむらかみ園」。この農園では、茶業に情熱を注ぐ村上家の3代目と若き4代目が、有機肥料を中心にしたお茶栽培を行っています。

雲海の出現には、いくつもの気象条件が重なる必要があり、旅で見られるかどうかは、天任せ。でも、この茶畑で育ったお茶を飲みながら、雲海に思いを馳せるのも一興です。なかでも、女性に飲んでほしいのが「蜜香紅茶」。台湾の東方美人を思わせる華やかな香りと、飲んだ後に残る上品な甘い余韻に、じわじわと幸せな気持ちになります。

オーガニック抹茶を楽しむ隠れ里のカフェ

大井川沿いに位置する島田市の鍋島地区。けっしてアクセスがいいとは言えないこの地に、土曜・日曜の日中(11時~16時)しかオープンしていないにもかかわらず、人気を集めている抹茶専門のカフェがある。そう聞いて足を延ばしたのは、その名も、「MATCHA MORE」。若手のお茶農家によるプロジェクトチーム「Matcha Organic Japan」が運営しています。

MATCHA MORE
MATCHA MORE

「Matcha Organic Japan」が取り組むのは、伝統的な手法と最先端技術を取り入れたお茶づくり。「島田のオーガニック抹茶を世界に届けよう!」と、生産から販売まで、一貫して茶業を手掛けています。山あいの畑を見せていただいたのですが、「ソーラーシェアリング」というエネルギー循環型農業のもとでの無農薬栽培に、お茶栽培の未来を感じました。

茶工場を改装した併設のカフェは、ほっとくつろげる空間。オーガニック抹茶ラテも濃厚で、飲みごたえがあります。壮大なビジョンをまぶしく感じつつ、抹茶に豊富に含まれるテアニンの効果か、心からリラックスすることができました。

銘茶の産地で昔ながらの農法を守る

銘茶の産地である川根本町で、家族でお茶づくりに取り組むのは「つちや農園」。秋冬に刈った草を干して畑の畝に敷く、昔ながらの「茶草場農法」を継承している数少ない農家さんです。この農法は、生物多様性など周辺の環境保全にもつながることから、国連食糧農業機関の「世界農業遺産」に認定されています。でも、とても手間がかかるので、実践している農家さんは少ないのだそう。

つちや農園
春の新茶の時期、畑に隣接する茶工場では、収穫した生葉を蒸すいい香りが漂う

つちや農園を訪ねた日は、まさに干した草を茶の木の根元に敷き詰める作業のまっしぐら。「茶草(干し草)は、寒い冬は茶樹の根を保温保湿し、春には日陰を作る屋根となり、雑草が生えるのを防いでくれます。そして、やがて土にかえり、畑に栄養を与える。だから除草剤や化学肥料を使う必要がないんです」と農園の土屋裕子さん。

裕子さんに案内していただき、茶草を敷いた畑を歩いてみました。足元は、まるで干し草ベッドのようにふかふか。そして、美しい茶器で入れてくださったお茶は、ふかふかの感触を思い出すような優しい風味。自然に寄り添ったお茶畑での、幸せなティータイムでした。

日本庭園を眺めながら、本格的な玉露を

駿河の各地にあるお茶産地のなかでも、新茶のシーズンになると独特の風景を見せるのが、玉露の3大生産地のひとつ、藤枝市の朝比奈です。茶摘みの20日ほど前から、茶畑には「こも」と呼ばれる覆いがかぶされます。これは、日光を遮ることにより、お茶の苦味成分(タンニン)を抑え、うま味成分(アミノ酸)を増やすため。どのぐらい日の光を畑に入れるかは、農家さんそれぞれにこだわりがあるのだそう。

そんな朝比奈ならではの風物詩を見られる時期は、ゴールデンウィークを含む5月上旬から約2週間だけ。ただ、この地域には一年中、日本庭園をでながら玉露を味わうことができる茶室「瓢月亭ひょうげつてい」があります。茶室が位置するのは、「道の駅 玉露の里」の敷地内です。道の駅で玉露だなんて、さすがはお茶どころ。

瓢月亭
玉露の本場、藤枝市にあるお茶スポット。お茶の知識がなくても、ここで飲めば玉露のおいしさに開眼するはず

池を見渡す畳の上で、玉露を味わうことにしました。40度~50度と低めの湯温で入れ、じっくり2分間抽出。着物姿の女性が美しい所作で入れてくれたお茶を口にした瞬間、ふんわりと広がる出汁だしのようなうま味とまろみ。おお、これが玉露か! これまで高級な茶葉という漠然としたイメージしかありませんでしたが、昔から珍重されてきたのもうなづけます。

そして、もうひとつ驚いたことがあります。それは、抽出し終えた玉露の茶葉にポン酢を少しかけて、茶葉そのものを味わう食べ方があるということ。柔らかな葉の感触がおひたしのようでおいしいだけでなく、茶葉に残るたっぷりの栄養もとることができることから、玉露を栽培する農家さんの間では、よく食べられているのだとか。お茶を大切に育て、大切に味わう、そんな駿河の土地柄がうかがえて、お茶への興味がますます広がりました。

(取材・芹澤和美/写真・Studio GRAPHICA 伊東武志、協力・するが企画観光局

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