監督で脚本家・谷本佳織が語る 映画「大コメ騒動」の脚本にかけた思い

映画「大コメ騒動」が1月8日(金)にいよいよ全国公開となる。
大正時代に富山県で実際に起きた「米騒動」が題材になっており、当時の女性たち(おかか)が奮闘する様子が描かれている。おかかたちを演じるのは、主演の井上真央、富山県出身の室井滋、夏木マリら豪華な顔ぶれ。ほかにも富山県出身のキャストが多数出演している。監督も、「釣りバカ日誌」や「空飛ぶタイヤ」などを手掛け、やはり富山出身の本木克英。
本作の公開を記念し、全3回のオピニオンインタビュー連載がスタートしているが(1は作家・山内マリコさん、第2回は料理研究家・和田明日香さん)、今回はその第3回目として、映画監督で、「大コメ騒動」の脚本を担当した谷本佳織さんに、この作品にかけた思いなどを聞いた。

行動を起こした“おかか”たち、庶民の女性の視点から物語を構築

監督兼脚本家・谷本佳織さん

私がこの企画に参加したのは、開発から2年以上経過したころでした。以前開発していたコンセプトをリセットして、実際に「米騒動」を起こした庶民の女性たち“おかか”の視点で書いてほしいという要請がありました。そして、米騒動そのものがどのようにして起こったのか、騒動が起きた大正時代の庶民の暮らしはどういうものだったのか、資料を10冊以上読み込むことから準備作業を始めました。おかかの視点で物語を組み立て、登場人物を設定しなおし、どう面白くしていくかを考えました。井上真央さんが演じる主人公いとは、農村から貧しい漁村に嫁いできた人。聡明だけれど、どこかなじめないでいる女性です。そして騒動を起こすにはリーダーが必要だということで、「清んさのおばば」を考えました。この役は、富山県出身である室井滋さんが演じていらっしゃいますが、室井さんが幼いころに、「清んさのおばば」にそっくりな魚の行商をしている女性が実際にいて、子供だった室井さんはその姿を見ただけで恐ろしさのあまり泣いていたそうなのです。そんなお話を聞いて、おばばのキャラクターを作りました。それから、主人公と仲が良い女性、井戸端で集まるおかかたち、米屋、酒蔵の妾、寺子屋の先生、若い新聞記者などを、いとの周りに配置して、物語を動かし始めました。

(C)2021「大コメ騒動」製作委員会

石橋蓮司さんが演じた地域の権力者も、この役に近い人が実際にいらっしゃいました。米騒動というと、米屋や有力者たちが悪者だと思われがちですが、その人は、苦学生の面倒をみるなど、地域のために貢献もしていました。米価格も彼が勝手に上げたわけではなく、社会情勢によって値上がりしていましたから、商売として仕方ない部分もあります。売る側、買う側、どちらにも言い分があるのだな、と資料を読み込むうちに思いました。左時枝さんが演じた米屋の女将が憎まれ役になってしまいますが、「商売だから勝手だ」というセリフを後から足しました。いと自身も、米屋の女将の甘言で、騒動から手を引く代わりに米を安く売ってもらうという裏取引をしてしまうのですが、飢えた家族を抱えているとなると、きれいごとでは済まされないところがあることを感じてもらいたいと思いました。「米屋と医者は人が困っているときにもうける」というセリフも資料の中にあった言葉を使わせてもらいました。

自分の娘を重ね合わせて、ひもじい子供を描く

100年以上も前の日本は男社会です。おかかたちが立ち上がって、米屋の前で米を以前の価格で売るよう要求する運動を起こすも、「女には何もできない」と言われる始末。劇中では、運動を起こした女性たちは逮捕されず、神戸浩さんが演じた青物屋だけが逮捕されますが、これも実際にあった話を取り込みました。

(C)2021「大コメ騒動」製作委員会

リーダーのおばばが逮捕され、それぞれの家庭の事情もあって運動は次第に盛り下がるのですが、おかかたちの気持ちがいったんバラバラになった後、またどうやって一丸となるシーンを描くかと考えた時、そこには大きなドラマが必要だと思いました。そこで、かわいそうですが、いとの近所の少女が亡くなるエピソードを入れました。おばばもハンガーストで倒れてしまう。そこで、おかかたちは自ら自分の至らなかった部分について告白しあい、お互いについての理解を深め、気持ちを一つにしてまた立ち上がるという流れにすることを決めました。

私にも6歳と1歳の娘がいます。下の子は、この脚本を書き始めたときに妊娠がわかりました。だからこの映画は私にとってもすごく思い入れのある作品で、あれこれ悩みながら書いたこの脚本を、私の子供のように思っています。毎日の食事を作ることは本当に大変ですよね。その大変さは、実際に作る人にしかわかりません。形は違っても、家庭を持つ女性の大変さは今も昔も変わらないところがあります。だからこそ、おかかたちのセリフに日頃の思いもたくさん込めましたね。

映画の中で、子供が、おなかがすいて紙を食べる場面がありますが、それは私自身の体験を反映させているものです。上の子を保育園に入れていたとき、離乳食を与えるタイミングがわからなくて、しばらく母乳だけで育てていました。するとある日、保育園から、ご飯を多めにあげてください、と注意されたことがありました。なんと中庭の土を食べてしまっていたのです。私は「はっ」として、この子のおなかを満たせてやれなかった、そのことに対し、親として本当に情けないな、と深く反省しました。そのときの気持ちが入っています。

行動すれば状況は変えられる あきらめないでほしい

さまざまな資料を読むと、富山で始まった米騒動は、実際は決して暴力的なものではありませんでした。それが、当時の新聞によって「女軍米屋にせまる」「女一揆」などと大げさに報じられ、全国各地に広がっていきました。フェイクニュースによって、あっという間に「炎上」する現代の情報社会にも通じるところがありますね。

(C)2021「大コメ騒動」製作委員会

完成した映画を見た時、衣装とメイクのリアルさにも脅かされました。井上さんをはじめ、そうそうたる女優さんたちが、すごく汚れた衣装を着て、顔を黒く塗っています。本当によくここまでやってくれたものだと思います。本木監督は土着的にしたいと話していましたが、これほどまでにリアリティーを追求されたことに感心しました。それから富山弁。私は方言がわからないので、標準語でセリフを書き、それを富山の方に直してもらいました。富山弁になると深刻な話も丸くなって聞こえます。イメージがかなり変わって、コメディー部分が協調された感じになりました。

映画を見た富山の方から「お母さんにこの映画を見せたい」という声を聞いたときは、こんなうれしい誉め言葉はない、と思いました。どうやら富山では、米騒動のことを、お上にたてついた「負の歴史」と思っている人が多いようです。でも決してそうではありません。お母さんたちが生活を守るために立ち上がり、勝利を勝ち取った偉業です。100年前に戦ってくれた女性たちがいたからこそ、今の私たちがいるのです。

私はこの映画を特に女性に見てもらいたいと思って脚本を書きました。そして弱い立場の人、やりたいことをできずに諦めている人に見てもらいたい。おかかたちは初めから社会を変えようと思って行動したのではありません。どうしようもなくなって立ち上がり、自分たちが知らないうちに結果として社会を変えることにつながりました。百年前の弱い立場の女性たちでも、行動を起こすことで状況を変えることができたのです。私も、次の世代の子供たちが苦労しないように世の中を変える一助になれば、という思いを込めて映画を作っています。2人の娘たちが大人になったとき、少しでも暮らしやすい社会になってもらいたい。大好きなことをあきらめる必要がない世の中になってほしい。心からそう思っています。