【SDGsの基礎】なぜ少女は将来の夢やなりたい職業を諦めるのか?

働く女性とSDGs〈3〉

教育のジェンダー格差はなぜ生まれるのか?

SDGsはこれからの暮らし方や働き方に欠かせない世界共通の目標です。でも、自分とどう関係があるのか分からないという人も多いのでは? 働く女性がこれだけは知っておきたいSDGsについて、日本総合研究所の村上芽さんが解説します。3回目のテーマは「女性と教育」です。

【質問】
メーカー勤務の40代男性。大学進学を考えている高校生の長女が「宇宙の研究者になりたい」と言います。でも、英語や歴史が得意なので文系へ進学することを勧めています。どうしても理系と言うなら、男性社会のイメージが強い研究や開発の分野よりも、女の子なのだから看護や薬学の進路を考えたほうがいいのではないかと思っています。

宇宙といえば、衛星データを使って、森林が不法に伐採されていないか観測したり、自然災害を予防するための精緻せいちな気象予測に役立てたりするなど、気候変動対策や自然環境を守る取り組みがSDGsの目標ともつながっています。

といっても、お父さんの心配は「だからといって、うちの娘がその道に進まなくても」ということなのでしょう。私は、娘さんが好きなことを学べる大学・学部に進学していただきたいと思いますので、今回はその説得材料にSDGsを使っていきます。

SDGs が掲げる17のゴールのうち、教育を扱っているのは、4番目にある「質の高い教育をみんなに」です。その目標のもと、「2030年までに、教育におけるジェンダー格差を無くし、障害者、先住民及び脆弱ぜいじゃくな立場にある子供など、脆弱層があらゆるレベルの教育や職業訓練に平等にアクセスできるようにする」と詳しく書かれています。

教育を巡る課題はいろいろありますが、ここで指摘されていることの一つは、「女の子だから文系」「男の子だから理系」というように性別で進路を決めてかかるのは、「ジェンダー格差」になってしまうということです。

専門分野におけるジェンダー格差

文部科学省の学校基本調査によると、2019年の大学(学部)への進学率は男子57%、女子51%です(短大は除く)。20年に大学の学部に在籍していた学生の人数でみると、全体で約262万人のうち、男子が143万人、女子が119万人で、女子は約45%を占めます。

大学進学率の男女差は、縮まってきています。ところが、進学先の分野(学部・学科)で女子の割合をみると、全体の45%に近い値は「その他」と「農学」しかありません。「その他」は、教養・国際関係・人間関係などの学部・学科がまとめられている区分です。

 もし、学部・学科の選択で男女差が小さければ、このグラフの棒は、だいたい同じような長さばかりになるはずです。ところが、実際は女子の多い「家政」「芸術」「人文科学」「保健」「教育」、男子の多い「工学」「商船」「理学」「社会科学」というように、男女比に大きなバラつきのある結果となりました。

大学生の専門分野別女子の割合を示すグラフ
大学生の専門分野別女子の割合(文部科学省「学校基本調査 令和2年度」の「10 関係学科別学生数」に基づき筆者作成)

女子の割合が60%を超える「保健」分野の内訳をみると、実際は「看護学」(91%)と「薬学」(60%)に偏っていて、「歯学」は43%、「医学」では34%にとどまっています。

女子の割合が低い「工学」分野では、「電気通信工学」や「機械工学」など10%を下回る学部・学科もあります。

ちなみに、こうした学問の専門分野におけるジェンダー格差は、日本だけの課題ではなく、他の先進国でも似たようなことが指摘されています。

将来の夢を貫けない「暗黙の期待」

将来の夢や仕事につながる高等教育の選択に、どうして、このような意思決定がなされているのでしょう。

理科や数学が得意な女の子が、それらを生かした仕事をしたいと思っても、「周りがそれを勧めない」「彼女の希望に賛成してくれない」という状況の中で、「具体的なキャリアのイメージがつかめない」としたらどうでしょう。「ない、ない」ばかりの状態では、女の子が自分の夢や希望を貫くのは難しいかもしれません。

大手化学メーカーの「クラレ」(東京都千代田区)が行った調査(19年7~12月実施、20年4月公表)によると、小学校1年生の親が考える、子どもに将来「就かせたい職業」は、男の子が1位・公務員、2位・医師、3位・会社員、女の子が1位・看護師、2位・公務員、3位・薬剤師という結果でした。

日本では2018年、複数の大学医学部の入学試験で、女子が不当に差別されていたという実態が明らかになりました。これは、だれもが「あらゆるレベルの教育に平等にアクセスできるようにする」と掲げるSDGsに反しています。

こうしたことを社会全体で防ぐためには、実は、子どもの親の立場にある人たちも、「男の子はお医者さん、女の子は看護師さん」というような暗黙の期待をしないことが大切なのかもしれません。

最後にもう一つ。「女の子だから○○だ」と性別で何かを決めてかかることは、東京五輪・パラリンピック大会組織委員会の森喜朗会長の「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかる」という発言と通じるところがあると思いませんか。それが、過去の歴史上の事柄ではなく、今の日本で起きているということを強く意識しなければ、ジェンダー格差の解消は時間がかかりそうです。

SDGsが掲げる17のゴール
SDGsが掲げる17のゴール

SDGsSustainable Development Goals、持続可能な開発目標)とは、2015年の国連サミットで採択された、30年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標です。「飢餓をゼロに」「人や国の不平等をなくそう」など17のゴールと169のターゲットで構成され、経済、教育、環境、人権などについて、政府、企業、市民がともに取り組む課題が示されています。

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村上芽
村上 芽(むらかみ・めぐむ)
日本総合研究所 創発戦略センター シニアマネジャー

京都大学法学部卒。日本興業銀行(現みずほ銀行)を経て、2003年に日本総合研究所入社。ESG(環境、社会、ガバナンス)投資の支援、気候変動リスクと金融などが専門。著書に「図解SDGs入門」(日経BP)。