MUFG アイドルに学んだ「選ばれるディーラー」に必要なこと

働く女のランチ図鑑vol.45

三菱UFJ銀行
金融市場部カスタマーGr. 調査役 長瀬まどか(29)

新型コロナウイルス感染拡大の第1波が日本を襲った昨年3月、オフィスのフロアは連日、これまでにないほどの緊張感に包まれました。

「何でもいいからレート出して!」「あのお客様は大丈夫!?」

為替レートの急変を伝えるアラームが響く中、対応に追われる社員の大声が飛び交います。お客様からの問い合わせや相談が殺到して、電話は鳴りっぱなし。説明しようにも、レートを示すチャートは瞬きする間にどんどん動いていきます。誰もが予測していなかった事態に混乱を極め、あの時期は本当に大変な日々が続きました。

“為替のプロ”が相手のカスタマーディーラー

為替ディーラーは、大きく二つに分かれます。みなさんがイメージするような、為替取引を行うのが「インターバンクディーラー」。私たち「カスタマーディーラー」は、法人のお客様により良い取引ができるような提案をし、お客様の注文をインターバンクディーラーにつなげるのが役割です。

例えば、円高ドル安の時には、輸出企業のお客様に「ドルを投げ売りするのではなく、もう少し待った方が良い」とアドバイスしたり、アメリカ大統領選の前には過去の傾向を伝えて対策を勧めたり。担当しているのは一流企業20社ほどで、お客様は“為替のプロ”ばかり。相手の希望をとらえつつ、しっかりと自分の考えを伝えるようにしています。

やみつきタイ風カレーでリフレッシュ

お客様からの電話をなるべく取りたいので、なかなかデスクから離れることができません。昼食もデスクでささっと済ませることがほとんど。いつもはお弁当を持参していますが、気合を入れたい日に決まってデリバリーするのが、「レストラン サングリア」(東京・丸の内)のタイ風カレーです。

長瀬さんが実際に使っている職場のデスク

カスタマーディーラーは、お客様に何億円もの損失が出る恐れがあり、間違いは許されません。レートが動くと、集中して動きを追い続けなければならず、心身ともに疲れることもあります。そんな時に辛いものを頬張ると、頭の中がスッキリしてリフレッシュすることができるのです。サングリアのカレーは、鼻を抜けるジャスミンライスの香りと絶妙な辛さが魅力。一度食べると癖になる味わいで、同僚にもリピーターが続出している逸品です。

祖父に憧れ銀行員に

小さい頃からバイオリニストになるのが夢でしたが、音大の受験直前に手首をケガして断念。大学の農学部に進み、馬術部の練習に明け暮れました。違う世界も見てみたいと、2013年に三菱東京UFJ銀行(現・三菱UFJ銀行)に入行しました。銀行員で博識だった祖父への憧れもあったと思います。

入社後は、3年ほど中小企業向けの営業を担当。融資などでお客様と密に関わる仕事に、とてもやりがいを感じていました。その後、17年に今の部署に異動しました。為替の商品を扱ったことはなく、興味があったわけでもありません。それなのに、担当するのは日本を代表する一流企業。自分に務まるのかと、不安ばかりが募りました。

客の心をつかむのは「抜け感」

実際に仕事を始めると、新たな悩みに直面しました。お客様は各行のディーラーから意見を聞いて、注文する銀行を決めます。プライス(買値・売値)は世界共通で、正直どこに頼んでも利益は同じです。差がつきにくい環境で、多くの競合相手の中から選ばれるための「自分らしさ」が分からなかったのです。

先輩の電話でのやりとりを聞き、トークをまねてみるなどいろいろ試したものの、うまくいきません。落ち込む日々が1年ほど続き、電話口で何人かのお客様に「長瀬さん、最近、声が暗くないですか?」と言われてしまって。「このままじゃダメだ」と強く思いました。

そこから、キャバ嬢をしているユーチューバーや人気アイドルの動画などを片っ端からあさり始めました。自分自身が「商品」である彼女たちを見れば、どうやってファンを増やしているのか知ることができると考えたからです。

分析するうちに、彼女たちの共通点が見えてきました。例えば、元モーニング娘。の鞘師さやし里保りほさんは、完璧なパフォーマンスで絶大な人気を誇る不動のセンターでした。でも、一番の魅力は、プライベートでは意外にドジっ子で、人一倍努力家であるところ。ほかにも「東大卒」の人気キャバ嬢などは、「抜け感」が人の心をつかんでいるのでしょう。

接客が良いと評判の百貨店に寄ったり、自動車の販売台数が日本一だというディーラーを訪ねたりしたこともありました。そこで見たのは、相手に不快な思いをさせないことや、たとえ自分の成績につながらなくても誠実に対応すること。自分が気持ち良いと感じた接客は、法人営業時代に自分が大切にしていたことでした。

「自分の軸を変えずとも、見せ方次第でうまくいくのかも」。自己マーケティングを取り入れながら、営業時代のスタイルを復活させた頃から、少しずつ悩む時間が減っていきました。

コロナで進むデジタル化、信頼関係がもっと大切に

新型コロナでデジタル化や在宅勤務が広がり、メールでしかやりとりできなくなったお客様がいます。しかし、大きな取引がある時など、お客様が私に電話しなければいけないタイミングは必ずあると思います。

困った時に電話をかける相手は、きっと信頼している人です。お客様と築く人間関係が大切なのは、これからも変わりません。連絡手段が変わっても、自分が培ってきた接客スキルは生かされると信じています。

(取材・読売新聞メディア局 安藤光里、撮影・稲垣純也

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生き生きと働く女性をクローズアップする「働く女のランチ図鑑」。職場での仕事ぶりや気になるランチの様子をお届けします。

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稲垣純也
稲垣 純也(いながき・じゅんや)
カメラマン

1970年愛知県生まれ東京在住。篠山紀信氏に師事。2002年独立。雑誌やWebを中心に主に人物撮影。得意分野は女性ポートレイト。

Junya Inagaki