コロナで崩れた「自分の市場価値」と「キャリアプラン」の幻想

キャリア小町その19

どこからともなく、クリスマスソングを耳にするようになりました。2020年は、新型コロナウイルスの感染拡大による緊急事態宣言もあり、自粛ばかりでアッという間に過ぎていくように感じている人も多いのではないでしょうか。

ちょうど半年前の今年6月、新卒で就職した広告代理店への不満で転職を考え、「キャリア小町」を訪れた早紀さん(29)が、12月上旬に再び訪ねてきました。

広告代理店の営業として頑張ってきた早紀さんは、新型コロナの影響で異動も昇進も白紙になり、会社への不満を募らせていました。ところが、いざ転職活動を始めてみると、労働環境や待遇の面での自社の魅力に気付かされました。そして、再びモチベーションを取り戻した早紀さんは、転職をせず、以前にも増して精力的に仕事に励むようになったそうです。

ただ、早紀さんは、在宅勤務やリモート会議など、働き方の変化に対応するので精いっぱいだったと振り返ります。自分の成長を感じることができず、もやもやした気持ちが再び膨らんできたというのです。

写真はイメージです

「30歳を目前に控え、自分自身の『市場価値』をもっと高めておいた方がいいと思うんです。何か資格を取ったり、特別なスキルを身に付けたりしないと、このままでは必要とされなくなってしまいそうで心配です。この先、マネジメント能力を身に付けるのか、スペシャリストとして専門性を高めていくのか……」

山頂を目指すか、先の見えない川を下るか

こんにちは、キャリア小町オーナーの土屋です。今回の早紀さんの相談は、職場環境や待遇などに大きな不満はないものの、自分のキャリアの方向性や専門性に迷っているという内容です。早紀さんのように、転職市場でよく使われる「自分の市場価値」という言葉に振り回されている人も少なくありません。

キャリア形成は「山登り」と「川下り」に例えられることがあります。「山登り型」は、山頂を目標と定め、そこに向けて計画を立て、まっしぐらに進んでいく様子を指します。「川下り型」は、どの海へつながっているか分からないけれど、流れに乗って、必死でオールをこいでいるイメージです。いつの間にかしっかりと力をつけ、大海原へたどりついているのです。

キャリアの方向性や専門性に迷いが生じた場合、20代のうちは「川下り型」で目の前にある課題や困難を乗り越えていくことを勧めます。一生懸命取り組んでいくことで、ふと振り返ってみると、専門性を身に付けているということは珍しくありません。その経験の中には、自らが仕事をする上で大切にしてきた「価値観」もあるはずです。

明確なキャリアプランは必要か?

働く若い女性から、「将来の目標を立て、長期的なキャリアプランを考えたい」という相談を受けることが多くあります。しっかりと仕事に打ち込んでいるのに、「このまま働いていても先が見えない」と不安が付きまとっているのです。

以前にも紹介しましたが、キャリア理論に「プランド・ハプンスタンス」という考え方があります。変化が激しく、先が読みにくい時代において、明確なキャリアプランは必ずしも必要ではなく、キャリアの8割ほどが「予期しない偶然の出来事や出会い」から切り拓かれていくというものです。

私たちは新型コロナを経験し、どんなに緻密(ちみつ)な計画であっても、変化せざるを得ないことがあるという体験をしました。ゴール自体が変わる可能性もあります。目の前の変化に懸命に対応してきた早紀さんは、それだけでも、柔軟性や状況対応力など多くの力を身に付けているはずです。困難な状況が続いた2020年に「できなかったこと」を数え上げるのではなく、「できたこと」を振り返り、自信へつなげてください。

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「自分の市場価値」にぶれない

転職エージェントからの「自分の市場価値を高めよう」といったアドバイスを真に受けて、慌てて資格取得に走ったり、マーケティングやプレゼンテーションなどのスキルを身に付けたりしようとする人も見受けられます。

果たして、それらは本当にあなたのやりたいこと、身に付けて伸ばしたいスキルでしょうか? もちろん、学び直しの「リカレント教育」が見直されている時代に、学習意欲を持っていることは素晴らしいと思います。ただ、周囲のアドバイスやイメージに焦って、自分に不向きなスキルを身に付けるのは、時間がもったいないとも言えます。

目を向けるべきは、経歴や資格といった外側で判断する「市場価値」よりも、自らの内側にある「強み」や「価値観」です。これまでの「できたこと」「うれしかったこと」「乗り越えたこと」などの経験を振り返り、働く上で大切にしてきた「価値観」を明確にすることが大切です。どんなに学び直しをしても、新たな資格を取得しても、それらが自分の価値観と異なっていれば、その力は無駄になってしまいかねません。

自分の「強み」は、日ごろから当たり前に発揮していることも多く、自分では気付かないというケースもあります。上司や同僚、友人などに聞いてみるのもお勧めします。他人から改めて言われることで、それが自信へとつながることもあります。

定期的なキャリアメンテナンスを

キャリアについて真剣に考えている人ほど、「ビジネススキル」や「市場価値」といった言葉につい惑わされてしまいがちです。自分らしいキャリアを考えるには、自らの特性や持ち味に目を向け、それを磨き続けることです。

早紀さんのようにモチベーションを取り戻して仕事に打ち込んでいれば、自分の気持ちに向き合う暇もなく、誰にも相談せず、ぼんやりした不安を抱えたままの状態で走り続けている人が多くいます。

キャリアカウンセリングは、そんな時の駆け込み寺です。定期的に健康診断を受けるような感覚で、自らのキャリアメンテナンスを心がけてください。今年のもやもやは、今年のうちに解消! スッキリとした気持ちで新年を迎えましょう。

※「キャリア小町」は架空のサロンですが、実際の相談をもとに事例を紹介しています。

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土屋美乃
土屋 美乃(つちや・よしの)
国家資格キャリアコンサルタント、エスキャリア代表取締役

1983年東京・八王子市生まれ。慶応義塾大学商学部卒業後、リクルートエージェント(現リクルートキャリア)入社。営業や自社の新卒採用担当として、転職や就職という人の人生の転機に関わる。リーマンショックを機に、転職のみをゴールとせず『自分らしく生きる』ことをテーマとするキャリアコンサルタントとして独立。2011年東日本大震災後に自らの天職を形にすべく、エスキャリアを設立。主にライフイベント期の女性のキャリア支援を行う。

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