東レ 「日本一」が通じない海外で学んだ営業スキル

働く女のランチ図鑑vol.43

トレビーノ海外販売課 伊佐綾乃(35)

「水道水が、飲めるくらいキレイになるはずがない」。海外でそう言われた時には、墨汁入りの真っ黒な水を当社の家庭用浄水器「トレビーノ」に注いでみせます。ろ過されて透明になった水がサラサラと流れてくると、周りから歓声が上がり、一気に興味を持ってもらえるんです。

トレビーノは、人工透析に使う素材を使って水を浄化しているそうです

2011年に入社してからずっと、トレビーノを海外に売り込んでいます。国内では6割以上のシェアを占めるナンバーワンのブランド。しかし海外では、トレビーノどころか、浄水器そのものを知らない人が珍しくありません。

「水道水は汚いもの」と考える人たちにトレビーノの魅力を伝えるためには、「ビジュアル化」するのが効果的です。フィリピンのテレビ通販番組に出て実演したこともあれば、商品のデザインをろ材の汚れが見えるように変えたこともあります。新型コロナで海外出張はなくなり、今はオンラインでのやりとりになりました。

ライトダウン必須のシンガポールで食べるもの

営業にとって、国や地域ごとの「水事情」を知ることは欠かせません。そのために、出張した時には必ず、現地のスタッフや仕事相手をご飯に誘って話を聞くようにしています。「食」は、水と切り離せないテーマですし、食卓を囲むと話も盛り上がりやすいですから。「料理する時には、どんな水を使うの?」「水道水で困っていることはある?」。こういった話題から、仕事のヒントをもらうこともあります。

ただ、ミーティングや会食などが続き、出張中は一人の時間がなかなかありません。シンガポールで隙間の時間ができると、ふらっと立ち寄っていたのが「バクテー」専門店です。ムワッとした熱気が立ちこめる異国情緒たっぷりの街。その一方、建物の中は、どこもクーラーがガンガンに効いて、年中ライトダウンジャケットが欠かせません。

シンガポールで食べたバクテー(伊佐さん撮影)

バクテーは、骨付きの豚肉を、花椒(ホアジャオ)などの香辛料やニンニクと一緒にコトコト煮込んだ料理。スープを飲むと、ニンニクと香辛料の香りが鼻を抜け、冷えた体がじんわりほぐれます。

日本円で700円ほど。スープはおかわり自由で、店員がスープの入ったヤカンを持って、注いで回ってくれます。食べ終える頃には、上着が要らなくなっていますね。

ボストンで「ビビッ」ときた出会い

高校卒業後に渡米し、11年に現地の大学を卒業しました。現地の法律関係の企業で働いたこともありましたが、リーマンショックの影響で日本に戻ることに。ボストンで開かれた留学生向けの企業選考会で、東レの仕事を知りました。環境学が好きだった私は、水処理事業や環境にやさしい繊維作りに取り組む東レに「ビビッ」ときて。その場で採用担当者にエントリーシートを渡し、11年に入社しました。

日本以外でトレビーノを扱っていたのは当時、香港、台湾、シンガポールくらい。この10年間で東南アジアのタイやベトナムのほか、中国やヨーロッパにも広がりました。それだけ聞くと、「バリキャリ」と思われるかもしれませんが、全然そんなことはなくて。たくさん失敗もしました。

「日本一」が通じなかった初営業

入社して初めて営業を任された時のこと。シンガポールの百貨店にお試しで出店することになり、意気揚々と現地に向かいました。売り子として現場に立ち、「日本で一番売れている浄水器です!」とアピール。ところが、初日は一台も売れなかったんです。

日本では売り場に立つだけでお客様が声をかけてくれたのに、店の設営場所を変えたり、必死でチラシを配ったりしても、ほとんどの人は売り場の前を素通りするだけ。「航空券代がかかっているのに……上司になんて報告したらいいだろう」。頭の中が真っ白になりました。

途方にくれて、他の売り場の見知らぬ女性たちに声をかけると、マイボトルがはやっていて、煮沸したお湯をボトルに入れていることが分かりました。試しに「煮沸する手間なしで、キレイな水をボトルに注げる」と呼びかけた結果、やっと子連れの若い女性が買ってくれました。

大切なのは、現地をよく理解することだったんですね。それからは、あえて現地の企業や代理店をビジネスパートナーに選び、彼らの声を取り入れながら商談を進めるようになりました。 

正確に言えば、この経験を「失敗」とは思っていません。失敗した時の方が、学べることややるべきことが見えてくる。それを改善できれば、次の仕事につながる「過程」になるからです。そうして小さな成功体験を積み重ねてきました。

世界中に「喜び」と「日本の技術力」を

いずれアフリカに進出してみたいという野望を抱いています。「最後の巨大市場」と言われるアフリカは、各国から企業進出が相次ぐなど注目が集まっています。都市開発によって水道水が飲めるエリアもあるそうです。

キレイな水って、どこに行っても必ず需要があります。日本から遠く離れた場所でトレビーノを売ってお客様に喜んでもらうと同時に、日本の技術力の高さも広まっていく。その一端を担うことができると想像するだけで、わくわくしてきます。

取材/読売新聞メディア局 安藤光里、撮影・稲垣純也)

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生き生きと働く女性をクローズアップする「働く女のランチ図鑑」。職場での仕事ぶりや気になるランチの様子をお届けします。

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稲垣純也
稲垣 純也(いながき・じゅんや)
カメラマン

1970年愛知県生まれ東京在住。篠山紀信氏に師事。2002年独立。雑誌やWebを中心に主に人物撮影。得意分野は女性ポートレイト。

Junya Inagaki