伊勢丹 どんな自分になりたいか? 感性を刺激、知識で後押し 

働く女のランチ図鑑vol.39

新宿店「リ・スタイル」副店長 山崎真奈(24)

「早く伊勢丹に来たいと思っていた」。新型コロナウイルスの影響で4月上旬から休業していた新宿店は5月30日に営業を再開すると、常連の女性客が声を弾ませて来店しました。バリバリと働いているキャリアウーマンの女性は、「ここに来ると、価値観や考え方がアップデートされるの」と目を輝かせます。コロナで休業を経験したことで、改めて私たちが求められていることを実感できました。

就職して間もない頃、「友人の結婚式に着ていく服を探している」という若い女性を接客しました。昼の披露宴では、短めのミニ丈のスカートや胸元の大きくあいた露出度の高いドレスなどはNG。殺生をイメージさせるファーもマナー違反とされています。

こうしたルールを十分に把握していなかったため、先輩の販売員に確認するなど時間がかかり、お客様を待たせてしまいました。ファッションは個性や自己表現のツールではありますが、ルールやマナーに配慮した表現が必要だと痛感しました。お客様により良い提案をするには、知識が不可欠だと心に留めています。

新型コロナの流行前は、インバウンド(訪日外国人客)で混雑する店内で、きめ細やかな接客ができずに悩むこともありました。 新型コロナの影響で客足が伸び悩む一方、最近では来店客のうれしそうな反応にやりがいを改めて感じています。

横浜市で育ち、アパレル関係で働く両親の影響で、幼い頃からファッションを身近に感じていました。大学では経済を勉強しましたが、「好きなことを仕事にしたい」とファッション業界に飛び込む決意をしました。就職活動を機に初めて伊勢丹新宿店を訪れると、商品のレイアウトや装飾に圧倒され、「ここで働きたい」と強く思うようになりました。

お客様に合うものを見極める感性

今年4月、新宿店本館の3階にあるセレクトショップ「リ・スタイル」の副店長に抜擢され、SNSによる情報発信も担当することになりました。22人の販売員のマネジメントや顧客対応に責任者として努めています。

ファッション感度の高い女性をターゲットとしているリ・スタイルは、スタイリスト、バイヤーらがテーマを設定し、自己表現を模索しているお客様のニーズに応えるセレクトショップ。複数の感性が集い、それぞれ刺激しあうというコンセプトです。

有名デザイナーの企画販売などには、お客様が殺到する可能性もあります。新型コロナの感染対策は、お客様とスタッフの安全を守る上で重要なミッションの一つ。オンライン先行販売などの商品もあり、SNSなどを介して問い合わせに応じることも珍しくありません。着用時の雰囲気が伝わるように、インスタグラムでも自らがモデルとなって発信を続けています。こうした取り組みは、百貨店の古いイメージを変えることにもつながっています。

店内の商品を試着し、自らインスタグラム用に撮影する(伊勢丹新宿店で)

店頭で接客していると、「お客様に合うもの」を見極める感性が磨かれます。ライフスタイルやワードローブの中まで把握し、この洋服を着てどこへ行きたいのか、どんな表現をしたいのか、どんな自分になりたいのか……。お客様の意思をくみ取った上で提案するように心がけています。

「このスカートで食事に行ったわ」「このデザインがきっかけで新しい自分のスタイルを知った」。後日、来店されたお客様からこんなふうに言われ、自信に満ちあふれたその表情は、私の刺激になります。

恋人との別れを惜しむように

接客をしていて、ふと思い出すことがあります。中学1年から就職するまでの10年間習っていた茶道です。茶道は個性を必要とされていません。一から十まで同じ所作で行います。畳の幅に合わせて何歩で進む、ここは右脚でまたぐ……など。

それでも、「正座なんかしたくない」「早く家に帰りたい」と荒ぶった気持ちでは、たとえ型通りにやっているつもりでも、抹茶が溶けきっていないような粗い仕上がりになります。それが、心穏やかに落ち着いた気分で点てたお茶は、繊細で甘みがあり、まろやかになります。没個性の茶道であっても、必ず味に個性が表れるんです。

茶道の先生から、「ものを手から離すときは、恋人との別れを惜しむように余韻をもって」と繰り返し教え込まれました。カウンターで商品を手渡すとき、クレジットカードをお返しするとき、試着品を差し出すとき、先生の言葉を思い出します。

一つひとつの動作に心を置くようなイメージで振る舞うことで、お客様への礼儀や感謝を伝えられ、それがファッションに対する共感や信頼へつながると信じています。

伊勢丹新宿店の前でポーズを決める山崎さん

見たことも触れたこともない発見

ランチは、近隣の飲食店を利用することが多くあります。新宿には、おいしいラーメンや手軽なファストフード、エスニックなど何でもそろっています。

自宅では簡単に済ませてしまったり、偏った食事になってしまったりするので、外食のランチは、栄養素をバランス良く取れる食事を心がけています。

近くの伊勢丹会館に入っている和食料理店「あえん」は、便利でお気に入りの店の一つ。肉や魚だけでなく旬の野菜をしっかり食べられる定食があるので、つい何度も足が向きます。

「あえん」のランチ定食

ランチタイムなどの一息ついたときに、ファッション業界の未来を考えてみることもあります。伊勢丹は敷居が高いと思われる人もいます。「伊勢丹に行ってみたいが、そこへ着ていく服はどこで買えばいいんだ?」なんて冗談を聞くこともあります。

私自身も最初は恐れ多くて、このフロアを歩けませんでした。自宅や職場の生活圏内にとどまっていたら見ることも触れることもない発見ができ、価値観を揺さぶられるような体験ができるからだと思います。

常に新たな発見や刺激を求めるお客様に、さまざまな感性を集めた場を作っていきたいと思っています。ファッションのプロとして、もっと勉強を重ね、それぞれの商品について、素材や技術などの知識とともに、誕生の背景やプロセスなどのストーリーを熱っぽく伝えられるようになりたいと考えています。

黒いジャケットに合わせた黒のマスク

新型コロナの影響で、色やデザインに富んだマスクが増えました。ファッションアイテムの一つとして、服装に合わせたマスクコーディネートに挑戦してみてください。

(取材・鈴木幸大、撮影・稲垣純也)

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生き生きと働く女性をクローズアップする「働く女のランチ図鑑」。職場での仕事ぶりや気になるランチの様子をお届けします。

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稲垣純也
稲垣 純也(いながき・じゅんや)
カメラマン

1970年愛知県生まれ東京在住。篠山紀信氏に師事。2002年独立。雑誌やWebを中心に主に人物撮影。得意分野は女性ポートレイト。

Junya Inagaki