育休明けに職場復帰したら「名前」と「やりがい」を失った理由とは

キャリア小町その14

育休明け、時短勤務になった途端、業務ボリュームの軽減のみならず、責任も軽度な業務へ異動となり、仕事への意欲がそぎ落とされてしまうケース。これは、働く女性から多く寄せられる相談の一つです。

仕事に対する価値観や考え方は、夫婦でも異なることは珍しくありません。お金を稼ぐためと割り切るか、はたまた、自分の強みや持ち味を生かして自己実現や社会貢献をしたいのか。あるいは、有名な企業に勤めることを望むか、知名度の低い会社でも自分の存在意義を感じられる業務がいいのか……。仕事に何を求めるかは、人によって価値観は様々です。

手厚い福利厚生、申し分ない条件なのに

パートナーと仕事の価値観にズレを感じ、だれにも相談できずに悩んでいる、都内の大手IT企業勤務の美智子さん(35)。この春、育休から時短勤務で職場復帰をしたそうです。ただ、育休前に所属していた、直接クライアントへフォローアップを行うクライアントサポート業務ではなく、社内の営業サポートを行う部署に復帰となりました。

美智子さんが勤める会社は、社員数も多く、就職先人気ランキングに入るような、いわゆる「優良企業」です。大手ならではの手厚い福利厚生で、育休を約2年にわたって取得することもできました。時短になった分、給料は以前より下がったものの、労働条件は申し分ないと思っています。

以前はクライアントから、「美智子さんのおかげで助かりました」「美智子さんに提案してもらったアイデアが採用されました」などと感謝の言葉をかけてもらっていました。それは、日々の業務の励みとなり、やりがいと感じていました。ところが、育休明けの職場では、名前で声をかけられることがなくなり、「サポートさん」と呼ばれるようになりました。

「名前も呼んでもらえない。誰がやっても同じような業務。やりがいを見いだせなくなってしまいました。そのことを夫にこぼしたら、『せっかく良い環境で仕事をさせてもらえているのだから、子育て中くらいは条件重視でがんばるしかないだろう』と聞く耳を持ちません」

美智子さんは、自分の本音と夫の考え方とのギャップを感じ、誰にも相談できずに葛藤を抱えてきたそうです。

仕事にやりがいを求めてはいけないの?

こんにちは、キャリア小町オーナーの土屋です。育休明け、時短勤務になった途端、業務ボリュームの軽減のみならず、責任も軽度な業務へ異動となり、仕事への意欲がそぎ落とされてしまうケース。これは、働く女性から多く寄せられる相談の一つです。

上司としては、「幼い子どもを抱えているのだから、仕事の負担や責任を軽くし、何かあったらすぐに帰宅できるように……」と配慮した上で、第一線の仕事ではなく、サポート的なポジションで育休明けの女性社員を迎えるというパターンです。

とはいえ、会社で自分の存在意義を感じながら働いていた女性にとっては、「名前も呼ばれない業務」「誰でもできそうな仕事」では、やりがいを見いだせないばかりか、屈辱的とさえ思ってしまうものです。やっかいなのは、上司も良かれと考えた上での配置転換なので、「まさかそんな気持ちだったとは想像もしていない」ということです。

美智子さんは、「できれば、元のクライアントサポートに戻してほしい」と異動願いを出しているものの、すぐに希望がかなえられる見込みはありません。直談判した男性上司には、「子育ても大変でしょ」と適当にあしらわれ、夫には「今より条件のいい会社なんてない。ぜいたくだ」と諭されます。

写真はイメージです

「子育て中の女性は、仕事にやりがいを求めてはいけないのでしょうか……」とため息を漏らす美智子さん。誰にも今の気持ちを話すことができず、本心を押し殺して仕事を続けてきました。「サポートさん」と呼ばれるたびに、「かわいい盛りの我が子を預けて、真面目に働いているのに、どうして……」と葛藤し、笑顔を引きつらせます。

自分は何を優先させたいタイプなのか?

このようなケースの場合、「キャリアアンカー」という概念で、今の自分が大切にしたいことの優先度を確認することが大切です。転職して会社を去るのも、しばらく今の職場に残るのも、自分の価値観に照らし合わせた選択だと腹落ちすれば、釈然としない気持ちが和らぐはずです。

キャリアアンカーとは、仕事の経験を意味する「キャリア(career)」と船の錨(いかり)を意味する「アンカー(anchor)」を組み合わせた言葉です。米マサチューセッツ工科大学の組織心理学者であるエドガー・シャイン博士が提唱しました。「仕事の条件でこれは譲れない」「子どものためでもこれだけは犠牲にしたくない」といったような、個人がキャリアを選択する際に最も大切にしたい価値観を意味します。

キャリアアンカーは、次の8つのタイプに分類されます。

〈1〉管理能力・・・組織を統率するマネジメントなど経営を目指すタイプ

〈2〉専門・職能別能力・・・特定の分野のエキスパートを目指すタイプ

〈3〉保障・安定・・・大企業などに属し社会的・経済的な安定を求めるタイプ

〈4〉起業家的創造性・・・新しいものを生み出す起業家や芸術家、発明家タイプ

〈5〉自律と独立・・・組織のルールや規律を嫌い、自分のスタイルで仕事を進めるタイプ

〈6〉奉仕・社会貢献・・・仕事を通じて世の中を良くしていくことを目指すタイプ

〈7〉チャレンジ・・・困難に挑戦すること、そこから受ける刺激に喜びを感じるタイプ

〈8〉ワークライフバランス・・・仕事とプライベートの両立を重視するタイプ

自分がどのタイプなのか、「キャリアアンカー」で検索してみれば、無料で診断できるサイトが見つかります。自らを再確認するために、ちょっと試してみるのもいいでしょう。価値観の優先順位はキャリアアンカーだけとは限りませんが、一つの指標として参考になると思います。

写真はイメージです

誰でもできそうな仕事では不満

美智子さんのキャリアアンカーを分析していくと、「専門・職能別能力」でした。特定の分野で能力を発揮し、自分の専門性や技術が高まることに幸せを感じるタイプです。だから、「誰でもできそうな仕事」では不満が募るのは当然ですね。

キャリアアンカーが何かを知れば、自分に向いている業務を選び直すこともできるようになります。その結果、どのような道に進むかに正解はありません。「休職して子育てに専念したい」という選択もあれば、「時短勤務で仕事を続ける」という考えもありです。いずれにせよ、美智子さんは「専門・職能別能力」を発揮したいタイプですから、オンラインの子育てコミュニティーなどに参加するなど、情報収集の機会をうかがい、仕事につながるような専門的な知見を広げていくと良いでしょう。

身近なパートナーの意見がもっともであるように思ったり、世間から大手企業の労働環境は恵まれていると見られたりするかもしれません。ただ、それが必ずしも自分のキャリアアンカーに合致するとは限りません。「不満を言うなんてぜいたく」「もっと条件の悪い職場がある」「育児中だから仕方ない」などと自らを抑え、本心を閉ざしてしまう女性は少なくありません。

どうしても譲れないものは何か――。他人の意見に振り回されず、だれかのせいにせず、自分の心の声に耳を傾けてみてはいかがでしょう。

※「キャリア小町」は架空のサロンですが、実際の相談をもとに事例を紹介しています。

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土屋美乃
土屋 美乃(つちや・よしの)
国家資格キャリアコンサルタント、エスキャリア代表取締役

1983年東京・八王子市生まれ。慶応義塾大学商学部卒業後、リクルートエージェント(現リクルートキャリア)入社。営業や自社の新卒採用担当として、転職や就職という人の人生の転機に関わる。リーマンショックを機に、転職のみをゴールとせず『自分らしく生きる』ことをテーマとするキャリアコンサルタントとして独立。2011年東日本大震災後に自らの天職を形にすべく、エスキャリアを設立。主にライフイベント期の女性のキャリア支援を行う。

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