35歳転職限界説よりやっかいな「失敗してはならない」の呪縛

キャリア小町その10

新型コロナウイルスの感染拡大や九州地方に甚大な被害を及ぼした「令和2年7月豪雨」など、このところ、気持ちの沈むニュースばかりです。こうしたご時世を反映してか、「このままでいいのだろうか」「いつまでこんなこと続けていくのだろう」「何か始めなくていいのかしら」などと、不確かな将来にぼんやりとした不安を口にする人が増えています。

一生続けていきたい仕事じゃない

都内の大手IT企業でエンジニアとして働く未来さん(35)。大学時代にウェブデザインを学び、業界トップクラスのネームバリューや安定性にひかれて、現在の会社に入社を決めました。仕事は想像以上に忙しく、残業や休日出勤も珍しくありません。真面目で、きちょうめんな性格。新しい知識を学ぶ姿勢も欠かしません。社内でも評価され、サブリーダー、プロジェクトリーダー、マネジャーへと昇進。一昨年には、会社の同僚と結婚しました。

ところが、未来さんは「今の仕事は好きでも嫌いでもない。一生続けていきたいと思うほどの愛着もない。ただ、このままほかに特別やりたいことも、能力があるわけでもない。今後もこの仕事を続けていくのか悩んでいます。もう35歳ですし、出産や子育てなどプライベートも気になります」とため息をつきました。

会社からは女性初の役職者として嘱望されています。周囲の期待がある反面、未来さんは、多忙なエンジニアとして働き続けるモチベーションを維持できないでいます。「先日、上司から『最近、元気ないじゃない。以前は楽しそうに仕事をしていたのに』と言われてしまいました」。職場の期待と本人の気持ちにギャップが生じています。

写真はイメージです

「~しなければならない」という自己抑制

こんにちは、キャリア小町オーナーの土屋です。未来さんと会話を重ねていると、「仕事はちゃんとこなさなければならない」「絶対に失敗してはならない」「すべての従業員から嫌われないようにしなければならない」などと、自己を抑制し、否定してしまっている様子が垣間見えます。

このような考え方は、「イラショナルビリーフ」(非合理的な信念)と言われます。身の回りに起きている出来事と自分の感情は、常に直結していると思っていませんか? 人の感情は、ある出来事を体験した結果として生じるものというわけではなく、出来事と感情の間には、人によって異なるビリーフ(信念、物事の捉え方)が存在しているのです。

未来さんには、「他にやりたいこともなく、35歳になったので、好きではなくても割り切ってエンジニアとしてやっていくべき」「期待されているのに、逃げることはよくない」といったような、イラショナルビリーフが散見されました。

自分の年齢に対しても否定的な見方をしているようです。たしかに、「35歳転職限界説」はかつて、まことしやかに言われたこともあります。ただ、「人生100年」と言われるようになり、今はいくつになっても仕事や育児の経験は評価され、活用できる時代です。

未来さんは、十分な経験があり、同業他社でも十分に活躍できるでしょう。10年以上働き続けた未来さんであれば、ITエンジニアとしてのテクニカルスキルのみならず、実行力やコミュニケーション、リーダーシップなど多くのポータブルスキルを兼ね備えているはずです。他職種への転職も難しくないはずです。

仕事を楽しめない自分に嫌悪感

上司から「元気がない」との指摘を受け、未来さんは仕事を楽しめていない自分に気付き、自己嫌悪に陥っています。「楽しそうに仕事をしていると見られなければならない」「職場で元気がなければ、評価が下がってしまいかねない」といったネガティブな思い込み(イラショナルビリーフ)にとらわれています。

しかし、上司は何げない気づかいで声をかけたに過ぎないかもしれません。自分の思い込みが、結果として否定的感情を芽生えさせ、思い悩むことにつながっているのであれば、非合理的な考え方を、合理的な考え方(ラショナルビリーフ)に変える必要があります。

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「35歳なら、就職して10年あまり。この先、3~4倍の期間のチャンスが待っている」と考えてはいかがでしょう。出産、育児、転職など一つひとつの出来事について、「~でなければならない」と自らを縛ってしまうよりも、「予定通りにいかなくてもいい」「ちゃんとしてなくてもいい」と信念を少し変えるだけで、気持ちが楽になるかもしれません。

転職だけがすべてではない

長期的なキャリアを考えて、未来さんは、「今の仕事にこだわらない」「別のことにチャレンジしてみたい」という思いもあるようです。ただ、これといって明確にやりたい何かがあるわけではなく、具体的な行動に移すことができず、もやもやとした気持ちを抱えています。

仕事というのは、ただ、「やりたいこと」や「楽しいこと」に携われればいいというものでもありません。未来さんは、大学時代にウェブデザインを自発的に学んでいたため、やはりウェブデザインの仕事には未経験ながら関心があるようです。

もやもやとした今の気持ちを解消するには、転職だけを考える必要もありません。可能性を広げ、一歩前に進むために、「パラレルキャリア」という考え方もあります。複数の仕事を同時進行する考え方です。稼ぐことを目的にせず、経験してみることです。副業を推奨している会社へ身を置くのもおすすめです。

いきなり未経験の仕事や場所へ身を置くのは大変ですから、副業サイトやオンラインビジネスなど、興味のある分野を探してみてはいかがでしょう。がむしゃらに取り組んできた30代は、仕事やプライベートで先行きの不安を感じる時期です。「いまさら」とか「もう失敗できない」と二の足を踏むことも珍しくありません。でも、これまでの経歴と長所を客観的に見直してみてください。

※「キャリア小町」は架空のサロンですが、実際の相談をもとに事例を紹介しています。

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土屋美乃
土屋 美乃(つちや・よしの)
国家資格キャリアコンサルタント、エスキャリア代表取締役

1983年東京・八王子市生まれ。慶応義塾大学商学部卒業後、リクルートエージェント(現リクルートキャリア)入社。営業や自社の新卒採用担当として、転職や就職という人の人生の転機に関わる。リーマンショックを機に、転職のみをゴールとせず『自分らしく生きる』ことをテーマとするキャリアコンサルタントとして独立。2011年東日本大震災後に自らの天職を形にすべく、エスキャリアを設立。主にライフイベント期の女性のキャリア支援を行う。

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