LINE稲垣あゆみ、悩んで立ち止まるより先に進もう

成功をもたらしたこの一冊

今や私たちの日常に欠かせない存在になっているコミュニケーションアプリ「LINE」。サービスを企画開発したメンバーで上級執行役員の稲垣あゆみさんは、エネルギッシュに会社を前進させています。LINEの成功と同時に、生き方に迷う自身の支えとなったのが、米フェイスブックのシェリル・サンドバーグ著「LEAN IN」だったそうです。

「女性ならでは」と言われたくない

――LINEは2011年に誕生しました。開発担当者として、20代で「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2013」(ヒットメーカー部門)を受賞しています。今回、女性向け媒体の取材を受けるのは、久しぶりだそうですね。

受賞したとき、LINEが評価されたことはうれしかったのですが、取材をたくさん受けて、「スタンプは、女性ならではのアイデアですよね」というように、「女性だから」とか「女性らしい」と言われることに抵抗があって。果たして、男性にも同じように聞くのかな、と思ったのです。それから、あまり取材を受けなくなっていたんです。

――現在は上級執行役員とのことですが、担当している分野は何でしょうか。

LINEプラットフォームの企画、スタンプ事業、フィンテックのサービス企画など幅広く担当しています。プロダクトマネジャーの採用や育成などにも力を入れています。

LINEの前身であるネイバージャパンに入社したときは、200人弱の会社でしたが、10年で国内4000人、グローバルで9000人の会社に急成長しました。だんだん、大企業っぽくなってきて(笑)。最近は、役員同士のワークショップの開催や、つながりをつくるシャッフルランチを企画し、組織文化づくりやコミュニケーションの活性化にも取り組んでいます。

やる前に立ち止まらない

――「LEAN IN」は、いつごろ読んだのですか。

「LEAN IN 女性、仕事、リーダーへの意欲」(日本経済新聞社)は、フェイスブックの最高執行責任者シェリル・サンドバーグが2013年に出版しました。タイトルは、女性ひとりひとりが一歩を踏み出そうというメッセージ。

日本語版が出たときに、速攻で買いました。アメリカで話題になっていることは知っていたので。私が仕事を通じて感じていたことに近いことが書いてありました。

女性が意見を言うと批判や不満ととられるのに、男性が言うと意見とみられるとか、チャンスがあっても男性に比べ、女性は引いてしまうといった現実にぶつかるわけです。こういうことって、どこの会社にいてもあるだろうし、私自身の中にも無意識のうちにあると思います。それを淡々と、性別に関係なく理解できるよう書いているところがすばらしいですよね。

――どんな影響を受けましたか。

読んだのが、入社して3年くらいたったころでした。3年ぐらいで転職する人が多いので、「そろそろLINEもいいかな」というような話をしている時期でした。30歳ぐらいで子供を持つのかな、と漠然と思っていました。子供を産むのはどのタイミングがいいかなんて、頭で考えてもよくわからないし、作ろうと思っても、どうなるものでもないですけどね。

そんなときに「LEAN IN」を読んだら、先回りして悩んで立ち止まるなという趣旨のことが書かれていて。子供を産むかもしれないから身を引くという選択肢もあるだろうけれど、せっかくここまでやってきたのだから、私も先に進もうと決めました。今の社会の状況を変えるには、自分たち女性が上にあがらなければいけない。そのシンプルなメッセージが支えになりましたね。

――出産し、考え方に変化はありましたか。

2018年に出産後、職場復帰していろんなことに気づくようになりました。例えば、時短勤務。女性の場合、育休が終わって職場復帰する時に時短勤務を選択する人が多かった。だけど、女性が時短を選ぶことで、家事や育児は女性がやるものとして男女の役割が固定化されてしまう。それで家族が成り立ってしまうと、女性がキャリアを諦めてしまいかねない。LINEでは男性の育休取得も多く、男性が育児をすることが当たり前になるなかで、女性の勤務形態の選択肢が広がるように見直しました。

学生のころは男女で変わらないと思っていたけれど、働けば働くほど性差はあると感じるし、企業社会で女性は不利なことが多いと思う。ただ、男性も育児が当たり前になってきて、男性社員が育児しながら働いていても女性のようには配慮されないとか、反対に男性だからつらいと感じることも増えていくと思っています。

周りを巻き込んで真のリーダーに

――もうひとつの「この一冊」は、「リーダーシップの旅」(野田智義、金井壽宏著、光文社新書)。新入社員にも勧めているそうですね。

この本は、自分の価値観とぴったりなんです。リーダーになろうと思うのではなくて、自らをリードして、人々をリードして、社会をリードして、これをやりたい、やった方がいいと進んでいくときでないと、周りがついてこない。そういう考え方です。役員だからではなく、新卒でも同じこと。

私は子供の頃から自然と、周りを巻き込む力があったように思います。小学校6年生のときに美術展に向けて砂場で竪穴式住居を作ろうとなって、率先してみんなを集めてススキを刈りに行ったのを思い出します。学生時代のアルバイトやインターンでは、現場がうまく回るように考えてリーダーシップをとっていて、「裏店長」とか「裏社長」なんて呼ばれていました。でも、やり過ぎちゃって、目上の人や管理職の人のメンツをつぶしてしまうということもありました。だから20代のときは、「組織の上層部と対立しない」がテーマだったんですよ(笑)。

――これからやりたいこと、興味を持っていることは何ですか。

個人的には、会社の組織や家族のあり方にすごく興味があって、夫婦のパートナーシップやチームの関係性などに対してコーチングする「システムコーチング」というアプローチを学んでいます。仕事では、一緒に働いているみんながどう幸せに働けるか、やりがいがあって社会に認められる仕事ができるか、そのための仕組みやチャンスを与えられるようにしたいという強い気持ちがあります。

(聞き手・読売新聞メディア局 小坂佳子)

「成功をもたらしたこの一冊」シリーズは、こちらから。

稲垣  あゆみ(いながき・あゆみ)
LINE株式会社 上級執行役員 LINEプラットフォーム企画統括

大学卒業後、ベンチャー企業の立ち上げに関わったのち、バイドゥ株式会社(日本法人)勤務を経て、2010年ネイバージャパン株式会社(現・LINE株式会社)に入社。LINE立ち上げ当初より企画を担当し、15年4月、LINE企画室室長に就任。16年1月、最年少の33歳で執行役員に就任。19年1月、上級執行役員に就任。