なぜ、仕事のできる女性が自分を「詐欺師」と思い込むのか?

キャリア小町その4

新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、緊急事態宣言が発令されました。外出自粛要請が出された東京都においては、自宅にこもらざるを得ず、自分一人で考え込んでしまう20~30代女性が増えています。カウンセリングサロン「キャリア小町」は、オンライン相談に長い行列……はできないものの、予約待ちの状態が続いています。

リーダーに選ばれ板挟みに

コールセンターに勤務する麻衣さん(29歳)。従業員は女性ばかりで、和気あいあいとした雰囲気でお客の問い合わせに対応しています。「ゆとり世代」を自称するのんびりとした物腰の麻衣さんですが、意志の強そうな目元が印象的です。

麻衣さんは昨年、10年以上勤めてきたベテラン社員を追い越して、リーダーに任命されました。「会社のためになるように」と応対マニュアルを作ったことが部長に評価されたそうです。部長からは「業務改善につながるアイデアをどんどん進めてほしい」と求められました。

ところが、部長の期待に応えようとすると、これまで同じ立場でやってきた女性たちから煙たがられてしまいました。「せっかく、みんな仲良くやってきたのに……」とこぼす同僚もいます。

写真はイメージです

新型コロナウイルスの感染防止対策で、3月から自宅でのテレワークに切り替わりました。「メンバーが時間を持て余さないように、リーダーとして仕事の配分と管理をしっかりやってくれ」。部長からは厳しく言われました。オフィスで顔を合わせていた時は、部長ともチームメンバーともぎくしゃくしたことはなかったのに、今は毎日、板挟みになって頭を抱えています。

「私にリーダーの適性なんかなかったんです。こんな思いが続くんだったら、もう会社を辞めたい」

「自信がなかった」女性19.6%

麻衣さんは、自信をなくしてしまっています。こんにちは、「キャリア小町」オーナーの土屋です。テレワークや自宅待機、臨時休業など、仕事を取り巻く環境が変化し、戸惑っている方は多いのではないでしょうか。

麻衣さんの事例相談に入る前に、知っておいてほしいことがあります。それは、「日本人女性は全体として、自分に自信が持てていない傾向にある」ということです。仕事の能力について、男性より女性の方が低く見積もる傾向にあるということは、さまざまな研究や調査で明らかにされています。

例えば、トーマツイノベーションと立教大学経営学部の中原淳教授が実施した「働く男女のキャリア調査」(2016年)によれば、「自分の仕事の能力や成果に自信がなかった」と答えたのは、男性が15.4%だったのに対し、女性は19.6%でした。(「女性の視点で見直す人材育成」より)

また、オールアバウトとコーセープロビジョンが、ニューヨーク、パリ、ソウル在住のフルタイムで働く20~30代の女性と、日本人女性を対象に、「自信」に関する調査を2015年にそれぞれ実施した結果、「自信がある」と回答したのは、ニューヨークの女性が96.1%、パリの女性が82.5%、ソウルの女性が76.7%となったのに対し、日本人女性は38.7%にとどまりました。

「自信があるところはどこですか?」という質問で1位だったのは、ニューヨークで「仕事の出来」(57.8%)、パリでは「整理整頓」(39.8%)、ソウルでは「肌」(31.6%)でした。これに対し、日本では「特にない」(33.3%)が最も多い回答になっています。

いつも「正解」を探していませんか?

私は旅行が好きで、海外にも足を運ぶことがあります。他国から改めて日本を見ると、日本人は「完璧主義」と感じます。特に20~30代は、「答えは○○」と「正解」を重視する教育を受けてきた世代でもあります。周囲との協調性を重んじるため、「これでいいですか」「どうすればいいですか」となんでも答えを求めるような特徴があります。私も大学生くらいまで、「評価されなければ」「正解を出さなければ」と思い込んでいた時期がありました。

さて、麻衣さんの悩みは、「リーダーとしてやっていく自信が持てない」という相談です。これは、自己肯定感が低いことが原因と考えられます。初めて「リーダー」という役割を与えられ、何をすべきなのか、「正解」を探してしまっていないでしょうか?

リーダーに抜てきされたばかりですから、メンバーと腹を割って話し合いをしたり、膝をつき合わせて議論をしたり、食事の席でざっくばらんに意見を交わしたりできれば、改善したかもしれません。しかし、「3密(密集、密閉、密接)」を避けなければならない今の状況では、こうしたことは難しいでしょう。

コミュニケーションの手段が、いや応なくチャットやビデオ通話などに移行したため、意思疎通が思うようにいかず、戸惑ってしまう人もいるでしょう。在宅勤務になって、仕事がはかどるという人がいる一方で、思うように業務が進まないと自信を失っている人も少なくありません。

写真はイメージです

あの有名人も「詐欺師」に?

女性特有の性質として、もう一つ、「インポスター症候群」と呼ばれるものがあります。インポスターとは、英語で「詐欺師」や「ペテン師」を意味します。つまり、自分の仕事の成果が周囲から評価されても、「自分にはそのような能力はない」「成功は偶然か周囲のおかげ」「実際より能力があると他人を信じ込ませた」などと思い込み、自身を過小評価してしまう傾向のことを言います。

2013年に出版され、世界的なベストセラーになった『LEAN IN (リーン・イン): 女性、仕事、リーダーへの意欲』の著者で、フェイスブックの最高執行責任者(COO)シェリル・サンドバーグや、映画「ハリーポッター」シリーズのハーマイオニー役で知られる女優のエマ・ワトソン、ミシェル・オバマ前大統領夫人など、輝かしい功績のある女性たちが、「インポスター症候群」を告白しています。

こうしたケースを説明すると、「私もなかなか自分を認めることができていない」と、ハッとされる20~30代の女性が多くいます。麻衣さんもきっと、部長からリーダーに任命されるような仕事をしながらも、自分自身ではその功績を認められないのでしょう。だから、自信をもってチームを引っ張っていくことができずにいるのだと思います。そのうえ、和気あいあいとした職場の雰囲気を覆すような業務改善を進めようとすれば、多少のいさかいが生じるのは当然です。

同調圧力の中で育ってきた女性たち

日本の女性たちは、自分の意見をはっきりと相手に伝えるのが苦手な傾向があります。誤りを指摘したり、強く意見を主張したりすることは、組織の調和を乱す可能性があるためです。そうした態度は忌み嫌われ、協調や同調が求められるムードがあります。しかし、それではもう立ちいかないところまで、私たちは来ています。

大切なのは、「社会のためになる」「会社のためになる」「お客様のためになる」と気持ちを切り替え、思い切ってやってみることです。麻衣さんも、自分なりの考えをメンバーに話してみてはいかがでしょう。「部長に言われたので……」「会社の指示なので……」と言い訳めいたことを言っていては、メンバーは麻衣さんをリーダーと認めず、決して動きません。

また、「リーダーなのだから、正解を言わなきゃ」と思う必要もありません。それよりも、誠心誠意、自分の考えを言うことのほうが重要です。きっと、メンバーから共感を得られるはずです。せっかく上司から評価を得ているのに、「詐欺師」になって転職へ逃げ込んではもったいないですね。こんなときだからこそ、自分自身とチームメンバーに向き合ってみてください。

※「キャリア小町」は架空のサロンですが、実際の相談をもとに事例を紹介しています。

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土屋美乃
土屋美乃(つちや・よしの)
国家資格キャリアコンサルタント、エスキャリア代表取締役

1983年東京・八王子市生まれ。慶応義塾大学商学部卒業後、リクルートエージェント(現リクルートキャリア)入社。営業や自社の新卒採用担当として、転職や就職という人の人生の転機に関わる。リーマンショックを機に、転職のみをゴールとせず『自分らしく生きる』ことをテーマとするキャリアコンサルタントとして独立。2011年東日本大震災後に自らの天職を形にすべく、エスキャリアを設立。主にライフイベント期の女性のキャリア支援を行う。

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