上司のいない職場で見つけた大切なこと パナソニック・東江麻祐

働く女のランチ図鑑 vol.36

電機大手「パナソニック」(本社:大阪府門真市)にある「FUTURE LIFE FACTORY(FLF)」は、若手デザイナーを集めた珍しい部署です。チームの一員として活躍しているのが、東江あがりえ麻祐まゆさん(29)。「未来の豊かさを問い、具現化するデザインスタジオ」を標ぼうするこの部署の取り組みや、ランチの過ごし方について聞きました。

「幸せの最適化」を軸に

一見、丸みを帯びたかわいらしい懐中電灯のようなフォルム。FLFが開発したスマート知育玩具「PA!GO(パゴ)」です。カメラとAI(人工知能)を搭載しており、植物や動物など気になったものに先端を向けてボタンを押すと、それを説明する音声が流れます。さらに、記録した映像情報などをテレビに画像を映し出すこともできるそう。今夏、この体験キットを発売する予定といいます。

世界的なデザイン賞でも高く評価されたこの製品を手掛けたのが、FLFです。「『パナソニックらしさ』にとらわれ過ぎず、今は『幸せの最適化』を軸に活動しています」。東江さんはそう話します。

自主的にプロジェクト発起

洗濯機や車載カメラ、電子部品など、幅広い商品を展開するパナソニック。FLFは元々、家電部門を担う社内カンパニーの一部署でしたが、19年にカンパニーを横断する組織になりました。事業領域の垣根を越えてパナソニックの高い技術を生かすことで、これまでにないアイデアを生み出す役割が期待されています。

FLFでは、20~40歳代のデザイナーら6人が事業を展開しています。6人の中に、上司やリーダーはいません。それぞれが自主的にテーマを決めてプロジェクトを起こし、企画からモノづくりまでを一貫して行っています。

東江さんのテーマは、「言葉以外の方法で自分を知ること」。現在は、体温や表情、まばたきの回数などを分析するシステムを使い、感情や体調を可視化するプロジェクトを進めています。

好きの詰まった優しいランチ

FLFは年に何度か、展示会に試作品などを出品しています。展示会は、専門技術を持った部署や他社から事業化へのサポートを得るためにも重要な場です。昔から胃腸が弱い東江さん。展示会が近づくと、緊張のせいでおなかがキリキリと痛む日も珍しくありません。そういった時でも食べられるのが、おなかに優しいおかゆです。

ランチタイムには、持参したレトルトのおかゆを電子レンジで温めて食べるのが習慣です。毎日のように食べていると飽きそうですが、「ちょっとした工夫で、テンションが上がるんですよ」。

自宅でお気に入りの器を選んで職場に置いたり、よく食べるふりかけやおかずをおかゆにのせたり……。一見シンプルなランチには、東江さんの「好き」が詰まっています。

この日は、福島で買った海鮮ふりかけと、作り置きしていた豚キムチを添えました。皿は、地元の沖縄県読谷村よみたんそんで一目ぼれして買ったもの。6人でテーブルを囲むことが多いですが、韓流アイドルや政治の話など、話題がどんどん広がり、時間があっという間に過ぎてしまうそうです。

大きな裁量権と責任

東江さんは19年春まで、インターホンや防災機器といった住宅設備のデザインを担当していました。そこでは、企画担当者からのオーダーを元に、上司の判断やアドバイスを仰ぎながらデザインを仕上げ、上司が最終的なOKを出すのが通例でした。

ところが、上司のいないFLFでは、仕事のテーマやプロジェクトの進め方などを全部、自分で決めなければなりません。個人の裁量権が大きく、責任の重い仕事です。配属当初は、働き方の違いの大きさに戸惑う場面も多かったそう。自信が持てず、様々な人の意見に振り回されて、自分が正しいのかどうか不安になることもあったといいます。

「振り返ると、自分の直感的な判断が正しかったという経験があることに気づいて。プロジェクトの全体を把握できているのは私だけ。もらった意見は一度かみ砕いて考え、意見に対して自分が持った違和感も大切にするようになりました」と話します。

自動化や合理化、利益・・・本当のゴールは?

プロジェクトは1年かけて具現化を目指しますが、途中で頓挫するものもあり、仕事の成果がすぐには見えづらい側面があります。東江さん自身、配属後に3つのプロジェクトを立ち上げましたが、残っているのは1つだけ。それでも、「今までの人生の中で、モチベーションが一番高い。モチベーションを維持するというより、沸々と湧き上がってくる感じです」と言い切ります。

「自動化や合理化、目先の利益ではなく、『幸せ』を本当のゴールにしているから気持ちが揺らぐことはありません。私たちの活動が、会社にも人にもエネルギーを与えて、未来の役に立てればいいなと思います」

(聞き手/読売新聞メディア局 安藤光里、撮影/稲垣純也)

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生き生きと働く女性をクローズアップする「働く女のランチ図鑑」。職場での仕事ぶりや気になるランチの様子をお届けします。

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稲垣純也
稲垣 純也(いながき・じゅんや)
カメラマン

 1970年愛知県生まれ東京在住。篠山紀信氏に師事。2002年独立。雑誌やWebを中心に主に人物撮影。得意分野は女性ポートレイト。

Junya Inagaki