周囲を巻き込み、魅力的な「空間」を作る“旗振り役” 乃村工藝社・下國由貴

働く女のランチ図鑑 vol.34

大型複合ビル「東京ミッドタウン日比谷」(東京都千代田区)や、テーマパーク「ムーミンバレーパーク」(埼玉県飯能市)、お台場の広場にそびえ立つ「実物大ユニコーンガンダム立像」――。こうした話題のスポットを手がけるのが、「乃村工藝社」(本社:東京都港区)です。公共施設や商業施設の内装施工、ディスプレー制作などで数々の実績を持つ同社の空間プランナーとして活躍する下國由貴さん(35)に、仕事への思いやランチの楽しみを聞きました。

行政プロジェクトを企画、「その土地」を徹底リサーチ

乃村工藝社の強みは、企画から運営までを総合的にプロデュースできること。年間受託数は1万5000件近くに及び、空間プランナーや営業担当、制作担当のディレクターらがチームとなってプロジェクトを進めます。

下國さんは、富山県砺波市の「チューリップ四季彩館」など、行政機関によるミュージアムの展示や地域活性化プロジェクトなどを担当。施設のコンセプトや展示構成などを企画します。多い時には月に4回ほど出張し、各地の行政担当者と打ち合わせをしています。今は、テレビ会議で済ませることもできますが、必ず現地に足を運び、「その土地を知ること」を大切にしています。

「手がける空間は、観光名所になり、地元の住民がよく利用する場所にもなってほしい。そのためにも、そこに住んでいるのはファミリーが多いのかお年寄りが多いのか、事業に協力してくれそうな店が近くにあるか、どこの国の人が観光に訪れているかといったことを必ず調べますね」

リアルな声を知るため、住民に取材することも。足繁く通ううちに街中に知り合いができ、商店や居酒屋で「おっ、また来てたの?」と声をかけてもらうことも珍しくありません。

スープが「東京で頑張るメシ」

そんな下國さんの職場には、知る人ぞ知る全国各地のお土産が集まります。同僚たちも同じ土地に何度も出張するため、次第に地元の人しか知らないような品をお土産に選ぶようになるのだとか。デスクには、お土産専用のお菓子箱があり、その中からランチのデザートを選ぶのが楽しみの一つです。

お土産と一緒によく食べるのが、スープ専門店「スープストックトーキョー」のスープ。下國さんにとって、思い出深い「東京で頑張るメシ」なのだそうです。


アートディレクションに憧れ、地元・北海道の大学で文学部に通いながら、独学でアートを学びました。地元を離れ、東京でデザイン関係の仕事をすると決意。就職活動で上京するたびに立ち寄ったのが、駅近にあるスープストックトーキョーでした。

「スープがおいしいだけでなく、スプーンが使いやすいのに特別感動して。スプーンに限らず、お客さんの生活の質を上げようという気配りがあらゆるところに見えて、『デザインってこういうことなんだな』と気づきました」と当時を懐かしみます。今でも、食べるたびにそういうプロ意識に思いをはせ、「自分もちょっとしたところを心地よくするプランナーでありたい」と身が引き締まる思いになるといいます。

自宅近くや外出先の店舗でテイクアウトしたスープを温め、東京湾を望むお台場のオフィスで、同僚たちとテーブルを囲んでいます。

2度の転職を経て自分の夢を実現

下國さんは2度の転職を経験しています。新卒で広告代理店に入社し、雑誌広告のデザインなどを担当しましたが、「紙の上だけで表現するのは物足りない」と感じるように。アートに関する知識を商品開発などに生かしたいと、お茶の専門店に転職しました。都内の販売店で手がけた商品ディスプレーがとても楽しく、枠にとらわれず空間全体をプロデュースしたいと考えて、2010年6月、乃村工藝社のグループ会社に転職しました。

16年3月には、本社の正社員に。ところが、周りは美術大学などを卒業した空間の企画やデザインのプロばかりで、自分の得意分野が分からずに悩む日々が続きました。

それでも、一つひとつの仕事と向き合う中で、少しずつ自信が芽生えてきました。なかでも、17年から2年にわたって担当した福島県二本松市の「菊のまち二本松ブランディングプロジェクト」が、大きな糧になったと振り返ります。

1本200万円の菊を世界に売り込む

日本の菊には、1本の茎から枝分かれして数千もの花をつける「千輪咲」と呼ばれる園芸技法があります。千輪咲を展示するだけでなく、1本200万円で販売し、伝統技術として守っていきたいとの相談から、プロジェクトがスタートしました。

日本であれば、葬式などに使われる菊は落ち着いたイメージを持たれがちです。そこで下國さんは、海外の高級ファッションブランドとコラボしたコレクションショーを開催し、世界に華やかな菊を売り込もうと提案したのです。

「ただ一鉢売ることを目標としても、誰もついてこない。海外に売り込むと目標を定めることで、みんなの目の色が変わり、やるべきことがどんどん見えてきました」。輸送の問題や、海外に有効なPR手段、ファッションに使うためには何色の菊があればいいか……。課題が出てくるたびに栽培職人や映像会社らをどんどん巻き込み、プロモーションビデオの制作や展示会への出展など、地道な活動を続けました。

打ち合わせをする下國さん(右)

18年に、シンガポールの植物園に千輪咲を買い取ってもらうことに成功。ショーの開催には至りませんでしたが、国内外のデザイナーからファッションショーに使いたいという声も寄せられ、今でも二本松市が取り組みを続けています。

その経験を踏まえ、下國さんは、自分の役割を「旗振り役」と表現します。「プロジェクトの依頼は基本的に、何をしたいかがまだ明確でないことが多いです。大きな夢を掲げ、みんなの先頭に立って夢への道を敷いていくのが私の仕事です」

全ての愛は伝染する

ただ、先頭に立っていると、その道が正しいのか不安になることも。乗り越えるためには、一人でも多くの人を巻き込み、多角的な意見をもらうことを意識しています。

周囲を巻き込む力の源は、ずばり「愛」。

「自分ひとりに、圧倒的なアイデア力やプランニング力がなくても、その土地や人を好きになって誰よりも勉強することなら私にもできる。愛しているから色んなところでプロジェクトの魅力を語ってしまうし、聞いている人も嫌な気持ちは持たないはず。全ての愛は伝染するので、夢がもっと広がっていきます」と下國さん。

「意外と知られていない日本の良いところや優れた技術は、まだまだ全国に眠っています。これからは、行政、企業の垣根なしに巻き込みながら、そういった日本の魅力を海外に売り込んでいきたいですね」

(取材・文/メディア局編集部 安藤光里、写真/金井尭子)

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 生き生きと働く女性をクローズアップする「働く女のランチ図鑑」。職場での仕事ぶりや気になるランチの様子をお届けします。

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金井 尭子(かない・たかこ)
フォトグラファー

 ニューヨーク市立大学ハンターカレッジ舞台芸術学部卒業。 帰国後は都内の撮影スタジオに勤務し、2011年独立。得意分野は人物ポートレイト。 バンコク発のファッションブランドに夢中で年2回は必ず訪泰。 現在はフリーランスフォトグラファーとして東京をベースに活動している。ホームページ