ヘキをとれ! 時計売り場の静かなる戦い セイコー・余合夏実

働く女のランチ図鑑 vol.30

もうすぐクリスマス。街に繰り出してプレゼント選びを楽しむ人も多いのではないでしょうか。クリスマスムードが盛り上がるその裏で、仕事に奔走している人がいます。腕時計ブランドを展開する「セイコーウオッチ」(本社:東京・銀座)の営業担当・余合夏実さん(28)もその一人。仕事やお気に入りのランチについて聞きました。

ゴールデンゾーンを狙う

「セイコー ルキア」や「グランドセイコー」などのブランドで知られる同社は、全国の時計売り場や自社ブティックで製品を販売しており、余合さんは、東京、横浜、浦和、新潟にある百貨店を担当しています。

百貨店の時計売り場といえば、静かで高級感漂う空間をイメージする人も多いはず。ところが、水面下では各メーカーの営業による「陣取り合戦」が繰り広げられています。

取り合うのは、腕時計の展示場所です。通路沿いのショーケースやフェア台など、店内には客の目に留まりやすい「ゴールデンゾーン」とよばれるスペースがあります。ここに商品を置いてもらうため、百貨店の売り場に足を運び、魅力的なフェアの提案や新製品を売り込むのが余合さんの仕事です。

「ゴールデンゾーンの中でも、“ヘキ”を背負えれば間違いないですね」。“ヘキ(壁)”とは、壁に面したショーケースを指す言葉。ショーケースに腕時計を飾るだけでなく、その上の壁にポスターなどを貼ることもできるので重要視されているのです。

「広い売り場の中で、腕時計のような小さな商品は、パッとお客さまの目を引くのが難しいですよね。その分、ディスプレーする場所や見せ方で、いかにブランドをアピールするかが重要になってきます」

ボーナスシーズン、クリスマス、お正月と商機が続く年末年始に向けて、競争は10月頃から始まっています。高級時計コーナーのヘキを確保できた日には、「ヘキ取れました!」と意気揚々と社に戻ることもあるそうです。

出張の時だけの楽しみ「ぜいたくランチ」

余合さんによると、営業は「なんでも屋さん」。クレーム対応や相談事、フェアの打ち合わせ……社用スマホには、朝から売り場の担当者などからさまざまな電話がかかってきます。スマホのバッテリー電力がすぐに消費されてしまうので、社内にいる間は充電しっぱなしだとか。

午後は営業先へ向かうため、ランチを近くのコンビニエンスストアで買いこんで、電話対応しながらデスクで済ませてしまう日も多いそうです。その分、月に1、2回ある「新潟出張ランチ」をとても楽しみにしています。

新潟出張の際、必ず立ち寄るのが「にいがた健康寿司 海鮮家」。JR新潟駅の構内にある回転すし店で、気軽に立ち寄れます。


お気に入りは、ランチの盛り合わせメニュー。マグロやイクラをはじめ、旬のネタなどが7貫、さらに大きなみそ汁に小鉢、サラダというボリューム満点のランチが800円で食べられます。

「米どころでシャリもつやつやしているし、ネタも大きいのでぜいたくな気分になれます。東京ではこの値段で食べることができない味。新潟に行くと、もうおすしばかり食べています」と目を輝かせます。時間がない日にはテイクアウトをして、新幹線の中でゆっくり味わうことも。

新潟の営業先を任されるのは2回目です。入社1年目の時に初めて、新潟の大型ショッピングモールを半年ほど担当しました。「海鮮家」は、当時の前任者のイチオシ。百貨店の担当になってからは、懐かしさを感じつつ新鮮な海の幸を堪能しています。

クレーム対応に追われて泣いた日も

第一線で活躍する敏腕営業ウーマンですが、大学時代は時計を身につけることもほとんどありませんでした。「時計は、ただ偶然の出会いだった」と明かします。

昔からアートや本が好きで、大学では出版業界を中心に就職活動をしていました。ある日、大学でたまたま友人の腕時計を触っているうちに、「時計も美術品ということに気づいて。『あ、時計の会社もいいかも』と興味が湧きました」。学内の合同説明会に参加していたセイコーウオッチのブースに立ち寄ったのをきっかけに、働きたいと思うようになりました。

2014年に入社を果たしたものの、時計の知識に自信がなかったといいます。そこで、「まずはお客さまからの問い合わせに答えながら、自分の知識も深めていこう」と考え、入社面接では「お客様相談室」への配属を希望していることを伝えました。ところが、配属されたのは営業でした。

実際に働き始めると、ブランドの知識を得ること以上に、売り場の客からのクレームへの対応や営業先とのやりとりに苦労する日々が続きました。「大学生活でクレームを受けることってあまりなくて。慣れない対応に追われて、社内でこっそり泣いた日もありました」と苦笑しながら当時を振り返ります。

そういう時には、大学時代の友人を誘って飲みに行き、帰宅したらゆっくり眠って気持ちを切り替えるのが余合さん流。「時間が気になった時にスマホを見たら仕事先に失礼だよね」「上司に、『良い時計を持って初めて一人前だ』と言われた」。一緒に社会人になった友人との会話で、腕時計の存在価値の大きさを再確認できる場面もあるといいます。

戦々恐々としながらも、今ではクレームや問い合わせに対して臨機応変な対応ができるように。営業先についても、「現場の販売員や業者の方、みんなで一つのチーム。一体にならないと、フェアなんかは進められない」と話します。趣味や家族のことなどで販売員と何げない会話をするのが、仕事の楽しいひと時です。

海外の名だたるブランドと並ぶセイコーに

入社して5年を過ぎ、一人前の営業として老舗百貨店を任されるようになりました。同世代の友人たちの間では結婚ブームが起こっていますが、「会社でも大事なところを任せてもらい、すごくやりがいを感じています。いつかは結婚したいと思いますが、今は仕事をバリバリやっていきたいですね」とほほ笑みます。

余合さんが目指すのは「海外の名だたるブランドとセイコーブランドが肩を並べる存在になること」。

都内には、全国の百貨店の中でもトップレベルの売り上げを誇る百貨店があります。そこで、時計売り場にとどまらず、百貨店の“顔”ともいわれるイベントスペースで、自分の企画したフェアを開催することが目標です。

「そこに飾ることは、海外のハイブランドと肩を並べる存在だと改めてアピールすることにつながります。そうして自分の仕事が、後世に続くセイコーブランドの礎になればいいですね」

(取材・文/メディア局編集部 安藤光里、写真/金井尭子)

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 生き生きと働く女性をクローズアップする「働く女のランチ図鑑」。職場での仕事ぶりや気になるランチの様子をお届けします。

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金井 尭子(かない・たかこ)
フォトグラファー

 ニューヨーク市立大学ハンターカレッジ舞台芸術学部卒業。 帰国後は都内の撮影スタジオに勤務し、2011年独立。得意分野は人物ポートレイト。 バンコク発のファッションブランドに夢中で年2回は必ず訪泰。 現在はフリーランスフォトグラファーとして東京をベースに活動している。ホームページ