グローバルな「チェキ」人気を後押しするモノ 富士フイルム・外山彩

働く女のランチ図鑑 vol.28

シャッターを押すとカメラから真っ白なプリントが出てきて、じんわりと画像が浮き出てくる――。スマートフォンで手軽に写真が撮れる今、インスタントカメラのブームが再燃しています。海外でも人気が高まっているそう。富士フイルム(本社:東京都港区)で、「チェキ」の愛称で知られるインスタントカメラ「instax(インスタックス)」シリーズのプロモーションをしている外山とやまあやさん(39)に、働き方やランチの楽しみ方を聞きました。

キスシーンはダメ、ハグはOK…「世界共通動画」の難しさ

1998年に発売され、昨秋20周年を迎えたチェキ。昨年度の販売台数は海外が9割を占め、10月には全世界へ向けてブランドイメージを伝える動画が配信されました。

30秒ほどの短い動画ですが、これには外山さんの苦労が凝縮されています。

外山さんの仕事は、世界的にチェキのブランドを強化することです。現在、チェキは世界100か国以上で販売され、各国の現地法人や代理店がプロモーションを行っています。ところがこれまで、ブランドイメージが国際的に統一されていない実情がありました。欧米では、スタイリッシュなアイテムとしてPRされていたり、アジアではかわいい商品として売り出されていたり。

「正直なところ、プロモーションに関する世界共通のガイドラインがなかったんです。強いブランドに育てるためには、世界のどこにいてもinstaxの同じ世界観、イメージを受け取れるようにする必要がありました」

そこで、各国の社員らと協力し、世界共通のプロモーション動画やガイドライン作りに乗り出しました。外山さんには留学経験がありますが、それでも動画づくりに当たっては、カルチャーショックを受ける場面も多かったといいます。

ハグはOKだけど、キスシーンはダメ。多様な人種を起用したり、LGBT(性的少数者)への理解を盛り込んだりするべきなど、動画の内容について、各国の担当者から様々な声が上がりました。世界中で同じ映像を流すためには、それら全ての課題をクリアしなければなりません。時には、自分たちのこだわりも主張しながら、何度も電話やテレビ会議で議論を続けてきました。

“逆輸入”の寿司店で「ランチ女子会」

「現地法人との会議は、時差の調整にいつも苦労するんです」と外山さん。社内での打ち合わせも多く、業務で外に出ることはほとんどありません。ランチも、社員食堂でパパッと済ませることが多いそうです。

その分、不定期で同僚と開く“ランチ女子会”が、リフレッシュの時間です。

みんな日頃から会社周辺の気になる店をチェックしておき、予定を合わせて食べに出かけます。魚好きの外山さんは最近、ちょっと変わった寿司すし店「KINKA sushi bar izakaya 六本木」がお気に入りです。カナダにある人気寿司店が日本に上陸した“逆輸入”の店。モダンな内装はバーのような落ち着いた雰囲気で、定番の寿司のほか、カナダ産ロブスターのすしや、エビとバジルソースのあぶり押し寿司など、ユニークなメニューも提供されています。

この寿司店で、愛媛県宇和島の郷土料理「宇和島鯛めし」を注文しました

ランチ女子会は、子育てやファッション、美容など、仕事と全く関係のないトークでいつも盛り上がるそうです。流行の話題に触れることで、仕事のアイデアが湧くことも。話題が次々と展開していくので時間が足りず、「もっといっぱい話して、このまま帰りたい!と思っちゃう日もあります」と、外山さんはいたずらっぽく笑います。

写真に助けられた学生時代

外山さんは、高校1年生の時の短期留学を機に語学に関心を持つようになり、高校卒業後はアメリカの大学に進学しました。寮生活を続けるうちに友人も増え、楽しい日々を過ごしていましたが、次第に日本人としてのアイデンティティーが強くなっていったといいます。

日本の魅力を海外に伝えたいと、日本企業への就職を考えるように。「モノづくり」を行う企業にスポットを当てて就職活動を行い、2003年に富士フイルムに入社しました。

当時、特別に写真が好きだったわけではなかったそうです。でも、大学に入学したての外山さんを助けてくれたのが写真でした。英語が十分に話せない中で、家族や友人の写真を見せることで寮生との話題が生まれました。「写っているものや人を指さしながら、片言の英語でなんとかやりとりをして、距離を縮めていきました。だからこそ、写真には、その場にいる人たちのコミュニケーションを生む力があるのだと思っています」と強調します。

韓国ドラマでブーム再燃

2002年度には100万台を売り上げ一大ブームとなったチェキですが、カメラ機能付き携帯電話の登場を背景に、売り上げは激減。外山さんが入社した頃には、販売台数が10万台にまで落ち込んでいました。

ところが、07年に韓国ドラマでインスタントカメラが使われ、アジアでじわじわと注目を集めるようになりました。日本でもアナログの良さが見直されるようになり、人気が再燃。売り上げはV字回復を続け、主力商品にまで成長していきます。そうした中、外山さんは13年にチェキの販促・プロモーション担当になりました。

「誰でも簡単にキレイな写真を撮れる時代だからこそ、アナログなチェキに『人とは違う』という付加価値が見出されてきたのかもしれません。重要な製品の担当を任されて、とてもうれしかったですね」

結婚したらやめるのかな…なんていつの間にか消えていた

2児の母でもある外山さんは、職場の雰囲気について、「はなから『ママだから無理だろう』と仕事を決めつけることもなく、チャンスをくれるのがうれしい」と話します。

同じ会社で働く夫に協力してもらい、海外出張もしています。子どもの保護者会などの予定がある場合には、在宅勤務と時間単位の有給休暇取得の制度を利用しているそう。

普遍的な魅力を新興国にも伝えたい

チェキは18年度、年間の販売台数が1002万台と過去最高を記録しました。それでも、外山さんは満足していません。

「チェキを通して、人とのつながりが深まるという魅力は普遍的なもの。欧米やアジアにはチェキが広がっていますが、新興国にももっと魅力を伝えていきたいと考えています。性別や年代、国籍を超えて、もっともっと多くの人に楽しんでもらいたいですね」

(取材・文/メディア局編集部 安藤光里、写真/金井尭子)

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 生き生きと働く女性をクローズアップする「働く女のランチ図鑑」。職場での仕事ぶりや気になるランチの様子をお届けします。

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金井 尭子(かない・たかこ)
フォトグラファー

 ニューヨーク市立大学ハンターカレッジ舞台芸術学部卒業。 帰国後は都内の撮影スタジオに勤務し、2011年独立。得意分野は人物ポートレイト。 バンコク発のファッションブランドに夢中で年2回は必ず訪泰。 現在はフリーランスフォトグラファーとして東京をベースに活動している。ホームページ