知らないことを怖がらない 大和証券 田代桂子さん

成功をもたらしたこの一冊

証券業界での女性の活躍が目立っています。今年4月、大和証券の代表取締役副社長に就任した田代桂子さんは、中東に関するルポルタージュを読んでから、「先入観を持たない」ということを信条にしています。海外担当として世界各地を飛び回っている田代さんに、キャリアを積み重ねていくうえで大切なことなどを聞きました。

――まず、副社長になったときの心境を教えてください。

副社長になるとは、全く予想してなかったですね。目指していたわけではありませんでしたから。心を新たにして臨まなくては、と思いました。海外担当としてだけでなく、会社全体のことを意識的に考えなくてはいけません。

――証券業界では、女性の活躍が目立っていますね。

自分の会社でも業界でも、女性がすごく活躍してきている実感はあります。業界を取り巻く社会的な変化は著しく、自分たちがいかに変わっていくかという点で非常に危機感がありますから、当然のことだと思います。

――会社が変わってきたなと感じた時期は、いつですか。

振り返ると、2007年に19時前退社を始めたときでしょうか。今のように働き方改革の推進は言われていませんでしたが、女性が活躍できる環境を整えようということで取り組み始めました。私が1989年に米国に留学したとき、すでに留学していた女性が何人もいたことを考えると、会社にそういうDNAがあったのかなと思います。

先入観を持たないことを学んだ

――ご自身の大切にしている本として、「From Beirut to Jerusalem」を挙げてくださいました。なぜ、この本を選んだのでしょうか。

「From Beirut to Jerusalem」は、ニューヨーク・タイムズの特派員トーマス・フリードマンが、中東のベイルート、エルサレムに赴任した79年から88年の出来事などをまとめたルポルタージュ。

米国留学中に読んで、とても衝撃を受けたんです。ベイルートには行ったこともなく、私にとってすごく遠い国でした。怖い国とか戦争をしている国というイメージがあったのですが、本を読んで、立派な文化があり、国際色豊かで平和な交流があることがわかりました。知らないものを怖がってはいけない、先入観はだめ、ということを学びました。自分の人生の中で大切にしていこうと思いました。

――ほかに思い出深い本は、ありますか。

イギリスの獣医、ジェイムズ・ヘリオットの「All Creatures Great and Small」(日本語では「ヘリオット先生奮戦記」)です。小学生の時、アメリカに住んでいて、友人に薦められて読みました。自分で読んだ、最初の分厚い本です。後にドラマ化されるなど、とてもはやりました。一気に読んで、自信をつけて、それから大作でもどんどん読むようになり、読書の入り口になりましたね。

――人に本を薦めることもありますか?

スティーブ・ジョブズのプレゼンテーションの本や、リンダ・ヒルのマネジメントの本などを薦めたり、勝手に送りつけたりします(笑)。送るのは、私からのメッセージでもあります。

やりたいことは何か、立ち止まって考える

――キャリアを重ねるなかで、若い頃にやっておいてよかった思うことは何ですか。

2004年からIR室長を務めた後、リテール(個人向け)業務に行きたいと言ったことでしょうか。主要な部署ですが、経験したことがなかったので。ただ、上司からは「おまえに何ができる」と言われてしまって、返す言葉がありませんでした。そもそも、どういう部署があるかもわからず、自分にこれができると言えるものもなかったのですが。

私の無茶むちゃぶりに、ちゃんといい部署を探してくれて、希望はかないました。自分から言わなかったら経験することはなかったと思います。必ずしも願いがかなうとは限りませんが、やりたいことは伝えた方がいいですよ。

――やりたいことがわからない、なりたい自分がわからないという若い人も多いようです。

ただただ言われた通りに仕事をしていても、楽しくないのでは。これを目指すという目標ができると、達成できたときにうれしいものです。男性の場合、課長になって部長になって、ということに価値を見いだしている人が多いけれど、それでは喜びが長続きしません。それに、やりたいことがないと、残業をだらだらしちゃうとか、効率もすごく悪くなる。

長い間、同じ会社にいると、なんとなく続けてしまいがちです。何をやりたいのか、一度、考えた方がいいですよね。遊びも含めてやりたいことが3つあれば、それこそ効率をよくしないと全部はできないですから。

――田代さんのやりたいこと三つは、何ですか。

まず、ピアノが弾けるようになりたいですね。そのために、特に何もやっていないですけど(笑)。あとは、健康のために料理を体系立てて勉強したい。そして、引退したらクルーズ船に乗って世界一周したい。

――全部プライベートのことですね(笑)。仕事では何かありますか。

もうちょっと多様性や変化を許容できる会社にしたいですね。例えば会議で、グローバルな広い目で意見を言えるようになればいい。そのために、若手を海外に派遣するなど積極的にサポートをして、様々なチャレンジのできる環境を作りたいですね。

住みたいと思われる国を目指して

――若い世代へのメッセージをお願いします。

女性の場合、よく言われるのが、「自信がないから次に踏み出せない」ということ。ぜひ、自分でできないと思ったことにチャレンジしてほしい。できなかったことができるようになる。そういう経験を積み重ねると自信になるし、苦労をしていなければ、マネジャーになったときに苦労している人の気持ちがわからないから。

――これから楽しみにしていることはありますか。

来年は東京オリンピックです。多くの人が来て、「もう一回、日本に来たい」と思ってくれたらいいなと思っています。ただ、短期間の滞在で景色がきれい、食べ物がおいしいと喜んでもらえるのもうれしいけれど、住みたいと思われるようになって初めて、国として評価されたことになるのでは。それが本当の国の豊かさです。住みたい国になるよう、自分でもライフワークとして取り組んでいきたいです。

田代 桂子(たしろ・けいこ)
大和証券グループ本社取締役兼執行役副社長、大和証券代表取締役副社長

 早大卒、スタンフォード大学経営学修士。86年、大和証券入社。シンガポールやロンドン駐在などを経て、2004年IR室長、09年に執行役員、16年に大和証券グループ本社取締役、大和証券専務取締役。19年4月から現職。