200年後も安心な水を…あふれ出す“天然水愛” サントリー・山岸彩乃

働く女のランチ図鑑 vol.26

健康志向や防災意識の高まりによって、近年、ミネラルウォーター市場が拡大しています。そうした中、「サントリー 天然水」シリーズが昨年、国内の清涼飲料水市場の年間販売数量でトップとなりました。同市場で首位が交代するのは、28年ぶりといいます。飲料メーカーにとって、店頭で客に商品を手に取ってもらうためには、パッケージなどのデザインが極めて重要です。同シリーズをはじめ、サントリーグループの商品のデザインを一手に担っている「サントリーコミュニケーションズ」(本社:東京・台場)の山岸彩乃さん(28)に、デザインへのこだわりやランチの楽しみを聞きました。

コンセプト作りからラベルデザインまでなんでもこなすデザイナー

サントリーの清涼飲料の中核ブランドとして、1990年に発売された「天然水」シリーズ。発売以来、成長を続け、現在は、ミネラルウォーターとスパークリング(炭酸水)、フレーバーウォーターの3種類、計約30アイテムを展開しています。デザイナーの山岸さんは、2018年にリニューアル発売されたスパークリングを担当しています。

企業に所属するデザイナーと聞くと、受けた注文に従ってパッケージにデザインを施す仕事を思い浮かべる人も多いのでは。ところが、山岸さんは「他のメーカーと比べても珍しいのですが、私たちは、商品のコンセプト作りからラベルデザインまで、何でもこなすんです」と話します。

事業部や研究開発の社員とチームを結成し、毎週のように会議をしながら、ターゲット層を絞ったりコンセプトを明確にしたりして、一緒に企画を詰めていくのだそうです。スパークリングのリニューアルも、長い時間をかけてチームで準備を進めました。

山岸さんはデザイナーとして、天然水の持つイメージとスパークリングの差別化に苦労したといいます。

炭酸水といえば、炭酸ガスから得られる強い爽快感が魅力です。ところが、調査の結果、天然水のブランドイメージに沿った従来のパッケージが、消費者に「炭酸ガスが弱い」というイメージを持たれていたことが分かったのです。

ブランドイメージから外れないようにしつつも、爽快感を持ってもらうためにはどうしたらいいのか――。悩み抜いた末、パッケージに描かれた山々を氷のイラストで表現し、爽やかな青空を強調することを思いつきました。さらに、消費者がボトルから直飲じかのみしたくなるよう、ボトルデザインもビールの小瓶のような形に一新しました。

リニューアルは大成功。売り上げは前年比200%を超え、シリーズ全体としても清涼飲料市場で首位に躍り出ました。「商品開発の成否は、どうしても売り上げに直結します。主力ブランドを担当するプレッシャーに押しつぶされそうな時期もあったので、(売り上げを知った時には)泣きそうになりました」と振り返ります。

みんなのイチオシ食材で作ったこだわりランチ

他にも常に20製品ほどのデザインを担当しており、時間のやりくりが日々の課題だそう。多忙な毎日だからこそ、パワー補給のランチは大切です。

昨年、職場がリノベーションされ、キッチンが新しく設けられました。それまでも同僚とお昼を過ごしていましたが、最近は週に1、2回、みんなで簡単な料理を作っています。先日は、玄米のおにぎりと、具だくさんのみそ汁、漬物を作りました。玄米は「サントリー 南アルプスの天然水」で炊きました。


シンプルなメニューですが、各自がイチオシの食材を持ち寄って作った、こだわりランチです。山岸さんは、玄米と、長野県で購入した野菜、自家製みそを持参しました。日頃から食材選びにこだわっており、持ってくるのも有機野菜など生産者の顔が見える食材ばかり。他のメンバーが持参した食材を味わうのも楽しみの一つです。

「私たちにとって食べることは、ただ栄養を取るだけでなく、イベントです。食へのこだわりは、食品メーカーらしいかもしれませんね」。この日は、それぞれが自宅で作った漬物を食べ比べました。山岸さんも、祖母から分けてもらったぬか床を使った自慢のぬか漬けを披露したそうです。

水は一番欠かせない人間の本質

山岸さんは、父親も自動車メーカーのデザイナー。幼い頃から仕事の話を聞く機会も多く、デザイナーを目指すことは自然な流れでした。首都大学東京でデザインを学び、進路を考えた際に「デザイナーとしておばあちゃんに喜んでもらえる仕事がしたい」と思ったといいます。

「おばあちゃん子だったのもありますが、年齢性別、国籍を問わず、より多くの人に自分が手掛けた商品を手に取ってほしいということでもあります」と話す山岸さん。そして、生活に欠かせない飲料を幅広く扱うサントリーコミュニケーションズに入社しました。

入社後、低アルコールのチューハイの人気シリーズ「ほろよい」やカジュアルワインなどの業務を一通り担当しました。その中で、一つの答えにたどり着くことに。

「人の体の約7割は水でできている。何よりも水がなければ生きていけないという人間の本質に気づきました」

そうして、「天然水」シリーズに携わりたいと自ら手を挙げ、2017年にスパークリングのリニューアルメンバーに加わることになったのです。

周囲が驚くほどの“天然水愛”

「天然水の大ファンなんです」。山岸さんのあふれる“天然水愛”に、周囲が驚くことも多いようです。

天然水は、山梨県北杜市など3か所の水源からくみ上げた水を使っています。その水源を守っていくのも大切な使命と考え、サントリーグループは、売り上げの一部を森林の保全活動などに役立てています。山岸さん自身も、水源近くの国立公園への関心を高めてもらおうと、環境省と現地で使うスタンプラリー冊子を作成。ノベルティーグッズのデザインも手掛けました。

今年からは、ブランドをPRする「天然水アンバサダー」としても活躍。子ども向けのワークショップなどを開催し、水が生まれる仕組みや自然の大切さを伝えています。

これらの活動は、多忙な業務とは別に取り組んでおり、頭の中は常に水のことでいっぱい。リフレッシュ法を尋ねたところ、「ワークショップやスタンプラリーに関するデザインを考えるのが楽しくって。これが私にとってのリフレッシュです! デザインの勉強をしていて良かったなあとつくづく思います」と満面の笑みで答えてくれました。

天然水の新たな水源となる長野県大町市で現在、新工場の建設が進んでいます。これには山岸さんも関わっていて、最近ではすっかり長野のとりこになり、月に2回は現地を訪問。地元のつながりも少しずつ広がっているそうです。

世界中に日本の天然水の魅力を伝えたい

山岸さんの活動の根源は「100年後、200年後、500年後にも、安心して水を届け続けたい」という思い。

「いずれは、国内だけでなく、海外にも日本の天然水の魅力を伝えて、『サントリー 天然水』シリーズを世界中の人に楽しんでもらえるブランドに育てたいです」

(取材・文/メディア局編集部 安藤光里、写真/金井尭子)

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 生き生きと働く女性をクローズアップする「働く女のランチ図鑑」。職場での仕事ぶりや気になるランチの様子をお届けします。

金井 尭子(かない・たかこ)
フォトグラファー

 ニューヨーク市立大学ハンターカレッジ舞台芸術学部卒業。 帰国後は都内の撮影スタジオに勤務し、2011年独立。得意分野は人物ポートレイト。 バンコク発のファッションブランドに夢中で年2回は必ず訪泰。 現在はフリーランスフォトグラファーとして東京をベースに活動している。ホームページ