意外? IT企業が絵本事業を立ち上げたワケ クックパッド・小宇根佳奈

働く女のランチ図鑑 vol.25

料理に関わる企業で働く人は、どんなランチを食べているのでしょうか。レシピ投稿・検索サービスを運営するIT企業「クックパッド」(本社:東京都渋谷区)では、社内にキッチンが設けられ、社員が自由にまかないを作れる仕組みになっているそうです。同社の小宇根こうね佳奈さん(39)に、ランチタイムで大事にしていることや仕事への思いについて聞きました。

親子で学ぶ食育絵本を制作

同社のサービスは、1998年3月に始まりました。現在、企業や個人の利用者から316万品ものレシピが投稿され、月に5400万もの人が利用しています。ほかにも様々な事業を展開しており、小宇根さんは今春にスタートした「おりょうりえほん」の事業を担当しています。

「おりょうりえほん」は、未就学児のいる家庭向けに毎月、絵本を届けるサービス。旬の食材やレシピなどを絵本で紹介することで、親子の食育を支援します。

子ども心をつかむ絵本を作るためには、事前のモニター調査が欠かせません。調査結果によっては、絵本の内容を再考することもあるそうです。最新刊の「ぼくたちおいしいおりょうりつくりぐみ」も、その一つ。

当初は、調理器具の使い方をイラストで紹介する予定でしたが、モニター調査で子どもの反応が良くないという結果が出ました。検討し直した末、包丁の「きりのすけくん」や、まな板の「いたおくん」など、擬人化された調理器具が活躍するストーリーに変え、子どもが親しみを持ちやすいようにしたのです。

「大切なのは、子どもに『料理は楽しいもの』と思ってもらうこと。どうすれば楽しく簡単に伝えられるか、親御さんにも満足してもらえるかを考えるのは難しいですね」

みんなで「まかない」作りは大事なコミュニケーション

小宇根さんの率いるチームメンバーは4人。少数精鋭で企画や制作、営業活動などの全てをこなさなくてはいけません。自ら営業に奔走し、デスクにいない日も多いそうです。

同社は、勤務時間が柔軟な「フレックスタイム制」を導入しているため、メンバーの出社時間はバラバラ。コミュニケーションが不足しないよう、小宇根さんは積極的にみんなでランチを作る時間を設けています。

小宇根さん提供

社員同士の交流を促そうと、同社には「まかない」の習慣があります。広さ約250平方メートルのキッチンが本社フロアの中央にあり、野菜や肉などの食材が用意されています。それらを使い、社員は自由に調理することができるのです。

食材は無料ですが、市場感覚を養うために、あえて値段を表示しています。目安は、1人1食当たり300円程度。「旬の野菜はすぐになくなってしまうので、朝のうちに取り置きしておくのがポイントです」

調理中は、自然と和気あいあいとした雰囲気になり、普段なら口にしづらいことでも話しやすくなるようです。キッチンに並んでメンバーの仕事の悩みを聞いたり、体調を気遣ったりするようにしており、「ライフスタイルがバラバラだからこそ、一緒に過ごす機会があるのは助かりますね」と話します。

最近では、ポルチーニ茸を使ったパスタを作りました。食事中も、みんな仕事のことを考えるようで、「子どもでも作れるかもね」「この作り方だったら楽しいかも」といった仕事につながるアイデアがたくさん出ました。

デザイナーの夢破れ、天職に出会う

「食のマーケティングは、私にとって天職なんです」と弾けるような笑顔で語る小宇根さん。でも、元々目指していたのはデザイナーでした。

小さい頃から図画工作が得意で、インテリアやファッションも大好き。デザイナーに憧れて大学の工学部に進学し、1級建築士の資格を取得しました。大手インテリアデザイン事務所に就職したものの、同僚は芸術大学をトップで卒業した優秀なデザイナーばかり。「絵が好きなレベルじゃ到底かなわないと挫折しちゃいました」

次は全く違う業種で働こうと、食品メーカーに転職し、マーケティングに挑戦してみて驚きました。なぜなら、消費者の生活に課題を見つけて、そこから商品を考えるという手法は、デザイナーと同じだったからです。

生命に直結した食は消費者の関心も高く、「すごくやりがいを感じました。新しい商品を考えるたびに、これまでにないワクワク感があったんです」と振り返ります。その後、再度インテリア建材を扱う会社に転職しましたが、その時のワクワク感が忘れられず、2017年にクックパッドに入社しました。

お母さんたちの罪悪感を逆手に

入社後すぐに新規事業の立案を任された小宇根さんは、長女の保育園で行われた料理教室を思い出しました。

保育園では月に1度、料理を作る時間がありました。ある時、先生が、オムライス作りの手順が描かれた絵本を何度も園児たちに読み聞かせたところ、当日驚くほどスムーズに調理することができたのです。いつも一緒に料理をする時にはもたつく長女も、絵本の内容を思い出しながら難なく作業を進めることができました。

「『いためて』とその場で言われても、子どもたちはそれがどんな行動なのか分かりません。でも、ビジュアルで見れば、ちゃんと理解できるんだなと気づきました」

周りの母親たちは、親子での料理作りには食育の重要性を感じる一方、「料理は自分でやった方が早く済む」「キッチンが汚れちゃう」などと、心理的なハードルを感じる人も少なくありませんでした。さらに、アンケートの結果、多くの母親が、子どもにスマートフォンで遊ばせる「スマホ育児」に対して、罪悪感を持っていることが分かりました。あえて絵本を買ってスマホに頼らない育児を目指す家庭も多かったのです。

そこに商機を見いだし、絵本を発行するという新サービスを提案しました。

長女は現在、小学2年生。小宇根さんは「今では立派な戦力で、助かっています」と目を細めます。絵本の素案をチェックして、「これは幼稚園児には難しいんじゃない?」とアドバイスをくれたり、キッチンに立って家族の料理を作ってくれたりするそうです。

料理が休日のアクティビティーになってほしい

IT企業で提案した絵本の事業ですが、手ごたえを感じています。

目指すのは、料理が週末のアクティビティーになること。

「週末に公園やテーマパークに出かけたりしますよね。それと同じように、絵本をきっかけにして、休日に親子で楽しく料理するのが当たり前の社会になるといいなあ」。小宇根さんは、目標に向けて日々まい進しています。

(取材・文/メディア局編集部 安藤光里、写真/金井尭子)

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 生き生きと働く女性をクローズアップする「働く女のランチ図鑑」。職場での仕事ぶりや気になるランチの様子をお届けします。

金井 尭子(かない・たかこ)
フォトグラファー

 ニューヨーク市立大学ハンターカレッジ舞台芸術学部卒業。 帰国後は都内の撮影スタジオに勤務し、2011年独立。得意分野は人物ポートレイト。 バンコク発のファッションブランドに夢中で年2回は必ず訪泰。 現在はフリーランスフォトグラファーとして東京をベースに活動している。ホームページ