読売新聞夕刊(8月27日)に掲載された発言小町のトピに、思わず目が留まりました。「仕事を辞めて彼についていくべきか」。上場企業に新卒入社して4か月、付き合って5年の彼氏と遠距離恋愛になり、「結婚はしてないけど、ついて来られるならそうしてほしい」と言われたそうです。ついていきたいと思いつつ、女性は迷っています。
バリキャリより専業主婦になりたい
このトピに対し、「仕事を辞めたい時期だよね」「自立するのが先でしょう」などと様々なレスが寄せられました。その中で私が共感したのは、「リスクをしっかり考えて?」と見出しがつけられたこちらの意見です。
どちらが将来に役立つのかをよくお考えください。一時の情熱に負けるなら、それはそれ。あなた自身の選択の結果ですから、ちゃんと受け入れれば良いだけの話です。ですが、アラフィフ目前の正社員共働き2児の母からすると、新卒で入った大企業を辞めるなんて、愚の骨頂。

指導する大学で女子学生に、「5年後の自分」について尋ねることがあります。
「バリバリ働くキャリアウーマンになるより、寿退社で専業主婦。子育てをしているのが夢」
世間では、女性活躍や夫婦共働きが当たり前のように言われているのに、こんなふうに答える女子学生は毎年、一定数います。仕事よりも結婚が自分を幸せにすると信じているのです。
リスクが高い寿退社
でも、ちょっと考えてみてください。結婚を機に仕事を辞める「寿退社」は、自分の人生を結婚するパートナーに委ねることです。ただ、結婚した相手が一生元気に働ける保証なんてありません。会社が倒産しないという約束もありません。そして、幸せになると信じていた結婚生活が破綻を迎えることだってあります。そんな、不確実要素ばかりを背負って結婚相手に100%依存するのは、実にリスクの高い選択ともいえます。

明日食べるモノも買えないなんて状況では生活は成り立ちません。恋愛も夫婦関係も決して持続しません。かつてのように、右肩上がりで給料が伸びていく時代ではありません。モーレツに働けば収入が増えるなんてこともありません。退職金や年金だって老後のあてにできません。
もはや、家を支える大黒柱は1本では心もとなく、複数あったほうがいい時代なのです。複数の収入源を持つことは、家計のリスクヘッジとして大切。女性も自分の収入源を持ち、自分の人生は自分で切り開く覚悟をすべきです。
キャリアの8割は偶発的
米スタンフォード大のジョン・D・クランボルツ教授は、キャリアについて、「計画された偶発性」(Planned Happenstance)という論理を唱えています。これは、「個人のキャリアの8割は予想しない偶発的なことによって決定される。その偶然を計画的に設計し、自分のキャリアを良いものにしていこう」という考え方です。
つまり、キャリアは全く予期していなかった、いわゆる「ひょんな出来事」によって決定されていくということです。そして、思いもよらぬところから結果的に望んでいたキャリアにつなげるには、何にでもオープンマインドでいることが大事。さらに、どんなことからも学び続ける姿勢が求められます。学びが自分の行動を変え、新しいことを身に付けていくことにつながります。日頃の地道な積み重ねが、偶発的な出来事をチャンスに変えていく「準備」となるのです。
ひっそりと芽吹いていたチャンス
私は外銀勤務時代、上司と険悪な関係になったことがありました。良かれと思って助言したことが上司の逆鱗に触れ、私は職場を追われそうになりました。気持ちが沈む日々を過ごしていると、人事部長と話すチャンスがありました。「関下さんは何がしたいの?」と尋ねられ、とっさに私が口にしたのは、自分でも思いがけない言葉でした。

「私、大学院で学びたいんです」。突拍子もない私の表明に、部長は「応援するよ」と背中を押してくれました。この言葉は私の運命を大きく変えました。上司との確執に悩んでいる場合ではなくなりました。本格的に調べ始めると、大学院受験を突破するためには備えるべきことが山のようにありました。
すっかりその気になった私の頭の中は、すでに憧れのキャンパスを闊歩しています。気持ちが前向きになり、私は上司に自分の非礼を詫び、職場で明るく振る舞うようになりました。「高卒の私が大学院なんて無謀すぎる」と家族も友人も笑いましたが、晴れて合格することができました。大学院で学んだことが今のキャリアにつながっていることを振り返ると、思わぬところにチャンスがひっそりと芽吹いていたのです。
遠距離恋愛の彼か、仕事か——。
「ついて来られるならそうしてほしい」と言った彼の言葉は、これからのキャリアを考える、またとないチャンスです。就職、結婚、出産、子育て……。女性はいくつかのライフステージで、選択を迫られることがあります。この女性は入社間もない新入社員ですから、まずは、会社で仕事の基礎をとことん学んでみてはいかがでしょう。やがて一人前になったとき、彼との関係を再考しても遅くないと思います。
チャンスはそれを迎える準備のできている人にだけやってくる(仏・細菌学者ルイ・パスツール)
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