ひるまざる、たちどまらざる、おごらざる LIXIL 佐竹葉子さん

成功をもたらしたこの一冊

開催まで1年を切った2020年東京五輪・パラリンピックのゴールドパートナー(住宅設備部材&水回り備品)・LIXILの理事、佐竹葉子さんが大切にしている本は、「パーソナル・インパクト」(マーティン・ニューマン著)です。滝川クリステルさんの「お・も・て・な・し」のプレゼンテーションが話題になったオリンピック招致の影の立役者による本で、何度も読み返しているそうです。

 復興五輪・パラリンピックの成功に全力

――理事であると同時に、「東京2020オリンピック・パラリンピック推進本部」の本部長でもありますね。どのような取り組みをされているのでしょうか。

 「おもてなしと、おもいやりで、未来を変えよう。」をスローガンに、様々な活動を加速させています。特に「復興五輪」と位置付けられている大会の成功とパラリンピックの応援に力を入れています。

例えば「東京2020 復興のモニュメント」への取り組みが一つです。東日本大震災の後、被災者の方々の生活を支えてきた仮設住宅の窓などからアルミ建材を回収し、再生させたアルミをモニュメントの素材として提供して、被災3県にそれぞれ1基ずつ制作するプロジェクトです。大会組織委員会や東京芸大、関係自治体と一緒に進めており、復興五輪のシンボルとなることを願っています。

また、多様性への理解を深めるため、2017年から、小学生にスポーツ義足の体験授業を行っています。全国の1万2000人を超える子供たちが体験しています。この活動はパラリンピックのレガシーとなるよう、大会終了後も継続していきたいと思っています。

 「あんなふうにはなりたくない」とは言われたくない

――「パーソナル・インパクト」は、オリンピック招致と関係の深い本です。読んだきっかけを教えてください。

「パーソナル・インパクト 『印象』を演出する、最強のプレゼン術」(マーティン・ニューマン、小西あおい著、ソル・メディア) 世界の政財界のトップに「印象」の演出を指導する、そのメソッドを紹介しています。

 

2013年の日本のオリンピック招致のプレゼンテーションは、とても素晴らしかった。そこで、14年にニューマンさんを招いての社内講演会を企画しました。LIXILとしてもグローバルで戦える人材育成が求められるようになったためです。講演は私自身にとっても、とても勉強になりました。「明日は重要なプレゼンがある」というときに、今も本を読み返しています。当時は、自分がオリンピックに関連する業務に就くとは想像もしていませんでした。

――佐竹さんは、どんな印象を持たれたいと思っていましたか。

 周囲からは、「威圧的」「怖い」と言われていましたので(笑)、「私生活も犠牲にしていそう」とか「あんなふうにはなれないし、なりたくない」なんて言われないように、この本を読んでからは、服装、話し方、動作などを常に見直しています。

仕事の見える化で、共感を

――子育てをしながら働き続けてきたそうですね。

 30歳で出産しました。今でこそ、子育て中の従業員に「人に甘えていいのよ」と話しますが、当事者には気負いがありますよね。私も、当時はそうでした。子供の体調などは自分の思い通りにいかないし、それで人に迷惑かけたくないから、焦ってしまうんですよね。

 

 だからこそ、仕事をするときはとても集中していましたね。必ずここまでに終わらせないといけないという時間的な制約がありますから、仕事も段取りや調整をしっかりしました。「もし明日、子供に何か起きたら」と考えると、何でも前倒しにして、先を予測しながら取り組む癖がつきました。

 子育てしながら働くとき、周囲の共感を得て、味方を増やしたいですよね。そのためには、仕事を急に代わってもらうことも想定して、自分の仕事を「見える化」しておくことを心がけました。

 オファーは二つ返事でOKする

――お気に入りのもう一冊は、「花埋はなうずみ」ですね。

渡辺淳一の「花埋み」(新潮文庫)は、日本初の女医、荻野吟子の生涯を追った作品です。吟子は明治初期、様々な偏見と障害を乗り越えて医師の資格を取り、社会運動にも参画しました。

 主人公の苦労は、想像を絶します。女性が医師になるための試験を受けられるようになるまで、10年以上も強い気持ちを持ち続けた。彼女ほどには強くなれないけれど、苦しい局面で読み返し、こういう方がいたということを支えにしてきました。

――働く女性たちへのメッセージをお願いします。

 私は常々、三つの「さる」が大事だと思っています。ひるまざる、たちどまらざる、おごらざる、です。20代、30代はひるまざる、たちどまらざるを意識してほしい。そして、40代、50代は、おごらざる、ですね。

若いときは、怖かったり躊躇ちゅうちょしたり、自信を持てなかったりするかもしれないけれど、とにかくやってみる。黙っていてポジションを引き上げてくれることはそうそうありません。それは、私自身の反省から伝えたいことなんです。

――どんな失敗があったのですか。

 30代後半、秘書室から広報室長への異動を打診されたとき、2回断ったんです。自信がなくて、怖くて。「無理です、できません。私は経験もないし」と。でも当時の上司が、「とにかく思い切ってやりなさい」と背中を押してくれました。簡単ではありませんでしたが、周囲の支えもあったし、自分も努力をして、なんとか務めました。あのとき断っていたら、今の自分はなかったでしょう。一度人事を断ってもさらに背中を押してくれる上司は多くないでしょう。だから、オファーがあったら二つ返事で受けるべきだと思うんです。チャンスは自分から取りに行くし、チャンスが来たら離さないことです。

(聞き手・読売新聞メディア局 小坂佳子)

「成功をもたらしたこの一冊」シリーズは、こちらから。

佐竹 葉子 (さたけ ようこ)

 LIXILグループ 理事・取締役会室長 兼 LIXIL理事・東京オリンピック・パラリンピック推進本部長

 1966年生まれ。89年、INAX入社。東京支社、広報室長などを経て、2014年INAXトステム・ホールディングスコーポレートコミュニケーション部長。15年に、LIXIL執行役員・広報部長などを経て、19年8月から現職。