引き際を美しく 組からの花と同期からの花

タカラヅカが教えてくれたこと(15・・・

古くからのタカラヅカファンと、「いーちゃんのトップ姿が見たかった」という話をすることがあります。「いーちゃん」は、寿ひずるさんという往年のスターの愛称です。トップ就任が内定していながら、歌舞伎役者の方との結婚のため、2番手のまま退団されたのです。

1982年のことでした。それに先立つ78年のキャンディーズ解散、80年の山口百恵さんの引退とも重なります。ファンは無念と悲嘆を抱えつつ、一方で、潔い決断、美しい引き際に拍手を送った、そんな時代でした。

いつから引き際を考えるか

タカラヅカには、さまざまな引き際があります。寿さんのように、トップ内定後に急に辞めるというのは珍しいのですが、2番手や3番手で惜しまれながらの退団、また、もう少し若手で先々が期待されていたにもかかわらず…という例は少なくありません。もちろん、入団から数年内に辞める人もいます。結婚などの個人的理由も考えられますし、早めに他の世界に転身を図りたいという場合もあるでしょう。一方で、管理的な立場や指導役、スペシャリストとして長く在団し、定年を迎えるという道もあります。

さまざまな辞め方があるだけに、もしかしたらタカラヅカの生徒は、初舞台に立った時から、いつか来る引き際を考えているのかもしれません。トップへの道は歩まなくても、どこかで納得できるピリオドを打つ必要がある。そのタイミングの判断は、きっと本人にしかできないのでしょう。だからこそ、引き際の美しさが、見る者の心に響くのです。

退くときは一人の人として

本公演での退団者は、千秋楽の舞台の最後に組長から紹介されます。大階段を正装のはかま姿で下り、花束を贈られ、観客に向けてあいさつをするのです。トップスターだけはやや扱いが違いますが、基本的には、2番手であれ大ベテランであれ若手であれ、このセレモニーは変わりません。どんな人でも、最後は一生徒として卒業=退団するということなのでしょう。

そして、花束は二つあります。「組からのお花」と「同期からのお花」です。所属する組の同僚と、退団者を含めた同期生の代表者が舞台に登場し、それぞれブーケを贈るのです。

どんな組織にあっても、人を支えるのは、今ともに過ごしている人、長い年月をともに過ごしてきた人だということを、この二つの花束が象徴しているような気がします。そして、近しい人たちとねぎらい合い、かかわりのあった多くの人に感謝の気持ちを持つ。タカラヅカのような盛大な退団セレモニーはしなくても、誰かを送り出すとき、また自身が退く際には、そうした心持ちでありたいと思うのです。

お別れは、また逢う日まで

タカラヅカには「さよなら皆様」という曲があります。41年の「宝塚かぐや姫」という作品に登場した、月に帰るかぐや姫の歌です。いまは終演時などに使われており、「すみれの花咲く頃」同様、タカラヅカのスタンダード曲のひとつです。

「さよなら みなさま」で始まる歌詞は、どんな別れにも通じる言葉でつづられています。「お別れいたしましょう またうその日まで」という歌詞が、ゆったりとした長調のメロディーに乗っていて、どこか晴れやかな悲しみを感じさせます。

冒頭の「いーちゃん」はいったん引退されましたが、いろいろなことを経て、今は女優として復帰し、舞台などで活躍されています。長い別れののち、「また逢うその日」はあったのでした。(おわり)

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太田姫いのり(おおたひめ・いのり)
タカラヅカ愛好家

 東京都出身。タカラヅカの初見は、(たぶん)1968年新宿コマ劇場雪組公演。その後、今はない松竹歌劇団のレビューにもはまり、伝統芸能から小劇場までさまざまな舞台を見てきた。情報通信業のそこそこ大手で働き続け、現在は上位幹部職員。