母国の慣習を打ち破り、日本でかなえたエンジニアの夢 楽天 サラ・フルカン

働く女のランチ図鑑vol.21

性別や人種、障害の有無を問わず、多様な人材を事業に生かす「ダイバーシティー経営」を取り入れる企業が増えています。IT大手「楽天」(本社:東京都世田谷区)もそのひとつ。2012年に英語を社内公用語化し、世界約70か国・地域もの国籍を持つ従業員が、大勢活躍しています。同社でエンジニアとして働くパキスタン出身のサラ・フルカンさん(31)に、仕事のやりがいやランチの楽しみについて聞きました。

グローバルなチームメンバー

インターネット通販サイト「楽天市場」や書籍販売サイト「楽天ブックス」、旅行予約サイト「楽天トラベル」など、様々なネットサービスを展開している楽天。エンジニアのサラさんは、楽天トラベルでアプリ開発を担当しています。

4年前に同社に転職した時、チームメンバーの中で外国籍はサラさんだけで、日本語も全く理解できませんでした。今では、台湾やアメリカ、ペルーなど、様々な地域や国の人が働いており、むしろ日本人の方が少ないといいます。

日本では、自身の仕事の成果やスキルを謙遜して周囲に話さない人も少なくありません。しかし、外国では、自ら主張するのが当たり前。様々なバックグラウンドを持つ社員が集まっているからこそ、職場でも自分の挑戦したいことなどについて積極的に議論します。

「私も、アプリの改善を提案するなど、実績をしっかりと示すことができるように努めています」と話すサラさん。最近、昇格を果たしましたが、そうした仕事への取り組み方が上司に認められたのだと考え、「モチベーションも高まりますね」と目を輝かせます。

社食で母国の味を提案

世界中の社員が集う同社は、食堂もグローバル。社員は、基本的に無料で食事ができ、新社屋に移った2015年からは、イスラム教の戒律に沿った「ハラル食」も調理できるようになりました。

ハラル食の利用者は、サラさんを含めて130人ほど。サラさんのお気に入りは、牛肉のケバブです。

牛肉のケバブ

中東発祥の料理で、イスラム教徒以外の社員からも大人気の一品。「ケバブは、母国のパキスタンでもみんなに愛されているメニューです。食堂に出る日は、とてもうれしくなり、急いで食堂に向かいます」

豚肉とお酒が禁止されていることで知られるハラル食。しょうゆや酢などの一般的な調味料は、材料にアルコールが添加されている場合は使えないほか、定められた方法で食肉加工された牛や鶏などしか食べられないなど、細かい決まりがあるのです。

そこで、サラさんは、利用者の代表として、月に一度、食堂関係者に正しい知識を伝えたり、ハラル食のメニューを提案したりしています。

他のイスラム教徒の社員の意見も取りまとめていますが、「インドネシアやマレーシアなど国によって好まれる味がバラバラ。『もっと甘いのがいい』『ココナツは嫌だ』など、議論が白熱するので大変」といって苦笑します。

ハラル食の「親子煮」

最近、サラさんの提案で実現したのは、鶏肉を卵でとじた「親子煮」。「日本食を食べてみたい」という声を受け、ハラル食専門の業者から仕入れた調味料や食材を使って、ハラル対応食として提供されるようになりました。

サラさんが提案した親子煮

旧社屋の時は、イスラム教徒の社員は、毎日同じ業者から弁当を取り寄せていたため、現在は豊富なメニューを温かい状態で食べられると好評なのだそう。

「女性でもエンジニアに」

小柄で朗らかな笑顔が印象的なサラさんですが、エンジニアになった背景には、強い決意が込められていました。

母国のパキスタンでは、女性は卒業後、結婚して家庭に入ったり、医療関係の仕事に就いたりする人が多かったそう。エンジニアは、男性に好まれる職業でした。

小さい頃からものを作るのが好きで、エンジニアの父親の仕事に興味があったサラさん。一方で、母親や親戚の女性ばかりが家事を任される姿に違和感を持っていたといいます。

「『女性がエンジニアとして働いてもいいじゃない』とずっと思っていました。自分がエンジニアになることで、壁を打ち破りたかった。大学進学は、人生の中で一番大きな選択でした」

周囲の大反対を押し切り、2011年にエンジニアを養成する現地の大学に進学、コンピューター工学を学びました。

夫と一緒に楽天へ

卒業後は、現地のゲーム開発会社などで経験を積んでいましたが、起業を考えていたため、日本で働くとは考えてもいなかったそう。

転機となったのは、一通のメールでした。海外で働きたいと考えていた夫が登録していたビジネス向けSNSに、楽天への転職を勧めるメールが届いたのです。最初は信じられなかったものの、調べてみると日本の企業だと分かり、がぜん興味が湧いてきました。

日本製自動車が好まれ、日本人の娘と恋に落ちる歌が流行するなど、パキスタンでは、多くの人が日本にとても良いイメージを持っているといいます。「私も、日本は治安が良く、きれいな街だというイメージがありました。楽天自体も外国人が働きやすい職場だと聞き、夫に誘われて私も一緒に転職することを決めました」

日本に移住して、2015年2月から夫と一緒に働き始める予定でしたが、妊娠が判明。過去に2度の流産を経験したこともあり、安定期に入るのを待って、3か月遅れの同年5月から働き始めました。

イスラム教徒のための祈とう室も

パキスタンを出るのは、初めて。妊娠しながら働けるのか、母国語でない英語で会話することができるのか、イスラム教徒であることを受け入れてもらえるのか――。働く前は、不安や悩みで頭がいっぱいでした。

「働いてみると、楽天にはいろんな国の人がいて、一番の心配だったイスラム教にも理解を示してくれました」とサラさん。一日に5回の礼拝が義務付けられているイスラム教徒のために、新社屋には足洗い場や祈とう室も設けられています。

祈祷室で、礼拝の作法や決まりについて説明するサラさん

サラさんも、一日に2、3度、仕事の合間を縫って祈とう室に足を運んでおり、「前の不安がうそのように自分らしく働けています」と顔をほころばせます。

いつか母国の魅力を日本に伝えたい

社員の起業精神を大事にしている楽天。サラさんも、いずれは知識や経験を生かして、母国で起業したいという夢を抱いています。

「日本に来て、パキスタンのことを知らない人が多いことを知りました。食文化や美しい風景など、日本が知らないパキスタンの魅力がいっぱいある。それを日本に伝える仕事を模索していきたいです」

(取材・文/メディア局編集部 安藤光里、写真/金井尭子)

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 生き生きと働く女性をクローズアップする「働く女のランチ図鑑」。職場での仕事ぶりや気になるランチの様子をお届けします。

金井 尭子(かない・たかこ)
フォトグラファー

 ニューヨーク市立大学ハンターカレッジ舞台芸術学部卒業。 帰国後は都内の撮影スタジオに勤務し、2011年独立。得意分野は人物ポートレイト。 バンコク発のファッションブランドに夢中で年2回は必ず訪泰。 現在はフリーランスフォトグラファーとして東京をベースに活動している。ホームページ