客席から「華」を見つける スターを育てるファンの熱視線

タカラヅカが教えてくれたこと(14・・・

タカラヅカを一度見てみたいと思いつつ、なかなか機会がない、という人はけっこう多いようです。チケットが入手できたとき、最近はそうした初見の方を誘うよう心がけています。ファンを増やしたいというよりも、彼女(彼)たちがどんな所に興味を持ち、魅力を感じるのかを横で見ていると、私自身、新鮮な気持ちで楽しめるからなのです。

うまくハマると、すでに幕間の時点で「あの人が素敵だった!」と報告してくる初見者もいます。トップスターや二番手はもちろんですが、見つけた贔屓がもう少し舞台の端にいる若手ホープだと、「なるほど、そう来るか。見る目があるなあ」と感心します。

「好き!」になることの理由付けは難しいのですが、舞台上に数多いる出演者の中で、誰か一人に目を引かれることはあります。最近は、舞台芸術だけでなくさまざまな分野で「華(花)がある」という言葉がよく使われますね。技量の高さだけではなく、観客を魅了する華やかさを持っている、という意味でしょうか。

横一線のラインダンスからスターの素質を見抜く

数十人が横一列に並び、一糸乱れぬ脚の上げ下げを見せるラインダンス(ロケットダンス)は、レビューショーの名物です。みな同じ衣装で同じ振り付け、一人目立つ動きをすればラインダンスの魅力は台無しになってしまいます。それでも、客の目を引き寄せる人はいるのです。何が違うのか。いつも考えながら、ラインの端から端まで見ています。たぶん非常にハードな踊りのはずなのに、皆、必死で口角を上げて笑顔を作っています。その中にたまに、肉体的な苦しさなどを突き抜けて、舞台に魅了されたというのでしょうか、一種の熱に浮かされたような表情を浮かべている人がいます。

そして、そうした天性の人は、自分自身について無自覚であることも多いのです。「ただ、踊りが好きなんです」「精一杯がんばっているだけなので」。いや、あなたには、たぐいまれな能力と可能性、そして何よりも「華」があるのよ、と気づかせるのは誰の役割か。

たぶん、それはファンの視線なのだと思います。初見者であっても長年のファンでも、初舞台生のラインダンスを必死に見つめ、5年後、10年後のスターを探す。何かを感じる人がいたら、応援しようじゃないですか。

誰かがどこかで見ていてくれる

私は若いとき、こんな経験をしたことがあります。別の部署の方に廊下で呼び止められ、「君のこの前の仕事は良かったね。他の人もそう話していたよ」と言われたのです。顔と名前を知っている程度で、それまで接点はありませんでした。驚きましたが、うれしかったのも事実。近しい人の評価だけでなく、見知らぬ人の目、つまり誰かがどこかで見ていてくれるという実感に、人は力づけられるのです。

ちなみに廊下で話しかけてきた人は、その後、社長になりました。若いときから、自分の担当領域以外にも目を注ぐ度量があり、そしてある種の人心掌握術にも長けていらしたのだろうと思います。私自身はいま、管理職として人に接する立場になって、人材の育成や評価について試行錯誤を重ねています。顧客や取引先などの声を受けて、「〇〇さんが褒めてたよ」と間接的に伝えるなど、「どこかで見てくれている人」の存在を想起させる方法は、けっこう効果的な気がします。

客席のファンがスターを育てるのですよ。

連載「タカラヅカが教えてくれたこと」一覧

太田姫いのり(おおたひめ・いのり)
タカラヅカ愛好家

 東京都出身。タカラヅカの初見は、(たぶん)1968年新宿コマ劇場雪組公演。その後、今はない松竹歌劇団のレビューにもはまり、伝統芸能から小劇場までさまざまな舞台を見てきた。情報通信業のそこそこ大手で働き続け、現在は上位幹部職員。