再就職をめざす主婦のための学び直し講座

リカレント教育

東大発のベンチャー企業・ソナス社で広報・経理・労務を担当する武田朋恵さん

育児や介護などでいったん仕事を離れると、女性の場合、条件の良い再就職先はなかなか見つからないと言われてきました。でも、人手不足を背景に、少しずつ様子が変わってきているようです。再就職を後押しする主婦のための講座も登場。ブランクをものともせず、正社員として“フロントランナー”になるケースも出ています。

東京・文京区のソナス株式会社は、2015年に創業された東大発のベンチャー企業。独自に開発した省電力型の無線通信のプラットフォームで、急成長している会社です。

同社に働く武田朋恵さん(36)は1歳と5歳の2人の男の子のママ。夫の転勤や外国留学に帯同した関係で、5年間は専業主婦として過ごし、仕事上のブランクがありましたが、今年6月から同社で正社員として、広報・経理・労務全般を担当しています。

「ベンチャー企業で働く」という選択も

自分のオフィスデスクで、同僚と打ち合わせる武田さん

武田さんは、昨年11月、経済産業省の「未来の教室」実証事業の一部・女性復職支援事業として株式会社Warisが実施した「ワークアゲイン・キャリアスクール」に参加。週1回全4回の講座の最終回で行われた求人企業との“ミートアップ・イベント”で、20社集まった求人企業の中でソナス社に興味を持ちました。

「東大の理系研究者の方々が集まる会社なんて、自分とは縁遠い……と思っていたのですが、社長は『保育士資格を持っています』と自己紹介するし、『フレックスタイム勤務が基本で、無駄な残業はしない』というところも柔軟な働き方ができそうだなと思って、インターンに応募したところ、受け入れていただきました」と武田さんは振り返ります。

1日6時間のインターンから始める

社長の大原壮太郎さん(左)と打ち合わせる武田さん

インターンは1月から、週2回、1日6時間のペースで始まりました。2月末には、働きぶりを評価され「正社員になってほしい」と言われました。徐々に出勤日数を増やして、6月には週5日にしたそうです。「子ども2人を違う保育園に通わせているので、今年度いっぱいは1日6時間にしておこうと思います。それでも何とか時間をひねり出して、実務に役立つ勉強をもっとしたいと思っています」と武田さんは言います。

武田さんは、大学卒業後、大手新聞社で4年間、広告主や代理店とやりとりする部署にいました。新聞社を退職した後も、日本語教師の資格を取得し、非常勤で教えていたこともあります。

再就職を思い立ったのは、(夫の留学先から)帰国し、友人たちと会ってから。「仕事を続けてきた友人たちは、勤続12~13年になって、高い専門性を身に付けたり管理職になったりしていたんです。それを知って、『私も腰を落ち着けて働きたい』と思いました。人手不足もいつまで続くかわかりません。今なら、責任ある仕事に戻れるチャンスはあるのでは、と考えたんです」と武田さん。

創意工夫して仕事をこなす姿に信頼感

開発チームの部屋へも出入りする武田さん(東京・文京区のソナス社で)

同社の正社員は、武田さん含めて現在10人。毎月のように1人ずつ増えています。同社代表取締役社長の大原壮太郎さんは「武田さんは細かく指示をしなくても、創意工夫して仕事をこなしてくれます。現に、武田さんが発信したニュースリリースには、問い合わせが多いんです。今年中には海外展開やパートナー企業との契約なども実現したい。即戦力となる人材を集める採用広報にも力を入れてほしいと思っています」と話します。

座学とキャリアカウンセリング 自分の強み発見から

Waris社では、2016年から女性の再就職を応援する「ワークアゲイン」事業を始めました。復職時に必要とするスキルはどんなものか。それを学習するためのプログラムを開発し、キャリアカウンセリングも有料で実施しています。

「ワークアゲイン・キャリアスクール」は、週1回計2~4回の座学(すぐに使えるGoogle関連ツールの実習、ベンチャー企業の特性や経理・人事の基礎知識など)と、キャリアカウンセリングを組み合わせて行うものです。

受講の最後には、インターン受け入れ企業との出会いの場“ミートアップ・イベント”もあり、そこで受講者は1分間スピーチを行って、自分の強みをアピールすることができます。その後の面談(求人側が面談したいと判断した人だけが対象になります)を経て、求人企業がインターンシップで受け入れた場合は、そのまま就職先になるケースも多いそうです。

まだ珍しいサービス、その狙いは

Waris社が定期的に開く「ワークアゲイン・カフェ」。6月21日に新宿で開かれた回には、13人の女性が参加。正社員として再就職した経験者の話に聞き入りました。

育児や介護などでいったん仕事を離れた女性を対象に、企業の基幹職や、正社員としての再就職を支援するサービスは、まだ珍しいものですが、少しずつ動きは出てきました。

経産省の「未来の教室」実証事業に参加したWork Step株式会社(福岡市)でも同様のサービスを実施しています。同じ実証事業に参加した、専門性の高い人材マッチングサービスを展開する株式会社サーキュレーション(東京・渋谷区)では、事業化を検討し、企業向けにセミナーを開く新しい部署を作りました。

Waris社ワークアゲイン事業統括プロデューサーの小崎亜依子さんは、「主婦の再就職というと『ロースキルで済む、代替可能な仕事』という概念がありますが、私たちはそれをひっくり返したいのです。高い能力を持った女性たちはたくさんいます。まず、労働市場で“買いたたき”に遭わないためのノウハウを持つこと。そして、とりあえず働いてみること。事業を始めたばかりのベンチャー系の会社は、総務や経理、広報などバックオフィス部門が未分化で、創業者ひとりで背負っていたりします。何でもこなせる、社会経験のある女性なら、活躍できる場にもなり、企業と一緒に成長していくことも可能です。ぜひご自分の離職期間をただのブランクだと思わずに、やりがいのある仕事に挑戦してほしいです」と話します。

「家族の協力が得にくい」「自分の自由になる時間が少ない」など、主婦の場合、働きづらい事情はたくさんあることでしょう。ひとまず再就職というゴールを設定し、その目標に向かって受講し実践してみる。これも、リカレント(学び直し)の形なのかもしれません。(読売新聞メディア局編集部・永原香代子)