妊娠・出産を経た今こそ挑戦したい 「学び直し」で得たモノ

リカレント教育

 「リカレント教育」という言葉を知っていますか。何歳になっても仕事に生かせる技術や能力を習得できるようにするような教育体制を指す言葉です。「人生100年時代」を見据え、政府も大学や大学院、専門学校での学び直しを後押ししています。結婚や出産でやむを得ず離職したり、キャリアアップや転職を考えたりする人にとっても、この動きは見逃せません。どんな学びがあるのでしょうか。「リカレント教育」を経験した人や学び直しの場を取材しました。

ワークショップデザイナーのスキルを学ぶ

 時計や消しゴムなどになりきって寸劇をしたり、言葉を書き込んだA4サイズの紙を床に広げて、似た言葉をひもでつないだり――。

 6月2日、青山学院大の青山キャンパス。日曜日にもかかわらず、朝から約100人の男女が、四つのグループに分かれて、自分たちが企画した参加体験型活動プログラム(ワークショップ)のリハーサルに取り組んでいました。

 彼らは、同大の「ワークショップデザイナー育成プログラム」の受講生。平日に別の仕事をする社会人や主婦が多く、3か月間に基礎から応用まで、ワークショップの企画・運営について120時間、集中的に学びます。そして、修了後、大学から履修証明書が発行されます。

国や企業も受講を後押し

 同大の担当者によると、現在、ワークショップを体系的に学べるのは、国内の大学でも同大のみ。この履修証明プログラムは、文部科学省の「職業実践力育成プログラム」として認定されています。受講料は18万円ですが、雇用保険の「教育訓練給付金制度」の対象になっているため、一定の基準を満たせば給付金が支給されます。また、最近の傾向として、企業が受講料を払い、社員に受けさせるケースも目立ってきているそうです。

 そうした国や企業の後押しもあり、人気は年々高まっています。2009年に始まった時は、受講者は20人ほどでしたが、今では100人の規模になり、受講するのに、数か月待ちの状況が続いているといいます。

ワークショップデザイナーとして働くママ

 神奈川県大和市の今田美玲みすずさん(37)も、2017年にこのプログラムを受講したひとりです。

 現在、5歳の男の子を育てながら、フリーのワークショップデザイナーとして、多い時には月に5回以上、企業や自治体、NPO法人などが主催するワークショップをコーディネートしています。

参加者の交流が活発になるよう、今田さんがワークショップに加わることもあるそう(今田さん提供)

 「参加された方の気持ちをひとつにまとめるという意味で、やりがいのある仕事に出会えたと思います」と話します。

 今田さんは高校卒業後、留学先の北京で就職。その後、大阪の専門商社や横浜の機械メーカーに勤めてきましたが、長男を妊娠した6年前に仕事をやめて、通信制の大学に入り、経営学を学び始めました。

 「仕事と子育てと勉強という三足のわらじは無理。けれど、二足のわらじで頑張ってみたい」という気持ちがあったそうです。通信制の大学は、ほとんどがネット上の授業で、どちらかというと理論重視。充実していましたが、企業向けの人材育成事業を手掛ける友人を手伝ううちに、「自分は『組織づくり』に関心があるのかも……」と思ったそうです。

 3か月で集中的に学べる青山学院大学の講座に魅力を感じたのは、そんなときでした。夫や義理の両親の協力も得ながら、土日ごとに計十数回開かれる青学のプログラムに通いました。

 プログラムの中では、趣味や好みを互いに聞き取って、相手のことを説明する「他己紹介」の方法や、付箋を使って参加者の考えを整理する方法など、参加者同士がコミュニケーションを深める具体的な方法を教わりました。そして、グループに分かれて、実際に体験し、仲間同士で話し合うことで、思わぬ発見が毎回あったそうです。

準備は念入りに、その場に合った方法を模索

 今田さんは、自分でワークショップを企画する時には、参加者の満足度を高めるために、準備を念入りに行っています。本や資料で知識を得るだけでなく、担当者に聞き取り調査を行うことも。高齢者や医療関係者など、それぞれの参加者や組織が抱えている課題や社会的背景を浮き彫りにするようなワークショップにしたいと考えるためです。

 「『参加者や場に合ったものでなければ、ワークショップは効果を発揮しない』と教わりましたから」と今田さん。

 この秋、今田さんは、大きな転機を迎えます。夫の転職に伴い、家族でマレーシアへの移住を計画しているのです。東南アジアに進出する日本企業が増える中、今田さんは、日本人社員と現地の人たちをつなぐ、企業向けワークショップに挑戦したいと考えています。

 「一歩踏み出してみると、初めて違う景色が見えてくるってことがありますよね。私の場合は、それが大学に行くということだったのかもしれません。迷うこともあるかもしれないけれど、やりたいことは、全部やった方がいい。私は、苦しさも全部楽しんでいます」。今田さんは、はじけるような笑顔で話してくれました。

ママになっても学びなおしをあきらめない

 幼い子供を育てながら勉強をするのは難しいと思うかもしれません。女性のキャリアカウンセリングを行っている「エスキャリア」には、転職やキャリアアップに悩むママから多くの相談が寄せられています。

 同社の代表取締役・土屋美乃さんは、「講義を受けたり、自宅での勉強時間を捻出したりするため、夫や家族の協力を仰ぐことも大切です」といいます。そのほか、「地域の子育て経験のある方に1時間800円ほどで子供を見てもらえるサービス『ファミリーサポート事業』など、住んでいる地域にどんな支援制度があるかなどを確認することも大切です」とアドバイスします。

 土日や夜間に授業が行われる大学のプログラムを選んだり、子連れOKの勉強会に参加したりと、自分にあったスタイルのものを選ぶのがオススメだそう。

 土屋さんによると、相談に訪れた女性たちの中には、様々な形で子育てしながらも、リカレント教育を受けている人もいるといいます。「母親が子どもを預けて出かけることを非難する風潮がありました」と土屋さん。「これからの時代、働き続ける女性も多くなってきています。諦めずに家族でしっかりと話し合い、学びなおしに挑戦してほしいと思います」と話していました。

(取材/読売新聞メディア局 安藤光里)