異業種で働く人との出会いが道を開く

リカレント教育

席を固定しないフリーアドレス制のオフィスにいる加茂さん(東京・品川区のCaSy本社で)

 リカレント教育の普及で、社会人として仕事を続けながら大学院に通う人は少なくありません。将来のキャリアアップや資格取得につながるだけでなく、様々なキャリアの人が集まる出会いの場にもなっています。大学院側でも、働きながら通いやすいよう工夫を凝らして社会人を受け入れています。

 家事代行会社CaSy代表取締役社長、加茂雄一さん(36)は、グロービス経営大学院で出会った仲間2人と現在の会社を設立しました。

 大学院に通い始めたのは、2011年。大学卒業後、公認会計士として監査法人で働いて6年目。土日や平日の夜間を利用して、少しずつマーケティングや人材マネジメントなどの基礎科目から学び始めたそうです。

 当時の加茂さんは、株式公開準備を進める複数のベンチャー企業を担当。コンサルティングの一環として、顧客である経営者の方と直接会って話す機会がありました。でも、なかなか話が弾みません。「結局、当時の自分にわかっていたのは、会計のことだけだったんです。もっといろいろな知識を身につけなければ、本音で経営の悩みを聞くことなどできないと思いました」と加茂さん。

土日と平日の夜だけの学生生活

共同経営者の池田裕樹さん(右)は、NTTデータに勤務していたエンジニア。グロービス経営大学院で加茂さんと知り合ったという

 グロービス経営大学院では、「単科生制度」を設けています。基礎的な科目について1科目(4月、7月、10月、1月開講)から選んで履修でき、取得した単位を本科生に進学した場合に卒業に必要な単位として認められる制度です。入学するのは、仕事と勉学との両立をめざす人が多いだけに、この制度を利用する人が入学生の9割になっているそうです。また、急な転勤などに備えて、5年以内であれば単位の持ち越しもできるようにしています。

 その影響からか、2019年の入学者は902人と6年間で倍増しました。男女比は3対1です。

 加茂さんの場合も、基礎的な科目を取得し終わるのに2年近くかかりました。もちろん、その間も仕事は続けていました。「通い続けたおかげで、視野が広がって、話題も豊富になっていました」と加茂さん。そして、同校で、2013年に応用科目の一つ「ベンチャー・キャピタル&ファイナンス講座」を受けたときに、のちに共同経営者となる仲間に出会ったのです。

自分たちが本当に欲しいビジネスを考える

 この講座は、「人」「カネ」「モノ」の3分野での基礎・展開科目を終えた人だけが受講できる人気講座。1回180分・全6回で、3か月後の最終回には、グループワークの成果をクラス35人の前で発表しなくてはなりません。加茂さんとチームを組んだのは、大手IT企業で働く技術者の男性と、大手証券会社に勤める男性。いずれも年齢が近く、ディスカッションにも熱が入りました。3人で、100個近くビジネスプランを出し合いましたが、どれもパッとしません。「もっと自分たちが本当に欲しいと思うビジネスを考えよう」と話し合いました。

 3人は、全員が共働き家庭。加茂さん自身も、妻の妊娠をきっかけに外部の家事委託サービスを使ってみたことを思い出しました。営業マンとの打ち合わせを経て、派遣されるのは2週間先。サービスへの満足度は高いものの、価格面で「1時間5000円程度」という業界の常識がどうにも納得できませんでした。3人で話し合ううちに、「営業経費はもっと切り詰めることができるのではないか」「ネット上で“クラウド・ソーシング”の形態で、マッチングの仕組みを作れば、働きたい人とサービスを受けたい人とをつなぐことが可能」など、次々とアイデアが飛び出しました。

資金面でも講師がバックアップ

 講座の最終回で、自分たちのビジネスプランを発表すると、講師から「ぜひ実現させてほしい」と言われました。そして、この3人で講座が終了した4か月後に家事代行会社「CaSy」を創業したのです。3人で100万円ずつと、講師が紹介してくれたベンチャー・キャピタルからの700万円の合わせて資本金1000万円でスタート。スタッフの募集から教育訓練、マニュアル作りまで、手探り状態で進めてきました。

スタッフ研修や表彰式の写真を見る加茂さん

 現在、同社では東京、大阪を中心に、「キャスト」と呼ばれる登録スタッフは約6000人。お客様の登録数は約7万人に。専用アプリで、登録から、具体的な仕事の依頼、支払い、サービスの評価まで完結する設計です。掃除や料理代行を1時間2500円(定期利用の場合は割引あり)で依頼できる点や、依頼した当日の3時間後からスタッフ派遣が可能などの点が他の家事代行会社との違いだそうです。

 「グロービスに通い始めたときには自分が起業するなんて思っていなかっただけに、本当に急展開でした。役員報酬が2か月間ストップするという時代もありましたが、やってみれば何とかなるものですね。業種も経験も違う2人とは、本気の議論を繰り返してきたから心強かったです」と加茂さん。

 加茂さんのように、大学院に通うことで、信頼できる「仲間」と出会うケースもあります。社会人として経験を積み重ねた人たちが、自ら選択して受けるリカレント教育は、参加者同士でさまざまなエネルギーのぶつかり合いが期待できるのかもしれません。

 (読売新聞メディア局編集部・永原香代子)