付録つき本のヒット作を生み出す秘訣 宝島社・皆川祐実

働く女のランチ図鑑 vol.16

 人気ブランドのグッズなどがお手頃価格で手に入る付録つきの本。書店やコンビニなどには様々なものが並び、出版不況と言われるなかで人気を博しています。今や、付録つきの本は多くの出版社から出されていますが、その先駆けとなった宝島社で、数々のヒット作を生み出しているのが、同社マルチメディア局・編集長の皆川みなかわ祐実ゆうみさん(33)です。皆川さんの仕事の様子や、仕事を支えるランチについて迫りました。

チームきってのヒットメーカー

 皆川さんが所属しているマルチメディア局は、付録つきの本を制作する部署。一口に“付録つき”といっても、付録になるのは、ブランドバッグや調理グッズ、キャラクターグッズなど様々です。

 現在、マルチメディア局には30人ほどが所属しています。週に1回開く会議で企画案が通ると、ブランドへの依頼や製作、宣伝から決算まで全てをこなさなければならず、「マルチタスクが求められる仕事」。企画した商品は、短くて2か月、長ければ1年ほどで書店に並びます。

 6人が所属する皆川さんのチームは、毎月、6~8冊の本を出版しています。皆川さんが提案して商品化されるのは、そのうちの半分ほど。これまでに、人気キャラクター「ふなっしー」のグッズつきの本などを手掛けてきた皆川さんは、チームきってのヒットメーカーです。

 昨年、皆川さんが手掛けた本は、新刊だけで160万冊以上の発行部数を記録しました。なかでも、最もヒットしたのが、北欧スウェーデンの雑貨ブランド「moz(モズ)」とコラボしたリュックサックをつけたもの。昨年1月に書店で発売したところ、好評だったことから、夏にセブン―イレブンで販売すると、1年足らずで発行部数が約50万部に迫るヒット作となりました。

 ヒットの鍵は、リュックを入れるパッケージを透明な袋に変えたこと。これまでは、中身が見えない箱型のパッケージを使ってきましたが、グッズにどんな素材が使われているのか、どれぐらいのサイズ感なのかを、確認してから購入できるようにしたのです。また、書店の場合、購入者の8割が20~40歳代の女性でしたが、コンビニに置いたことで、客層が広がったそうです。

スタンプラリーでランチ選び

 打ち合わせや営業のため、ランチは外で食べることが多いという皆川さん。最近は、地図サービス「グーグルマップ」を使った、スタンプラリー形式のランチ選びにはまっているそうです。行ってみたい飲食店が見つかるたびに「行きたい場所」という緑の旗マークのピンを立てておき、外回りの際は、行きたい場所のリストの中から近くにある店を選択。利用したら、ピンを既に行った場所を表す星のマークに変えるなど、リストを更新するのを楽しんでいます。

実際に皆川さんが使っている地図がこちら

 最近行った店で印象的だったのは、東京メトロ・代々木公園駅にほど近いベーカリー「ルヴァン富ヶ谷店」。近くには、大学時代にインターンで通っていたデザイン事務所があります。

 ルヴァンのチーズトースト

 小さい頃から、漫画家・さくらももこさんのエッセーの装丁が大好きだった皆川さん。本の表紙のデザインをする装丁家を目指して、美大でデザインを勉強しました。当時は、勉強に必要な機材を買うため、いくつものバイトを掛け持っていたといいます。

 「店の前を通るたびに気になっていたものの、良いパンを買うお財布の余裕がなくて、いつも眺めているだけでした」と当時を振り返ります。ところが、外回りの最中、たまたま店が目に飛び込んできて、思わず中に入ったそうです。十数年越しにようやく食べることのできたチーズトーストは、「すごくおいしかった。自分で働いたお金で、食べられるのが幸せだなあ……としみじみしちゃいました」。

読者の感覚や流行を分析

 「多くの人と話すことで、情報がストックされていく。そうすると、売れ筋や売り時の判断ができるようになります」という皆川さん。外回りなどを通して一人でも多くの人に会うことこそが、ヒット作を生み出す秘訣ひけつと教えてくれました。

 例えば、ブランドのデザイナーや広報担当者と話していると、「去年は黒色の商品しか売れなかった」「リュックは25リットルのサイズが一番売れる」など、実際にどんな商品が売れたのかを具体的に教えてもらえることがあります。少しでも生の情報をキャッチするため、他の人が担当している企画であっても、新しい取引先とのあいさつの席には必ず行くようにしています。

 通販、書店のホームページの売り上げランキングや、SNSのトレンドランキングなどに1時間おきに目を通すなど、あらゆるところにアンテナを張り、常に読者の感覚や流行を分析するようにしています。

スランプに苦しんだ経験も

 そんな皆川さんですが、以前は今ほど情報収集をしていなかったそうです。きっかけとなったのは、2017年に編集長に抜てきされる数年前、スランプに苦しんだ経験でした。

 当初、志していた装丁家の道は厳しく、アルバイトとして08年に宝島社に入社。マルチメディア局の前身である部署に配属され、年賀状作成ソフトやパソコンの専門書などの制作に携わってきました。その頃から付録つきの本が流行し始め、皆川さんも企画に携わるようになり、ヒット作も生み出しました。

 けれど、ある日から半年ほど、ぱったりと売れなくなってしまったのです。「売れない時って、心が砂漠になるんです。自分はどう動けばいいのか、どうしたら売れるものが作れるのか、もがき続けていました」

 それでも、作り続けていくうちに、「自分の信念はあってもいいけれど、1割は『聞く耳』を持たないと、世間の感覚とずれてしまう。編集者って、自分の『かっこいい』ことが正しい仕事じゃない」と、自分の勘やセンスに頼って仕事をしていたことに気づいたのです。

出版社にいるのって最強!

 これまで数々のブランドバッグを企画してきた皆川さん。培ってきたノウハウを駆使して、いずれは宝島社からバッグのオリジナルブランドを立ち上げたいと考えています。

 「『出版社といえば、紙』ではなく、コンテンツメーカーとしての意識を持って日々取り組んでいます。勢いがない業界といわれますが、私はそうは思っていません。本の編集に縛られた発想では、未来はないでしょう」と、皆川さんは言葉に力を込めます。

 「誰かに会いたければ、アポをとれば、普段なかなか会えない方にも会える可能性が高くなります。出版社にいるのって最強だなって思うんですよ。そこを理解すれば、いろんなことにチャレンジできるし、枠にとらわれないアイデアを持つ人が増えれば、掛け算で可能性はどんどん広がっていくはずです」

(取材・文/メディア局編集部 安藤光里、写真/金井尭子)

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 生き生きと働く女性をクローズアップする「働く女のランチ図鑑」。職場での仕事ぶりや気になるランチの様子をお届けします。

金井 尭子(かない・たかこ)
フォトグラファー

 ニューヨーク市立大学ハンターカレッジ舞台芸術学部卒業。 帰国後は都内の撮影スタジオに勤務し、2011年独立。得意分野は人物ポートレイト。 バンコク発のファッションブランドに夢中で年2回は必ず訪泰。 現在はフリーランスフォトグラファーとして東京をベースに活動している。ホームページ