ものの見方は、ひとつではない カルビー 中野真衣さん

成功をもたらしたこの一冊

 ポテトチップスでおなじみの食品メーカー、カルビー。女性活躍の先進企業としても知られています。執行役員・品質保証本部本部長、中野真衣さんは品質保証の責任者を務めています。臨床心理学者、河合隼雄さん(1928-2007年)のファンだという中野さんが大切に読み続けているのが、「こころの処方箋」です。「ものの見方は一つではないことを教えてくれる本です」

ひとつの考えにとらわれない

 「こころの処方箋」(河合隼雄著、新潮文庫)。「100%正しい忠告はまず役に立たない」「マジメも休み休み言え」など55章からなる。

――この本を選んだのは、なぜですか。

 初めて読んだのは、大学生のころ。河合隼雄さんが好きなのですが、そのきっかけがこの本でした。

 例えば、「己を殺して他人を殺す」という章があります。己を殺すというのは美徳のように思われるけれど、自分を殺しているうちに、他人を殺すことになる場合もある、というのです。我慢することが、相手にプレッシャーを与えることにもなる、というんですね。そこから、「ああ、そうだよね。頑張らなくてもいいんだよね」というメッセージを受け取ることができます。書店で見かけると、持っているのを忘れて、つい買ってしまうこともありました(笑)。

――読み返してみて、どんな感想を持ちましたか。

 管理職になって、社内外との折衝やトラブルなど、モヤモヤすることもあります。自分を振り返りつつ、一つの考え方にとらわれてはいけないな、と改めて思いました。それは自分自身の根底にある思いでもあり、人としての接し方にもつながっています。

――女性の活躍を推進しようとする企業にとって、カルビーはお手本のような会社です。2018年4月の女性管理職比率は26.4%。役員20人のうち、女性が7人で、そのうちの一人が中野さんですね。ご自身のキャリアについて教えてください。

 30代は子育て中心で、割り切っていました。育児休業をとり、短時間勤務にして。働き続けることには迷いはありませんでした。上司も理解がありましたし。食べることが大好きなので、料理も好きで、仕事から帰宅していかに早く作るかを楽しみにして、「こんなに早くできた」と満足したりしてね。大学3年の長女が中学生のときからお弁当づくりもしています。子育ては悩みもしたけれど、友人もできたし、たくさんの学びがありました。

抜擢のチャンスをどう生かすか

――現在の役職を提示されたときはどう思いましたか。

 育休をとったとき、同期は皆ステップアップしていて、取り残されたと思っていました。それが今度は急に抜擢ばってきしていただいて。時代の流れだと思いましたが、与えてもらった機会に自分をどう生かしていくかが重要だと考えました。

 品質保証部門ということで、もともと守りの性格ではなかったので、とてもとまどいました。知人の中には「本当にあなたが?」と言う人もいました。子どもも大きくなっていましたから、いい勉強になるし、声をかけてもらったからには頑張ろうと。

――女性管理職をサポートする仕組みはあるのですか。

 昔は「アネゴネットワーク」というのがあって、女性管理職が集まって月に1回、悩みを語り合うような場がありました。そのときのつながりで、今でも気軽に相談できるなど助けになっています。今は、キャリアやメンバーの活躍を考えるためのメンター制度等が実施されています。

――品質保証は、どんな仕事ですか。管理職として心がけていることは何ですか。

 原料の審査、品質保証、パッケージの裏面の表示、工場の品質管理、リスク管理、情報収集などです。お客様第一優先で、お客様にとってどうあるべきか、という立場で、品質に責任を持つ部署です。

 品質保証本部は25人。表舞台ではないけれど責任の重い職場ですから、ストレスを感じるメンバーもいると思います。ですから、メンバーがイヤイヤではなく、前向きに仕事に取り組めるようにするのが私の役目です。面談をしたり、声を掛けたりして、コミュニケーションを密にしています。

学習会で多様な意見を聞く

――役員になって変わったことはありますか。

 理系出身で、経営や財務に弱く、勉強しても頭に入ってこない。そこで、自主的に学習会に通うようになりました。1か月に1回程度ですが、分野も年齢も異なる人たちが集まって、テキストを読んで、意見交換する。ミニMBA(経営学修士)講座のようなものですね。

――イノベーション・オブ・ライフは、そこで知った本なのですね。

 ハーバード・ビジネススクールの看板教授、クレイトン・M・クリステンセンらによる「イノベーション・オブ・ライフ ハーバード・ビジネススクールを巣立つ君たちへ」(翔泳社)。経営論の専門家が人生について論じた。

 課題図書で最初に読んだときは経済の本かと思い、斜め読みでした。勉強会でほかの方からこの本の感想を聞いて、読み直しました。すごくいい本で、仕事の仕方、働き方に言及していて、就活中の娘にあげようと思いました。本は、自分で読むだけでなく、だれかと意見交換するのがとてもいいですね。読む人によって、こういう解釈もあるんだ、とわかるのは貴重な経験です。

――これからの目標はありますか。

 長男があと1年で高校を卒業するので、そうしたら出張にも旅行にも行きたい。「ついにきた!」という感じで、何をやろうかとワクワクしています。仕事の上では、経営の勉強をして、会社全体を見られるようになりたいですね。

――後輩たちへのメッセージを。

 自分のやったことは自分に返ってきます。だから、自分の心が「いいな」と思う体験をしてほしい。とはいえ、自分らしさを探すのは疲れる、という人もいますよね。だから、頑張りすぎずにゆっくりした時間を持つことも大切です。今のままの自分を見つめる時間を持ち、自分のことをほめてあげられるといいですね。

(聞き手・読売新聞メディア局 小坂佳子)

中野 真衣(なかの・まさえ)

 カルビー株式会社執行役員・品質保証本部本部長

 静岡県菊川市出身。1993年、カルビー入社。東京研究開発センター、ポテトチップスカンパニーなどを経て、2011年に品質審査部食品法令課課長、15年に品質審査部部長などを経て、2016年から現職。