女性社員の「ロールモデル」を目指したワケ エイベックス・大井奈津子

働く女のランチ図鑑

 音楽や映画といったエンターテインメントは、私たちの日常生活を楽しく豊かなものにしてくれます。「エイベックス・デジタル」は、動画などデジタルコンテンツの制作や配信などを手掛ける、総合エンターテインメント企業・エイベックスのグループ会社。同社で新規事業を担当している大井奈津子さん(36)に、仕事へかける思い、仕事のエネルギー源となるランチについて聞きました。

音楽会社なのに音楽をやれないコンプレックス

 エイベックスと聞くと、有望な新人アーティストを発掘し、育ててデビューさせる音楽会社というイメージを抱いている人も多いかもしれません。しかし現在は、音楽・デジタル・アニメ事業を主軸とした様々なエンタメの分野を手がけています。

 「もともと小学校は合唱部に所属して、年の離れたいとこが音楽関係の会社で働いていたこともあり、中学生くらいから漠然と音楽業界で働きたいと思っていました」という大井さん。念願かなってエイベックス本社に入社したものの、主に携わったのは、アニメやドラマのDVD販売や動画配信サービスでした。

 「少しだけ音楽の仕事をやったことがありますが、基本は動画配信。当時は、音楽の会社に入ったのに音楽をやれていないというコンプレックスはありましたが、任された仕事はやりがいがあってすごく面白い。夢中で取り組んでいましたね」

インタビューしたのは、おしゃれなカフェのような社員食堂「THE CANTEEN」でした。

  2017年にエイベックス・デジタルに異動。組織改編で、「エンターテック(エンターテインメント×テクノロジー)というキーワードで、新しい事業を起こす」という目的を掲げた部署が発足し、大井さんは「新しいエンタメを模索したい」と異動を希望しました。

 そこで大井さんがスタートから携わったのが、体験型のギフトサービス(現在はサービスは終了)でした。「若者の文化を創るというイメージが強い業界ですが、人生100年時代。もう少し年上の人たちに新しいエンタメのアプローチをしたかった」(大井さん)と、結婚式の引き出物でもらうカタログギフトのようなスタイルで、ヨガインストラクターのレッスンが受けられたり、有名シェフの料理を楽しめたりする体験型のギフトを考案したのです。

多彩な人材を生かしたサービスを

 インストラクターやシェフを務めるのは、エイベックスに所属しているスペシャリスト。音楽以外でも多彩な人材をマネジメントしていることもあり、それを生かしたいという思いもありました。「それまで携わっていたのは、お客さんの顔が見えない仕事が多かったので、何かリアルに楽しんでもらえるものを作りたかった」と大井さんは振り返ります。

 現在も新たな事業を模索している大井さん。普段から最新のデバイスやサービスをチェックするなど「常にアンテナを張るようにしています」と話します。

ランチは高たんぱく低糖質

 大井さんの仕事の原動力になっているのが、社員食堂のヘルシーランチです。

社員食堂「THE CANTEEN」のヘルシーランチはカロリー控えめです。 

 メーンのおかずは魚料理中心で、小鉢2つとご飯、みそ汁がセットで付いて500円。小鉢はサラダに、ご飯も雑穀が交ざった「健康米」に変更できるため、ヘルシーな組み合わせが楽しめます。

 会社が休みの日には、フィットネスクラブで筋力トレーニングをしたり、仲間とフットサルをしたりとアクティブに過ごしていますが、「太りやすくなったし、夜は会食も多いので」、ランチは高たんぱく、低糖質を心掛けているそう。社員食堂で食べない時も、近隣のサラダ専門店でサラダを購入することが多いといいます。

 1年前に完成したばかりのエイベックスビルの社員食堂は、カフェのようにおしゃれで居心地もよさそうです。社内はどこでも仕事ができるフリーアドレス制のため、ここで仕事をする人もいます。

こちらはオフィス。色とりどりのソファーやイスが並び、社員は好きなところで仕事をすることができます。

目指したい女性が消えてしまう

 大井さんが新規事業の部署に手を挙げたのには、もう一つ理由がありました。それは、少し年上の女性の先輩たちが、結婚や出産を理由にやめてしまう姿を数多く見てきたから。「目指したいと憧れていた女性の先輩が消えてしまうんです」。仕事は面白いけれど、ハード。テレビ番組の収録などは、関わる関係者も多く、なかなか自分の裁量で動くことが難しいといいます。

 「『午後5時を過ぎても仕事をしていたい!』と思っても、子育てをしていたら旦那さんの協力や実家の助けが必要になります」

 出産すると、多くの女性社員が管理部門など子育てと両立しやすい部署を希望します。「今でこそ、『女性活躍』と言っていますが、5~10年前はそんなに重要視されていなかった。『出産して会社に居続けるのはかっこわるい』くらいの風潮があった」と大井さんは振り返ります。

 現在エイベックスは、グループ企業を含めた全社員のうち女性の割合は約40%に上り、産休・育休の制度など福利厚生は整っています。しかし、課長職以上の女性管理職の割合は約1割。現在、女性の役員はいません。

「自分がロールモデルに」と決意

 大井さんは、4年前に社内結婚をしました。「いずれ子どもは産みたいけれど、エンタメの現場にもい続けたい。どうすれば自分は成長し続けられるのか」。漠然と悩んでいた時、「それなら自分がロールモデルになればいい」と思い付いたといいます。そして「子育てをしながらできるエンタメの仕事を自分で作ろう」と決心し、現在の部署への異動希望を出しました。

 社内で新規事業を起こしている先輩ワーママから、「あなたもやりなさい」と背中を押してもらったのも、頑張ろうと思えたきっかけでした。

 現在の部署は、突発的な対応を求められることが少なく、ワーママにとって働きやすい環境。大井さんは、子どもができても変わらず仕事が続けられるよう、自分で締め切りを決めて、効率的に仕事を進めることを意識しているそうです。

そろそろ会社に恩返しを

 子育てをしながら仕事を続けたい。そんな大井さんの思いは、仕事以外でも発揮されています。2017年、社内横断的に女性視点を交えてエイベックスの企業課題の解決を目指すプロジェクト「nadesico a-project」のメンバーになりました。メンバーは、20~40代の女性が15人ほど。女性社員向けに、社内で活躍する女性管理職の話を聞いたり、キャリアを考える研修を行ったりしています。全社員向けにも、女性視点で選出した外部の有識者に講演に来てもらう機会を作るなど、様々な活動に取り組んでいます。

 社内は、女性社員は増えても、各部署に数人ずつ配置され、お互いに交流があまりありませんでした。そこで、女性社員に横のつながりを作ってもらおうと、ヨガ教室などのイベントも行いました。

 「現場で忙しく仕事をしていると、5年先、10年先のことを考えるのってなかなか難しい。nadesico a-projectが、自分のキャリアやライフステージを考えるきっかけになれば、と思っています」と、大井さんは言葉に力を込めます。

 仕事に、プロジェクトに、充実した日々を送る大井さん。「新卒からこの会社で働いてきて、そろそろ恩返しをしないと、と思って。なんか、会社好きなんですよね。単純に、ただそれだけなんだと思います」

(取材・文/山口千尋、写真/金井尭子)

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 生き生きと働く女性をクローズアップする「働く女のランチ図鑑」。職場での仕事ぶりや気になるランチの様子をお届けします。

金井 尭子(かない・たかこ)
フォトグラファー

 ニューヨーク市立大学ハンターカレッジ舞台芸術学部卒業。 帰国後は都内の撮影スタジオに勤務し、2011年独立。得意分野は人物ポートレイト。 バンコク発のファッションブランドに夢中で年2回は必ず訪泰。 現在はフリーランスフォトグラファーとして東京をベースに活動している。ホームページ