天職に出会った「重機女子」の願い 日本キャタピラー 中畦綾希子

働く女のランチ図鑑 vol.9

 地面を掘り、斜面を整える油圧ショベル、たくさんの土砂を押して運ぶブルドーザー――。工事現場などで見かけ、その豪快で力強い動きに目が離せなくなる人も多いはずです。そんな現場で活躍する様々な重機等の販売を手掛ける「日本キャタピラー」で、重機操作のデモンストレーターを務めているのが、中畦なかうね綾希子さん(32)です。男性の多い世界で奮闘する「重機女子」中畦さんに、仕事の魅力やハードな仕事を支えるランチを聞きました。

 中畦さんの職場は、埼玉県秩父市にある「日本キャタピラー D-Tech Center(ディーテックセンター)」。広い敷地には土砂の山や、様々な角度の坂があります。ここに、油圧ショベルやホイールローダなど28台の重機が備えられています。中畦さんは、購入を検討している人に、デモンストレーションを見てもらったり、新しい機能が搭載された重機の使い方やメンテナンス方法を説明したりします。実際に試乗してもらうこともあり、どのような現場で使うのかを前もってヒアリングして、適した重機や砂利を用意するなど、「事前準備も大切な仕事」(中畦さん)です。

ロボットアニメ好きが高じ

 小学生の頃からロボットが登場するアニメが大好きだった中畦さん。地元・秩父市の高校を卒業した後、「大きな機械を操れるかも」と、派遣会社に登録して工場で働き始めました。しかし、担当したのは大きな機械ではなく、顕微鏡を使った細かい作業。2008年のリーマンショックで仕事がなくなり、「まずは資格を取らなきゃ」とフォークリフトの資格を取ったところ、ハローワークで現在の職場を紹介されて働くことになりました。「『何か大きなものを動かしたい』という小学生の頃からの夢がかなってうれしかったですね」と言って、中畦さんは顔をほころばせます。

 仕事が充実する一方、プライベートでもステキなことがありました。地元のお祭りに行き、御神楽奉納を見た時のこと。「楽しそう」と思って入った神楽団で、夫となる男性と出会ったのです。現在は3人の子どもに恵まれ、夫婦で協力しながら子育てをしています。

弁当に夫のこだわり卵焼き

 そんな中畦さんのお気に入りランチは、「弁当男子」の夫が作ってくれるお弁当です。作り始めた頃は、おかずがきっちり詰められていなくて、片方に寄ってしまい、お弁当箱の3分の1が空洞になっていることもありました。でも今は、きっちり隙間なく詰まっているそう。

愛夫弁当。この日の卵焼きの具はシラスでした。

 お弁当のおかずは、晩ご飯の残りものや、前夜に準備したもの。中でも、夫のこだわりは卵焼きです。必ず入っていて、味付けや、中に入っている具が毎回変わるそうです。具はチーズやほうれん草など様々。「家に帰ってから、『今日はしょっぱかった』『おいしかった』などと感想を伝えています」と中畦さん。夫も同じお弁当を食べているため、「やっぱりそうだった?」と会話が弾みます。夫は、出汁の量を調整したり、巻くのを練習したりと、日々頑張ってくれています。お弁当がない日は、職場の人と近くのラーメン屋さんに行くことが多いそうです。

退職を思いとどまらせた上司の言葉

 家事・育児に協力的な夫とともに、7歳、5歳、1歳の3人の子どもを育てる中畦さん。仕事と育児の両立がばっちりできているように見えますが、第1子を妊娠したときは「会社をやめようかと思いました」と打ち明けます。重機は振動が激しいため、妊娠が分かった時点で乗れなくなります。そのため、デモンストレーターの仕事をしている女性は、妊娠がわかると退職するケースがほとんどでした。天職ともいえる仕事を続けるかどうか悩んでいた時、当時のセンター長から「今はそんな時代じゃないんだから、やる気があるなら育児休暇を取って続けてみないか」と声をかけてもらいました。

 妊娠中は、事務方の仕事を手伝ったり、他の社員がデモンストレーションする様子を客に説明する役を担当したりしました。その後、同センターで働く女性としては初めて、育休を経て職場に復帰しました。「センター長のあの言葉があったから今も仕事が続けることができたんだと思います」と中畦さん。職場では、中畦さんに続いて育休を取る女性が出てきたそうです。

重機にもICT化の波

 重機の操作は経験が重要です。例えば、建設機械で盛り土や整地を行う時、ベテランのオペレーターは、長年の感覚である程度まで仕上げることができます。しかし、これができるようになるまでには、10年はかかるそう。一方、建設業界はオペレーターの高齢化や人手不足が進み、若手の育成やさらなる効率化が急務になっています。

 その課題を解決する策の一つとして、最近では、ICT(情報通信技術)化された重機も登場しました。GPSで位置情報を取得し、設計図に合わせて半自動で施工ができるものも普及しつつあります。「ICTに対応した重機が増えることで効率化が進み、若手の経験不足も補えます。土木現場が、多くの人にとって長く続けられる魅力的な職場になってほしい」と中畦さんは願っています。

 大好きな重機に囲まれる仕事ももう10年。「これからは後輩の指導にも力を入れていきたいです」

(取材・文/山口千尋、写真/金井尭子)

 ◇    ◇    ◇
 

 生き生きと働く女性をクローズアップする「働く女のランチ図鑑」。職場での仕事ぶりや気になるランチの様子をお届けします。

金井 尭子(かない・たかこ)
フォトグラファー

 ニューヨーク市立大学ハンターカレッジ舞台芸術学部卒業。 帰国後は都内の撮影スタジオに勤務し、2011年独立。得意分野は人物ポートレイト。 バンコク発のファッションブランドに夢中で年2回は必ず訪泰。 現在はフリーランスフォトグラファーとして東京をベースに活動している。ホームページ

お台場で重機類の企画展

 工事現場で活躍する重機が間近で見られる企画展「『工事中!』~立ち入り禁止!?重機の現場~」(2月8日~5月19日)が東京・お台場の「日本科学未来館」で開かれています。重機のオールスターが大集合するだけでなく、土木の最先端技術も知ることができます。詳しくはこちら