企業の役員や代表として道を切り開いてきた女性たちが、キャリアの軌跡を支えた本を紹介し、20~30代の働く女性たちにエールを送ります。
ユナイテッド・ワールド・カレッジISAKジャパン代表理事の小林りんさんは、長野県軽井沢町に日本で初めての全寮制国際高校を開校しました。社会を変革するリーダーを育てようと、国際的な大学入学資格「国際バカロレア」を取得できるプログラムも導入しています。2014年の開校時に50人だった生徒数は、今では73か国の190人に増えました。7割の生徒が奨学金を得て学んでいます。ゼロから理想の学校づくりに挑戦した小林さんが大切にしている本は、「自助論」。サミュエル・スマイルズの世界的名著です。
天は自ら助くる者を助く
「自助論」は、イギリスの著述家、サミュエル・スマイルズ(1812~1904年)が記した人生論です。日本語訳は「西国立志編」として1871(明治4)年に出版されました。三笠書房から竹内均訳の文庫本が出ています。
――いつごろ読んだのですか。
大学生のころだったでしょうか。最初に書いてあることが全てですね。「天は自ら助くる者を助く」。大変有名な言葉です。若い女性たちから、「ガラスの天井はどう打ち破ればいいんですか」「どうやったら家庭と仕事を両立できるんですか」と、よく相談を受けます。そのときに、この言葉を伝えるようにしています。
うまくいかない理由を上司や環境のせいにする人が多い気がします。もちろん、日本の企業はまだまだ男性社会のところもあります。でも、道は二つしかない。天井がなくなるように自分であの手この手で努力するか、天井にぼこぼこぶつかって痛いというのならやめるか。どっちもせずに、天井の真下ぐらいで根比べしている人が多いけれど、どちらかを選ぶことをお勧めしたいです。
意志の力で幸運を勝ち取る
――何度も読み返しているのですか。
私には自助論の生き方がしみついています。めくるまでもないけれど、いくつかページの端を折ってあります。例えば、68ページ。「われわれを助けるのは偶然の力ではなく、確固とした目標に向かって粘り強く勤勉に歩んでいこうとする姿勢なのだ」とあります。
信じるものを愚直に成し遂げていくだけ。私自身、学校をつくるまでにたくさんの幸運もあったし、不運もありました。でも、失敗や不運を嘆いているだけでは、幸運は巡ってこない。ラッキーは自分がたぐりよせるもの。自分の意志、意志の力がとても大事なのです。
――高校の運営は軌道に乗ってきたようですね。寄付集めなどの反応はいかがですか。
軽井沢に住み、月曜から木曜は東京に通って寄付や支援を得るための働きかけをしています。おかげさまで、たくさんの方に共鳴していただいています。
設立時、グローバルで多様な教育が日本人にとても刺激になるのではないか、日本の教育が変わるのではないか、という期待を寄せていただき、多くの寄付をいただきました。最近では、卒業した海外からの生徒の親たちが「子供がとても成長した」と喜んでくださり、海外からの寄付も増えています。
本来、教育は貧困など負の連鎖を断ち切る唯一の手段のはず。でも、今は経済格差が教育格差に結びつき始めています。教育が一部の富裕層のものにならないために、奨学金は大変重要です。そうした私たちの理念に賛同し、多くの方々がご支援くださることに感謝しています。
逆境を楽しむ強さ
――最近、読んで心に残っている本は何ですか。
ディー・エヌ・エー(DeNA)の創業者、南場智子さんの「不格好経営」です。少し前に南場さんと知り合って、とてもチャーミングな方だったので、もっと知りたくて読みました。
「不格好経営 チームDeNAの挑戦」(南場智子著、日本経済新聞出版社) 創業当時の失敗や成長過程の苦労など奮闘の舞台裏を、創業者自身が赤裸々につづった。
――感想は?
久々に泣けました。南場さんは格好いい人です。ものすごい失敗をしていて、それに比べて自分の苦労はかわいいもんだと思いましたね。逆境を楽しんでいる感じがしました。どんな逆境でも前向きで、「自ら助くる者」なんです。
幼少期のことも書いてあって。スペシャルな環境に育ったわけではなく、どちらかというと伝統的な価値観のご家庭に育ち、家を出たい一心で大学受験をし、行動を起こして道を切り開いています。誰もがこんなふうになり得るという希望を持てます。
女性のトップが増えれば働き方が変わる
――校内に小さな子もいますね。先生方のお子さんでしょうか。
ここでは、これが普通の光景なんです。男の先生が哺乳瓶で授乳しながら授業することもあります。私も仕事に子供をよく連れてきました。
女性がトップだと、多様な働き方がいろんな人に自然に浸透していくと思います。ですから、女性の活躍推進のために女性の起業家を増やすことを提唱しています。かつてはいろんなことを犠牲にしてキャリアを積んできたかもしれませんが、今は家庭を持ち、子供を育て、時には時短したりしながら、何かをあきらめることなく、自然体で両立ができるようになりつつあります。
――20代、30代をどう過ごせばいいですか。
人生100年時代。20代でやりたいことが定まっている人の方が少ないでしょう。転職が当たり前の時代になると思いますが、どこに行ってもベストを尽くすことが大切です。人材が流動化すればするほど、どこかで必ずかつて仕事を共にした人に巡り合うからです。キャリアは、「現状が嫌だから」という消極的な理由で転職するのではなく、自分にとって大事な軸は何かを見極めて積極的に歩めるほうがいい。
――ご自身もいくつか職を替わっていますね。
20代、30代と、自分のやりたいことと働き方、どちらの軸を優先すべきか、ずっと悩んでいました。
20代は働き方を優先させて、ベンチャーで若くても責任を持たせてくれる会社に身を置きました。その後、働き方より、やりたいことに舵を切りました。29歳で大学院に行き、教育を学び、ユニセフで働いたのです。ですが、今度はやりたいことはできても、働き方との間でジレンマに。
結果的に社会起業家という道を選びました。教育業界に身を置きながらベンチャースピリッツでやっていける。今の20代の人たちにも、どういうふうに働きたいのか、自分にとって何が大事なのか。自分に問いながら生きていってほしいですね。そして、既存の選択肢の中に答えがなければ、自分で創ればいい。
内と外、両方のニーズを
――ほかに、仕事をしていく上で大事なことは何ですか。
自分は何にドキドキワクワクするのかを問い続けると同時に、他の人は何を求め、何に困っているのかを問う。内なる問いと、外への問い。両方の問いがピタッと合ったときに、大きな山が動くと思います。どちらかに偏っている人が多い気がしますが、自分自身と社会、双方のニーズに目を向けることが、困難を乗り越えるカギとなるのではないでしょうか。
大手小町は3月8日の国際女性デーに向けて、2019年1月から働く女性を応援するキャンペーン「#for your smile」に取り組んでいます。「成功のためのこの一冊」も関連の企画記事です。2月23日にはシンポジウムも開催します。シンポジウムの詳細はこちら。