人生は旅のようなもの ユニリーバ・ジャパン 島田由香さん

成功をもたらしたこの一冊

 企業の幹部や起業家として活躍する女性たちに、キャリアを後押ししてくれた本や、元気を与えてくれる愛読書など、人生におけるかけがえのない一冊を紹介してもらいます。初回は、日用品・食品大手「ユニリーバ・ジャパン」の取締役人事総本部長、島田由香さんです。

  ユニリーバ・ジャパンは、社員が働く場所や時間を自由に選べる新しい人事制度「WAAワー」(Work from Anywhere and Anytime)を2016年に導入しました。働き方を多様化し、社員の能力を引き出そうとの試みは、他企業からも注目されています。島田さんは人事トップとして導入に大きく貢献しました。そんな島田さんが大切にしている一冊は、ブラジルの作家、パウロ・コエーリョの「アルケミスト 夢を旅した少年」です。

 「アルケミスト 夢を旅した少年」(パウロ・コエーリョ著) 羊飼いの少年が旅をしながら錬金術師アルケミストの導きや様々な出会いを通じ、人生の知恵を学んでいくというストーリー。1988年に出版され、世界的ベストセラーになりました。KADOKAWAから文庫本が出版されています。

 人生は自分を見つけていく旅

――この本との出合いは?

 30歳ごろでしょうか。周囲から勧められて購入したのですが、絵本のような装丁がとてもすてきでした。実は錬金術のような不思議なことにすごく興味があって。人類の歴史には、神話だとか魔術だとかいろいろあって、錬金術にも神秘的なものを感じていました。
 

 読んでみると、本当に引き込まれました。なんて深いことを言っている本なんだろう、と。一見、残念なことや困ったことでも、主人公の旅のなかでちゃんと役割をもっている。そして読み終わったときには、夢をもって最後のページを閉じられる。本自体にすごくエネルギーを感じました。
 

 人生って旅だな、と思っていましたが、この本を読んで再認識しました。今もよく人に「人生は自分を見つけていく旅」「自分の本気を知る旅」だと話しているのですが、それは「アルケミスト」がベースにあるのかもしれないですね。

――今は手元にない?

  お守りみたいな感じでしばらく持っていたのですが、数年前に書籍のイベントのときに人に譲ってしまったんです。今は英語版を持っています。2年前、米国のセドナに行った帰りに、フェニックスの空港の小さな書店で見つけたものです。毎年、グループでスピリチュアルツアーをすると決めてて(笑)。

フェニックスで購入した英語版の「アルケミスト」

 赤い表紙がきれいでしょ。ちょうどセドナで大地のエネルギーを感じ、ワシに親近感を持っていたので、表紙の真ん中に太陽、上にワシ、下にピラミッドがあって、思わず購入しました。
 

 私、結構、太陽をモデリング(手本に)しているんですよ。「太陽って、どんな気持ちなんだろう」とか、通勤途中に考えたりして(笑)。太陽って本当すごい。分け隔てなく、すべてに同じだけのエネルギーを届けている。地球どころか宇宙に。時に雲が出て私たちのところに光が届かないこともあるけれど、太陽自体は何も変わらないわけです。自分も太陽みたいな存在であれたらな、と思っています。

――この物語のどこにひかれるのでしょう。

  運命をきちんと認識することが私たちひとりひとりにとっての責任、義務だっていうことがわかる。人生の旅、自分の向かっていく方向を決めていく旅。主人公も一度いろんなものに目がくらんだりするけれど、宝物は何なのかというのを見つけていく。
 

 私たちは、自分にはこれがない、あれが足りないと言って、もっとこうなりたいと求めがちですが、どれほど多くのものが準備されているのかということに気がつくと、世界の見え方はきっと違うと思います。

 息子も仕事もどっちも大事だから

――島田さんは、順調にキャリアを積んできたように見えますが、社会人になってからしんどかったことはありますか。

  2回あって、最初は子どもが生まれた後です。大好きな仕事が自分のペースでできなくなり、我慢の連続だと感じていました。保育園のお迎えに遅れれば罪悪感を感じるし、家事もちゃんとできず、「何でわたしばかりなの!」と夫への怒りがフツフツとわいてきたりもしました。息子を保育園に連れて行くときも、「ママ行ってくるね、ごめんね」と言ったりして。いつも「ごめんね」を口にしていて、そんな自分が嫌になりました。
 

 なぜ私は「ごめんね」と言うのか。それは自分にも失礼なんじゃないか。こんなに好きで満たされていると感じる仕事をしていて、そのとき私は自分らしくいられる。仕事中に息子のことは一切考えないし、それは薄情だとか、母親としてどうなのかと言う人もいるかもしれない。でも、私という人間が生き生きと輝いていることが、息子と接する上でも一番大事なのではないかと。

 まだ幼い息子が泣きわめいたときに、私もワー、ギャーとなって怒ったら、息子がハッとした顔をこちらに向けたんです。そこで我に返って、「あ、これって嫌だ。本当はこうじゃない」と、すごく思ったんです。自分のこともコントロールできなくなっていて、私が太陽になれていない。もっと自分を信じようと思ったんです。
 

 まだ言葉をちゃんと話せない息子に、こう言いました。「ママは、人事の仕事が超好きなので、仕方がございません」と。「仕事のとき、ママはママらしく笑っている。ママが太陽であることが君にとっても重要だと感じました。したがってこれからは、ごめんねっていいません。君のことも大事。仕事も大事。比べられないの。両方、大事だから」 そのときに自分の気持ちを解放できた気がしました。だから私を救ってくれたのは、実は息子なんです。

太陽のようでありたい

――もう1回は、どんなときですか。

  昨年、社長をはじめ、経営メンバーが代わったときです。リーダーが変わると組織にいろんな変化があります。個人的にも「WAA」導入を全面的に応援してくれた前社長が海外へ移動したことや、唯一の女性取締役になったことで、想像以上の喪失感がありました。その上、市場環境が厳しく、業績の目標達成もとても厳しかったため、経営面での責任も感じていました。自分のチームメンバーも大きく入れ替わり、本当にしんどくて、「もう辞めた方がいいのかな」と思うほど気分が沈んでいました。そのころに読んでいたのが「ティール組織」でした。私にとってはすごく大事な本ですね。

 「ティール組織 マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現」(フレデリック・ラルー著、英治出版) 新しい組織モデルについて世界中の組織を調査して書かれた組織論の本。世界各国で翻訳され、日本でも2018年1月に出版されました。

  人事や組織は私の専門です。ノートに気付いたことなどを書き留めながら読みました。そして、私がやりたいと思っている人材育成やチーム作り、組織に対する考え方は、これでいいんだっていう確信を得られました。

 組織の進化は、人の意識の進化の集まりであり、人の意識の進化に私は力を注ぎたい。進化とは成長です。自分のことだけ考えるのでなく、上下や強弱の関係を超えて人との関係性を大事にして、さらには社会へと目を向けるように意識を広げていくということ。
 

 はっとさせられたのは、組織の進化は、リーダーの持っている世界観、意識レベル以上に広がることはないという点です。ということは、私の役割のひとつは、リーダーの意識がより広がっていくためのパートナーでいること。だから私自身の意識が、きちんと進化していかないといけない。

――今はしんどくない?

  考えに考え、突き詰めていったからでしょうか。ある朝、突然、霧が晴れたように気持ちが吹っ切れていました。起きていることすべてが感謝すべきことで、会社を辞めるとかいうことじゃないと思えたんです。私は太陽のようでありたいと思ったら、それまで悩んでいたことも、ありがとうと思える気持ちになっちゃって。

 ワクワクすることに夢中になる

――20代、30代へのメッセージをお願いします。

  私は、やりたいと思ったことを全部やってきました。こういうキャリアを歩もうとか、考えたことはありません。20代は留学したくて、実現して思いっきり勉強しました。30代は結婚して出産して、がんも経験して転職もして。いろいろあったけど、そのときそのときを思いっきり悔いなく生きてきて、その結果が今につながっているし、これからも続けていきたいと思います。
 

 みんな、将来のことを異様に心配していますよね。まだ起きてもないこと、やってもいないことに関して、「失敗したらどうしよう」とか「うまくいかなかったらどうしよう」と考えるのは無意味だと思う。時間とエネルギーの無駄です。
 

 やりたいと思うこと、好きなこと、ワクワクするということだけ、夢中になって楽しんでやる。そうしていれば、全部うまくいくと思います。

島田 由香(しまだ・ゆか)

 ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社取締役人事総務本部長。1996年、慶応大学卒。人材派遣のパソナを経て米国留学。2002年、米国のコロンビア大学大学院で組織心理学修士号を取得した。帰国後、日本GEで人事マネジャーを経験し、2008年にユニリーバに入社。2014年4月から現職。

 大手小町は3月8日の国際女性デーに向けて、2019年1月から働く女性を応援するキャンペーン「#for your smile」に取り組んでいます。「成功のためのこの一冊」も関連の企画記事です。2月23日にはシンポジウムも開催します。シンポジウムの詳細はこちら