「知らない世界に飛び込みたくて」東京メトロ・藤牧素江

働く女のランチ図鑑

一人で運転、アナウンスを

 東京の地下に網の目のように張り巡らされている地下鉄。その中の一つ、東京メトロ「丸ノ内線」が、藤牧素江さん(33)の職場です。「丸ノ内線の運転士になって4年になります。車掌がいないワンマン運転なので、ドアの開け閉めの操作やアナウンスも自分でやらないといけないので大変ですね」。アナウンスは、乗客の耳障りにならないように低く、穏やかな声で話すことを心がけているそうです。

頼りになるのは自分

 通常、丸ノ内線の電車は、駅に停車する際などには自動でブレーキがかかるようになっていますが、速度規制がかかった時などには手動に切り替えます。そのため、月2回、自動ブレーキのスイッチを切って、手動でブレーキをかける訓練をしています。


 通常の業務に加えて、事故や災害などに備えた研修も欠かせません。問題が発生した時に、乗客をどこで下ろして、電車をどこへ動かすのか。「いざという時、頼りになるのは自分。いつも頭の中でシミュレーションしています」

「東京を走らせる力」にひかれて

 藤牧さんは都内の女子大出身。周囲の友人がキャビンアテンダントを目指す中、たまたま大学の就職課で見つけたのが、東京メトロのファイルでした。「専門的な知識が必要な会社だと思っていたので、うちの大学から入社できるのかとびっくりしました」。会社説明会で聞いた同社の理念「東京を走らせる力」に感動して就職試験を受け、内定を得ました。

 入社後は東京駅で駅係員の仕事に就くことに。 そこで目にした運転士の仕事ぶりに憧れを抱き、入社2年目で運転士の養成学校に入りました。訓練の末、晴れて運転士になった藤牧さんは、半蔵門線の電車のレバーを握ることになりました。

 元々、電車が好きなわけでも、車の運転が好きなわけでもなかった藤牧さん。「知らない世界だったから知ってみたかった。知識がなかったからこそチャレンジできたんだと思います。逆にいろいろ知っていたら、この世界には飛び込まなかったのかもしれません」と振り返ります。

まだまだ少ない女性運転士

 東京メトロの運転士は現在1420人で、そのうち女性は10人ほど。「乗務中、お客様から『女が運転する電車に乗りたくない』と言われたこともありました。でも逆に『負けたくない』と燃えてしまいましたね」と話す藤牧さん。男性が多い職場ですが、自分が女性であることにより、不利・不遇を感じたことはないそうです。「性別は関係ない。安全な運行が一番大切。そのために頑張っています」 

満腹にならないよう食事量をセーブ

 日夜、安全運行を心がける藤牧さんの仕事を支えているのがランチです。家から持参した果物にコンビニで買ったサラダ、それに簡単なスープを添えています。ランチは大体いつも、この組み合わせなのだとか。


藤牧さんのある日のランチ 食事は事務所の休憩室でとっています。

 乗務中の眠気を防止するため、おなかいっぱいになるまで食べないように、食事の量をセーブしているそうです。「乗務中は地下にいるし、ランチタイムもなかなか外食することができない。せめて休憩中は季節感を感じられたら」と、季節ごとに旬の果物を取り入れています。今の時期は、梨や柿、ブドウなどがお弁当箱を彩ります。

 「仕事が終わるとおなかがぺこぺこ。だから夜ご飯は思い切り食べてしまいます」 ランチタイムは1時間弱から1時間半ほどで、その日の勤務シフトによって変わるそうです。

「丸ノ内線のプロ」になりたい

 ランチで季節を感じ、リフレッシュしたら午後の業務に。藤牧さんが好きなのは、中野坂上駅から荻窪駅へ向かう区間だといいます。「この区間は駅と駅の間隔が長く、カーブも少ないので、走る楽しさが感じられるんです」と教えてくれました。

 「私が目指すのは『丸ノ内線のプロ』。『東京を走らせる力』の一員になりたい」

(取材・文/山口千尋、写真/金井尭子)
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