「セクハラ」の加害者にならないための心構えとは?

楽しく働くための社内政治力

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 「おばさん、コーヒーいれて!」

 非正規雇用で働いていた私は、40代の上司からこんな言葉を投げかけられました。このとき私は20代後半。「なぜ、年上の上司に“おばさん”呼ばわりされなきゃいけないの!?」と猛烈に腹が立ちました。職場では、20代前半の女性が多かったので、相対的に私を“おばさん”認定したのでしょう。

 それまで、仕事ができるオーラをまとった上司に、尊敬のまなざしで接していました。それだけに、「おばさん発言」はトゲのように心に突き刺さりました。「大したことないやつにあこがれて損した!」と気持ちを切り替えましたが、心のトゲは残りました。

 いわゆるエリートと呼ばれる組織のトップや、議員のように模範となる言動をすべき人が、セクハラ問題で訴えられるニュースは後を絶ちません。インタビューや会見では、判で押したように「セクハラをした覚えはない」「軽い気持ちで言った」「そんなつもりではなかった」と答えます。

 それなりのポジションに就きながら、そもそも「セクハラとは何なのか?」をまったく理解していない知識と意識の低さ、権力をかさに着て何をやっても許されるという傲慢さに、驚くと同時にあきれます。

 「セクハラ」とはセクシュアル・ハラスメントの略です。職場で労働者の意に反する「性的な言動」があり、労働者がそれを拒否したり抵抗したりしたことで、解雇、降格、減給などの不利益を受けることを「対価型セクシュアル・ハラスメント」といいます。また、「性的な言動」によって職場の環境が不快なものとなったため、労働者の能力の発揮に悪影響が生じることを「環境型セクシュアル・ハラスメント」といいます。男女雇用機会均等法では、事業者にこれらのセクハラの対策が義務づけられています。

 本人にそのつもりがなくても、相手が「性的な嫌がらせを受けた」と不快に感じればセクハラは成立します。「何がセクハラになるのか?」「どこからがセクハラになるのか?」で明確な線引きが難しい「グレー」な部分が多いのがセクハラの特徴です。

 軽いジョークのつもりで言った一言。たとえ相手が笑顔でうなずいたとしても、本当は不快に感じているかもしれません。感じ方は十人十色。人によって受け取り方が違うことを、肝に銘じましょう。

男性が加害者、女性が被害者とは限らない

 セクハラは組織の責任者だけの問題ではありません。同僚、後輩、取引先など、日頃接しているすべての人たちとの関係の中で起こり得る、実は誰もが加害者・被害者になるリスクがあります。

 「セクハラ」が声高に言われる昨今、男性から女性への言動は配慮されるようになってきました。でも、意外と女性からのセクハラも多いのです。

 女性の上司が男性の部下に対し、「新しいプロジェクトをあなたに任せようかどうか考えているの。今夜、二人で食事をしながら話さない?」。もし、この男性が夜の会食を拒否してプロジェクトから外されたら、対価型セクハラになる可能性があります。女性だから加害者にならないと思ってはいけません。「そんなつもりじゃなかった」と主張しても通りません。

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 私が外資系の銀行で働いていたとき、同僚の50代男性(独身)が、部下の女性から「独身は寂しいでしょう? なぜ結婚しないんですか?」と言われ、傷ついたそうです。「独身は寂しい」と決めつけられることが「寂しい」と彼はつぶやいていました。職場の女性が皆、自分を「寂しい独身男」と見ていると思ったら、彼の労働意欲が著しく低下するかもしれません。このケースは、部下の女性からの「セクハラ」に当たります。

 独身男性に「寂しいでしょう」と言ったり、中高年の男性を「オジサン」と呼んだりすることも、一歩間違えば「セクハラ」になります。

 女性から男性へのセクハラだけではありません。誰でも加害者になり得る――と言いましたが、男性から男性へ、女性から女性へのケースも十分に考えられるのです。

嫌なことは、はっきりと意思表示する

 良好な人間関係ができていれば「お疲れ様!」と肩をたたかれても特に何も感じません。一方、「嫌な奴」と思っている相手に同じことをされると「触らないで!」と不快に思います。こうしたことが度重なれば、やがてセクハラに発展していく可能性があります。

 とはいえ、「あなたが肩に触ると不快です」とは言いにくいし、無自覚な加害者に「セクハラ」を意識させるのは難しいものです。

 外資系の銀行に勤めている頃、こんなことがありました。

 「いやー○○さん、お疲れさん。今日も肩凝ってるね」

 当時の男性上司は、終業時間が近づくと部下の肩を順番にもんでまわるのです。私は触られるのが嫌で、その時間になるとトイレに逃げて、「こんな日々がいつまで続くのか……」と深いため息をついていました。同じように不快に思っている同僚もいましたが、みんな何も言えず、じっと耐える日々でした。

 ある日の夕方、パソコンに集中していると、上司が不意に私の肩に手を置きました。私はギョッとし、とっさに立ち上がると「やめてください!」と叫んでいました。私の切羽詰まった様子に、周囲の空気が固まったのがわかりました。

 この機会を逃してはいけない。私は気持ちを落ち着け、「私、肩をもまれるのは好きじゃないんですよ」と、ようやく本音を上司に言えたのです。翌日から、上司がみんなの肩をもむことはなくなりました。とっさの反応でしたが、本音を言えたお陰で、その後は仕事に集中することができました。

 「それをされるのは嫌です」と意思表示をすることが自分を守り、みんなのためになったことを実感しました。

 「これをされたら(言われたら)不快です」と主張でき、主張された側は「ごめんなさい」と謝ることができる。当事者同士でスピーディーにモヤモヤを解決すれば、仕事に集中できます。そんな職場環境を目指したいものです。

 無自覚を自覚しよう。セクハラは決して他人事ではない。

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関下昌代
関下昌代(せきした・まさよ)
著作家・キャリアカウンセラー

 亜細亜大学非常勤講師。熊本市生まれ。高校卒業後、住友信託銀行に就職。以後、派遣、臨時職員でテレビ熊本、熊本県庁などで勤務した。1989年シティバンク銀行に転職。いくつかの業務部を経て、2001年人事本部人材開発課に異動。社員研修プログラムの企画、社内講師役を務める。2009年3月、立教大学大学院異文化コミュニケーション学修士号取得。同11月末シティバンク銀行を退職。2011年4月より大学でビジネスマナーやコミュニケーションの科目を担当。著書に「伸びる女の社内政治力」(さくら舎)、「伸びる女(ひと)と伸び悩む女の習慣」(明日香出版社)「伸びている女性がやっている感情整理の新ルール」(KADOKAWA)、「シティバンク人事部で私が学んだ一生使える「気づかいの基本」が身につく本」(大和出版)「仕事も人間関係もうまくいく!マナードリル」(総合法令出版)「反学歴の成功法則」(経済界)などがある。

伸び悩む女の独りごと~異文化の交差点