セクハラを内部告発したら転勤命令……撤回は可能?

小町のリーガ~ル道場

 剣道女子の西山温子弁護士が剣道の試合になぞらえて3本勝負で法律の知識を伝授。今回は、会社の不正を内部告発した社員が転勤命令や退職勧奨を受けた場合の対応策について解説します。

 勤務先の不正を内部告発したら、会社から不当な扱いを受けた……。そんな事例が後を絶ちません。掲示板サイト「発言小町」にも、「他部署で起きているセクハラ・パワハラを直属の上司に相談したら、転勤を命じられた」という女性から投稿が寄せられました。この女性は、相談した上司からその後、毎日のように嫌がらせを受けるようになり、家庭の事情で引っ越しを伴う転勤が無理なのにもかかわらず、遠方への転勤を命じられたとのこと。さらに、職場の同僚に「転勤の話が出て困っている」と話したところ、それが上司に伝わり、「最終的に退職勧奨をされた」そうです。この女性が転勤も退職もせずに済む方法はあるのでしょうか。

壱本目! 内部告発者は「公益通報者保護法」で保護される!

 社員による内部告発は、社内の不正を明らかにすることで会社にコンプライアンス(法令順守)の徹底を促し、それが社会的利益(国民の生命・身体の保護や消費者の利益など)にもつながるという側面があります。

 とはいえ、労働者にしてみれば、「不正を通報すれば会社から煙たがられて解雇されてしまうのでは……」といった不安が拭えないでしょう。労働者のこうした不安を解消し、内部告発をしやすくするため、公益通報者保護法が2006年に施行されました。この法律は、一定の要件を満たした公益通報(内部告発)をした労働者に対して、会社側が解雇などの不利益な取り扱いを行うことを禁じ、労働者の保護を図っています。

 ただし、保護の対象となる「公益通報」と認められるためには、通報する内容が「一定の法令違反行為」であることが必要です。セクハラやパワハラが「不正な行為」であることは間違いないのですが、強制わいせつ罪や傷害罪など刑法に触れる場合をのぞけば、一般的には公益通報の対象にはなりません。

 セクハラの通報者の保護については、男女雇用機会均等法に基づいて厚生労働大臣が定めた指針があります。「労働者が職場におけるセクシュアルハラスメントに関し相談したこと又は事実関係の確認に協力したこと等を理由として、不利益な取り扱いを行ってはならない旨を定め、労働者に周知・啓発すること」を事業主の義務としています。

 セクハラの相談をしたことなどを理由に、会社側は相談者や通報者に対して不利益を生じさせてはならないということです。パワハラについては直接規定した法令、指針はありませんが、同じハラスメントとして、セクハラに準じて考えるべきでしょう。

弐本目! 証拠を集めて転勤命令や退職勧奨の不当性を主張!

 冒頭の投稿者は、他部署で起きているセクハラ、パワハラを上司に通報したのをきっかけに、遠方への転勤を命じられ、さらには退職勧奨を受けたとのこと。転勤命令については、事業主には人事権の裁量が認められています。事業主は「転勤先で人手が足りない」「転勤先は当該労働者のこれまでの経験を生かせる業務である」などと、業務上の必要性を主張してくることが考えられます。そして、転勤が業務上必要だと認められる場合には、適法とされてしまう可能性があります。

 そこで、労働者側としては、「転勤には業務上の必要性がないこと」について理論武装したり、セクハラやパワハラを通報したことに対する報復・嫌がらせであることが立証できるように、証拠集めをしておく必要があります。

 退職勧奨については、労働者が退職に同意しない限りは、あくまで勧奨に過ぎないので、これに応じる必要はありません。逆に勧奨に応じると自主的に退職したことにされてしまいますので、注意が必要です。「退職するつもりはない」と、面談を拒否しても問題ありません。

 退職勧奨が不当かどうかは、事業主側の勧奨の程度、具体的には、面談の回数や説明内容、退職を勧奨する必要性といったことに関わってきます。面談に応じる場合には、面談内容を録音したり、しっかりメモを取るなどして、証拠を確保することが重要です。

参本目! 会社への申し入れが難しい時は労基署や弁護士に相談を!

 上司から不利益な扱いを受けた場合の相談先は、会社の人事課や、男女雇用機会均等法上、設置が義務付けられているハラスメント相談窓口が考えられます。しかし、こうした相談窓口を設置していない、設置はしていても機能していない会社もまだまだ多いのが現状です。

 会社側に直接、申し入れることが難しい場合には、労働基準監督署や弁護士に相談に行くことをお勧めします。ハラスメントに関するメモや録音、面談の際のメモや録音など、きちんとした証拠がそろっていれば、労働基準監督署から是正の勧告が出されたり、弁護士を通じた任意の交渉で転勤命令が撤回されたりする可能性があります。解決しない場合には、最終的には労働審判や裁判で決着をつけることになります。

◇リーガ~ルポイント◇
 セクハラの内部告発は、「公益通報者保護法」では守られない場合がある。不利益な取り扱いに対して異議を申し立てるには、理論武装や立証が必要なので、録音やメモなどの証拠をきちんと集め、弁護士らに相談するべし。

※発言小町のトピはこちら↓
内部告発したら会社にいられなくなりました

西山温子(にしやま・あつこ)
弁護士。

 第一東京弁護士会、インテグラル法律事務所所属。アラサーとアラフォーのハザマ世代の働き女子。剣道四段。取扱業務は、離婚、相続、労働をはじめとした一般民事事件ほか。一期一会を大切にクライアントの立場に寄り添った弁護活動がモットー。