レディファーストという言葉を聞いたことがあると思います。元々は中世の騎士道精神から生まれた習慣で、欧米ではマナーの根幹であり、当たり前のように男性が女性をエスコートします。そして、女性もごく自然にエスコートされています。
パリのルーブル美術館で、幼稚園くらいのかわいい男の子がドアを押さえて私をエスコートしてくれたことがありました。欧米では幼い頃からマナーが身についているのですね。
それに比べ、日本人の多くはエスコートに不慣れです。苦手なのは男性だけではありません。女性もエスコートされることに戸惑ったり、遠慮して尻込みしたりすることもあるようです。グローバルな社会で活躍する女性たちこそ、エスコートされたら、素直に「ありがとう」と応えましょう。レディファーストと扱われる側にも、礼儀とたしなみが必要なのです。
今回は、プロトコールにおいてのエスコートを「する側」と「受ける側」のマナーについてお伝えします。
大切なのは、エスコートする相手を思いやる心
レディファーストは女性をエスコートするマナーですが、受ける側を“女性”とするのは、プライベートでのこと。ビジネスの場ではレディファーストではなく、社会的立場の上位者をエスコートします。ですから、女性が男性をエスコートする場合もあるわけです。日常の振る舞いの中から例をあげて説明いたしましょう。
◇エレベーターの乗り降り
エレベーターの乗降はどうされていますか? あなたがお客様や上司とエレベーターに
同乗する場合を想定してみましょう。
エスコートする側のあなたが先に乗って危険はないかどうか確認してから、上位者を通します。操作ボタンの前に立ち、ドアの開け閉めを操作しましょう。エレベーターなどの乗り物は安全を期するために先に乗るので、失礼にはなりません。降りる際は、上位者を先にします。上位者の滞在時間を少しでも短くするという考え方に基づくマナーでもあります。
◇エスカレーターや階段
エスカレーターや階段では、上位者がバランスを崩しても、とっさに支えることができるように、昇りは上位者の後ろ、下りは前に乗ります。廊下を歩く際は、上位者の左側ななめ前に立ってエスコートします。
屋外を歩く場合は、あなたが車道側、上位者が内側を歩くというのが一般的です。歩いているとき、上位者のペースに合わせる配慮も大切。エスコートする側が上位者を置いてきぼりにするのは論外です。
◇レストランで店員がいない場合
お客様を会食にお招きすることもあるでしょう。レストランでは、案内役の店員が一番前、次に上位者、あなたが最後に歩きます。店員がいない場合は、あなたが上位者を席までエスコートします。
車でのエスコートにも触れておきましょう。国や状況によってルールも様々ですが、原則として、運転手の席が左右どちらでも、後ろの右側の席が最上席になります。プロトコール(国際儀礼)では、ドアマンがいない場合、上位者が先に乗車します。降車はエスコートする側が先で、上位者があとです。
「あなた」が男性でも女性でも、上位者に対して敬意を表し、大切な人を守るという気持ちでエスコートしましょう。一見、堅苦しく思えるかもしれませんが、そこにあるのは相手を思いやる心です。人を大切にする温かい心が「プロトコール」の基本でもあります。
(取材/高谷治美)