『プロトコール』とは、国際社会で円滑に交流し、言葉や文化が異なる人々が平和に心地よく過ごすための決まり事です。ファッションもまた、敬意を伝える大事な表現です。
戦略的にファッションを上手に使うという概念を「ドレス・フォー・サクセス」といい、国際的に活躍するためのプロトコールでありマナーなのです。その場にふさわしくない装いで、信頼を失うこともあります。正しい装いのポイントをお伝えしましょう。
「パブリックウェア」と「プライベートウェア」を混同していませんか
装いは「パブリックウェア」と「プライベートウェア」とに大別できます。プライベートウェアは自由におしゃれを楽しむものですが、パブリックウェアは目的をもって人前に出る時のための装い。パーティーやレセプション、結婚式の装いも、パブリックウェアです。みなさまも「どんなドレスにしようかしら」と悩むことがあるかもしれませんが、ご自分の好みや個性を最優先してドレスを選ぶと失敗することがあります。
催しの趣旨や目的に合わない装いは場の調和を乱し、主催者に恥をかかせてしまったり、ゲストの感情を害することもあります。それがビジネスや外交であれば、成功は望めません。『プロトコール』ではドレスコードを設けていますが、それによって世界中どこでも催しの格式が保たれ、ゲストも安心して集うことができるのです。
では、パブリックウェアで重要なことはどのようなことでしょう? それは、「清潔で品が良いこと」「ドレス・コードを守ること」「好感、信頼感、安心感を与えること」というプロトコールの装いの基本を実践することです。
中でも清潔であることは身だしなみの基本ですが、これは人間の本能からきています。人間も本能的に不潔を嫌うことから、清潔であることはとても大切な敬意表現になるのです。
フォーマルウェアはロイヤルファッションから学ぶ
プロトコールのフォーマルウェアとそのエレガンスは、公式行事でのロイヤルファッションがお手本です。ロイヤルファミリーなどにお見受けする、ゆとりと落ち着き、身に備わった気品が自然でありながら際立って美しいのはなぜでしょう?

そこには、人として望ましい人格を核に据えた「ノブレス・オブリージュの精神」があります。真の紳士淑女は幼いころから「美しい自分・品格ある自分を周囲に見せることも自身の責任である」と教えられるのです。
例えば、英国王室の故ダイアナ妃が初めて日本を訪れた1986年5月8日。オープンカーでのパレードでは、沿道に大勢の人が集まりました。そのときのファッションは、日本をイメージし、白地にあざやかな赤い水玉のドレスに赤い帽子。英国の日本への親日感や敬意を表したこの装いは、無言のメッセージとして両国の交友関係を伝え、人々を魅了しました。その精神と装いの神髄を、私たちも身につけていきたいものです。
最後に、パーティーでのドレスアップをおさらいしておきましょう。
まず、パーティーの趣旨と目的を把握し、招待状に書かれているドレス・コードに従って服装を選びます。王族や皇族などの高位者がご臨席なさる場合は、黒は着てはいけません。喪に服す色だからです。
昼間のフォーマルパーティーや公式行事などのレセプションでは、肌はできる限り隠します。肌の露出が少ないほど上品で敬意を表す装いとなり、露出が多いほど失礼な装いとなります。アフタヌーンドレスの素材は季節に合わせますが、上質なシルクは通年着用でき、とても役立ちます。
宝石はパールやサンゴなど光を内に秘めたものがお約束。これもノブレス・オブリージュの精神に基づくプロトコールで、人々の嫉妬や反感をかわないための文化に由来します。
一方、夜のパーティーはきらめきを添えて華やかに装います。ですが、宝石を身に着けるために襟元が開いたイブニングを着用する場合は「年功序列」を忘れずに。若い方は慎み深く、年齢を重ねるほどゴージャスに装う楽しみがあるのです。
ファッションでもプロトコールのエチケットを心がける習慣は、あなたを社交の華へと誘います。それ以上に、人生のステージも大きく広がっていくことでしょう。
(取材/高谷治美)