30代で初めて部下を持った時のことを今でも鮮明に覚えています。ポジションが上がって晴れがましい気持ちと同時に「やっていけるのかしら?」と不安に襲われ、ストレスを感じました。当時の上司に、「私は上司としてどう振る舞えばいいですか?」と尋ねたところ、「そんなこと、僕はだれにも教わらなかったけど」と冷ややかに言われ、心が重くなりました。こんな重荷を抱えるくらいなら前のままでよかったのに……とさえ思いました。
一人で担当分野の専門スキルを磨いていればよかった日々。そこから昇進して部下を持つ立場になったとき、これまでとは別の働き方が求められます。それはエネルギーの配分です。今までの自分に、会社の方針や目標を意識する、上司に加えて「部下」とのコミュニケーションに時間を使うというプラスアルファです。
ポジションが人を育てるといいますが、そう簡単にはいきません。部下と一緒にチームとして仕事の結果を出すには、それなりの時間がかかります。
新しい自分の役割を受け入れる
上司として新しい立場になったからといって、私自身の人間性が変わったわけではありません。今まで同僚として働いていた私が急に偉そうに振る舞ったり、しゃべったりしたら反感を買うはず!と恐れた私は、今までの仕事のやり方をいっさい変えずに過ごしていました。
すると、それまで仲が良く何でも話していた派遣社員A子さんの態度が急にそっけなくなりました。更に、あまり会話をしてこなかった同僚B子さんも何やら不機嫌な様子。私も担当者として抱えている仕事を持ったままでしたので疲弊していきました。職場の雰囲気が暗くなっていったのが明らかでした。私は彼女たちと積極的にコミュニケーションをとらなければいけない役割を受け入れ、新しい対人関係のスキルを身につける必要があることにようやく気が付きました。
理想の上司像を自分に押し付けない
最初から「上司たるものこうあらねばならない」という理想像を自分に押し付けると苦しくなります。部下は完璧な上司を求めているわけではありません。私は試行錯誤の末、自分のやるべきこと2つがはっきりとしてきました。
1. 部下とのコミュニケーションをとりながら、仕事の結果を出すこと。
2. 部下の成長を考えて行動すること。
そうはいっても、世代のギャップがある部下とのコミュニケーションはなかなかうまくいかないのが現実。昨年の第一生命保険が発表した、20代が作ったサラリーマン川柳の一つが浮かびました。
「ゆとりから みればバブルが 新人類」
部下から見たら、自分はどう映っているか? ときには、相手の視点から見ることも大事です。
部下の考え方に耳を傾ける
外資系の銀行で働いていたころ、入社2年目の男子が部下になりました。あいさつなどの礼儀は心得ていましたが、事務的なミスが多く、注意しても反応がいつも薄いのです。落ち込んだ様子でもなく、私は暖簾に腕押しのように物足りなさを感じていました。「すみません」も「わかりました」も「以後、気を付けます」も言わないので、何を考えているのかさっぱりわかりませんでした。
その1年後、彼が新規プロジェクトメンバーとして抜擢されるほど頭角を現してきたのです。改めて、彼の話を聞くと、「関下さんから言われたことを、いつも深く掘り下げて考えていました」。私の目には、物足りないと感じた彼の反応は、実は、物事を集中して考えようとする態度だったのです。
「部下はこうあるべし」と決めつけると、期待を裏切られるたびにカチンときてしまいます。まず部下の話に耳を傾け、自分と違う価値観に違和感を持っても、批判しないで最後まで話を聴くことです。部下には部下の考え方があり、その世界観の中で生きています。世代のギャップを感じても「ほ~、なるほど。そんな視点がありましたか……、知らなかった!」と興味深く受け入れたほうが心の平和が保てます。
部下の視点で考える。自分の盲点に気づくチャンスが生まれます。