料理研究家・和田明日香が語る 映画「大コメ騒動」 家族の食事を守った女性たち

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(C)2021「大コメ騒動」製作委員会

映画「大コメ騒動」が1月8日(金)にいよいよ全国公開となる。
大正時代に富山県で実際に起きた「米騒動」が題材になっており、当時の女性たち(おかか)が奮闘する様子が描かれている。おかかたちを演じるのは、主演の井上真央、富山県出身の室井滋、夏木マリら豪華な顔ぶれ。ほかにも富山県出身のキャストが多数出演している。監督も、「釣りバカ日誌」や「空飛ぶタイヤ」などを手掛け、やはり富山出身の本木克英。
本作の公開を記念し、全3回のオピニオンインタビュー連載がスタートしているが(1は作家・山内マリコさん)、今回はその第2回目として、料理研究家として活躍している和田明日香さんに本作の魅力を聞いた。

子どもたちのために立ち上がった“おかかたち”から力をもらう

料理研究家・和田明日香さん

実は今朝、うちでもちょっとした米騒動があったんですよ()2人の小学生のお弁当を作っていて、おかずが出来上がって、「さあお弁当箱に詰めよう」という時に、お米を炊き忘れていたことに気づいたんです。あわててコンビニに駆け込んで間に合わせることができました。そんな風に今の時代は何とかなりますが、「大コメ騒動」に出てくる“おかかたち”は、そうはいきません。お米自体を調達することすら難しい時代があった。それを考えると、自分が情けなくなってしまいましたね。

「大コメ騒動」で描かれている今から100年以上も前の日本は、パワハラやモラハラが当たり前のようにある時代。権力や組織で動く男性と、生活のために必死になって動く女性たちを見て、どうして権力や組織のために生活を犠牲にしてしまうのかと、悲しくなりました。生きることで精いっぱいで絶望して、それでも生きなくてはいけないからがんばる。そんなおかかたちの姿に勇気をもらいました。

(C)2021「大コメ騒動」製作委員会

特に印象に残ったのは、大阪から来た若い新聞記者が、寺子屋の女性の先生に「おかかたちは強いですね」と話す場面です。寺子屋の先生は「強くなんかなりたくない。でも強くなるしかない」と答えるのですが、今の時代も、働く女性たちは仕事のほかに家事もして、育児もして、さらには介護もしている人がいます。いろんなものを強いられていて、でも目の前に子供がいるから必死に頑張るしかないんです。そう思うと、とっても考えさせられる場面でしたね。

米騒動については、教科書に出ていたなあとうっすら思った程度で、実際に何が起きたのかは全く覚えていませんでした。この映画を見て、ああそういうことだったのか、とやっとよく知ることができました。

(C)2021「大コメ騒動」製作委員会

前半では、井上真央さん演じる主人公・いとをはじめとするおかかたちが、重い米俵を背負って運ぶ仕事をしているシーンが描かれています。毎日の肉体労働で体のあちこちが痛くて、日焼けによって顔も痛い、おなかもすいている。孤独だし、全部ひとりで背負わなくてはいけない様子を見て、散々だな…、と思いました。だけど、目の前には守らねばならない子供たちがいるわけですから、絶対に逃げることなどできません。ごはんを食べられず、いとの近所の少女が亡くなってしまう場面があるのですが、いとは子供を守れなかったことを心の底から悔やみます。この悲惨な状況を次の世代に残してはいけない、そういう信念を抱き、その思いを胸に勇敢な行動を起こします。これだけひどい状況の中でも強くて芯の通ったいとの姿を見て、私だったらとてもあんなに冷静になれないなあと思いました。子供にご飯を食べさせるためには、簡単に信念を曲げてしまうかもしれません()

毎日の食事で気をつけているのは「一緒に食べる」こと

(C)2021「大コメ騒動」製作委員会

私自身、日々の食事では、「あなたたちの健やかな成長をずっと願ってるよ」と子どもたちにしつこく伝えるようにしています。もちろん味や栄養バランスも大事ですが、どれだけ子どもたちのことを思っているかを伝えるのもとても大事だと思うんです。将来、自分の体なんかどうでもいい、なんて思われたら悲しいですから。自分を大切にできる人になってほしいです。

けれど、毎日毎日完璧な食生活を送ることは、とても難しいこと。だから、私は必ずしも手作りでなくてもよいと思っています。無理をせず、だけど心は込める。そして、何を作るか、というよりも、とにかく家族で一緒に食卓を囲んで食べることを何よりも大切にしています。そして作った私が、家族の誰よりも「おいしい!」と言って食べるようにしています。今は好きになれない食べ物でも、いつか「そういえばママがおいしいって言ってたなぁ」と思い出してくれるかもと思って。

一歩踏み出すための勇気が湧いてくる

本作では、「女には何もできない」として虐げられていた女性たちが、一致団結して声をあげたことで、やがて社会を動かしていくことになるのですが、私は、自分ができないことを無理してやることはないと思っています。できることは一生懸命頑張る、だけど、苦手なこと、できないことは誰かに頼ってもいい。お互いに補い合いながら、みんなで協力して行動する。自分の弱さがわかってこそ、女性は本当の意味で強くなれるのではないでしょうか。

米騒動は、富山の小さな町で起きたことが新聞によって広く報じられ、「女一揆」などの大げさな表現によって瞬く間に全国に知られるようになりました。もちろんフェイクニュースは論外ではあるものの、人々にこの騒動が伝わらなければ社会は何も変わらなかったでしょうから、結果として良かった部分もあると思います。記事に対する受けとめ方はいろいろあるのかもしれませんが、新聞を読んでそれをさらに周りへ伝える人がいたからこそ、社会が大きく動いたのでしょう。今は、ネット上にさまざまな情報があふれていますから、「この情報は本当なのかな」と疑ってみる目が重要なのは言うまでもないですね。

(C)2021「大コメ騒動」製作委員会

主人公のいとのほかに印象に残ったのは、室井滋さんが演じた「清さんのおばば」も強烈でしたが、夏木マリさんが演じた、いとの姑さんが恰好よかったですね。初めはとても怖い人だと思いましたが、いとのこともちゃんと理解している。存在しているだけで、何かを物語っているような雰囲気がありました。強さも弱さも分かっている、本当に恰好よい女性だと思います。私の姑は料理研究家の平野レミ。何かと家族のことを気遣ってくれて、「何かプレゼントしたいけれど、何が良い?」と聞かれたときは、すぐに「お米」と答えました。何しろ育ちざかりの子供が3人いますから、米はいくらあっても足りません。米が高くて子供たちに食べさせられないなんてことは、あってはならないことだと心から思います。

女性たちが中心の物語ではありますが、男性女性にかかわらず、今のままでよいのだろうか、とモヤモヤした気持ちを持っている人に勇気を与えてくれる映画だと思います。おかかたちは、自分たちが社会を変えようと思って行動したわけではなく、家族のためにどうしようもなくなって動いた。でも、それが結果として社会に影響を与えることになりました。今はまず、人から「イイネ」をたくさんもらえることをやりたい、という社会の風潮がありますが、そうではなく、とにかく動いてみれば何か変わるかもしれない。そんな力を与えてくれる映画だと思います。

私は、子供が3人生まれてから仕事を始めました。それまでは専業主婦だったので、当初は、子供を保育園に入れてまで仕事をするほど自分は価値がある人間なのか、なかなか自分に自信が持てませんでした。それでも、求めてくれる人がいるなら頑張ってみよう、と勇気をもって足を踏み出しました。あれはダメとか、こうしなくてはいけないとか、そういう声に惑わされず、自分がやりたいことに思い切って進んでみる。自分に自信が持てない人も、この映画を見ると、そっと背中を押してもらえるのではないでしょうか。

和田 明日香(わだ・あすか) 

食育インストラクター

東京都出身。3児の母。料理愛好家・平野レミの次男と結婚後、修行を重ね、食育インストラクターの資格を取得。 各メディアでのオリジナルレシピ紹介、企業へのレシピ提供など、料理家としての活動のほか、各地での講演会、コラム執筆、CM出演など、幅広く活動する。2018年、ベストマザー賞を受賞。著書に「子どもは相棒 悩まない子育て」(ぴあ)、新刊に「ほったらかしレシピ・献立編」(タツミムック)他、多数。