「五感」でめぐる発酵食の町(後編) 湯沢雄勝地域(湯沢市・羽後町・東成瀬村)

秋田の旅 第2回

フロアマネジャーの佐藤さん(写真左)とオーナーの沓澤さん

 秋田県横手市とともに古くから豊かな発酵食文化が育まれてきた湯沢市。湯沢市とその周辺の地域を訪ねると、奥羽山脈を水源とする川や雪解け水といった水の恵みがもたらす美しい景色と食文化、そこで静かに営まれてきた人々の暮らしのぬくもりに触れることができます。

内蔵うちぐら」で麴を味わう

 湯沢市岩崎地区のカフェを併設しているインテリアショップ「ももとせ」。木の温かさを感じながら店内を歩くと、途中で内蔵の扉が姿を現します。内蔵の中に、ソファ席などが設けられています。オープンから4年たち、「お気に入りの席を見つけて指定されるお客さまも増えています」とフロアマネジャーの佐藤怜美さん。観光では、横手市増田町の内蔵を見学した後に訪れる人が多く、「東京方面から大きな荷物を抱えて来る方もいらっしゃいます」とも。みそや地域の食材を使った食事メニューをそろえ、人気の「月替わり膳」は、「毎回、試食しながら考えています」と佐藤さん。

 「ももとせ」はオーナーの沓澤優子さんが蔵を改装して開業しました。置いているのは家具から小物類まですべて国産品。「訪れた人が愛着を持てるような空間を作りたい」との沓澤さんの思いが込められています。現在、近くで「女性がときめく」宿泊施設を開業する準備を進めています。朝食は、地域の蔵元のみそを使ったメニューを考案中で、沓澤さんは「発酵食品に代表される秋田の食文化は、見た目の美ではなく内面の美につながります。外から多くの人が入ってくることで『人同士』の発酵も作っていきたいです」と構想を教えてくれました。

発酵の瞬間を感じる

 この岩崎地区は、地域を流れる皆瀬川と春の雪解けがもたらす豊かな水資源を背景に発酵食にかかわる店が多いのが特長です。蔵めぐりとともに、みそやしょうゆなど発酵食品を買いそろえる楽しみがあります。

 1855年創業、みそやしょうゆを造る「石孫本店」社長の石川裕子さんは、「造り方も道具もそのまま、昔のやり方を通しています」と語ります。麴づくりの工程はすべて手作業で、「手作りだから力強い麴ができます」と石川さん。1883年に完成した内蔵は国の有形文化財に指定されています。工場内を川が流れ、ナスや大根など自社の畑で収穫した野菜はみそ漬けにします。しょうゆは地元産の麦と大豆などすべて国産の材料で造っています。
 手作業の仕込みによる石孫本店のみそは根強いファンが多いといいます。「発酵スイーツ」として、パリのチョコレート店とコラボレーションし、石孫本店のみそを使ったチョコレートを限定で発売し話題となりました。

店頭でみそなどの販売も行う「石孫本店」

 同じ岩崎地区にある1867年創業の「ヤマモ味噌醤油醸造元」。店内に入ってすぐ、小ぶりなデザインのボトルなどセンスの良い商品が目を引きます。7代目で常務の高橋泰さんが「地域に山積する課題をクリエイティブで解決したい」と挑戦を続けています。

スタイリッシュな外観が目を引く「ヤマモ味噌醤油醸造元」

 岩崎地区を舞台にした皆瀬川の豊かな水に関連する伝説に着目した初代がこの地での創業を決めたといいます。高橋さんは「内蔵をはじめ、蔵人と蔵元の営みすべてに価値がある。蔵も家も庭もすべてを見てもらいたい」との考えから、醸造工程や回廊型庭園などを見学できるファクトリーツアーを実施しています。
 背の高い杉だるがいくつも並ぶ「諸味蔵」は、低温の発酵と熟成を促します。みそやしょうゆは、それぞれの蔵の「蔵付き酵母」の働きで発酵します。ファクトリーツアーでは、蔵とともに発酵の瞬間を体感できます。

小安峡温泉でのんびり

 湯沢市の山岳地帯にある小安峡おやすきょう。「大噴湯だいふんとう」は、谷底や岩壁から高温の蒸気と熱湯が噴き出し、湯量が豊富な小安峡温泉郷を象徴しています。「パワースポット」として訪ねる人もいます。

 今回、泊まったのは、小安峡温泉郷にある「旅館 多郎兵衛」。夕食は、地元の皆瀬牛をはじめ山菜や渓流の魚など旬の食材を使ったメニューが並びます。館内四つのお風呂はすべて源泉掛け流しで、とても軟らかく、つるつるとした肌触りの湯を楽しめます。館内には大小多くのこけしが飾られ、「こけし好きの『こけし女子(こけ女)』も最近、よくいらっしゃいますよ」と若女将の伊藤恵美子さん。

米どころで受け継がれる地域の伝統文化

 旅の途中、湯沢市岩崎地区の神社の境内で、「鹿島様」と呼ばれる稲わら人形の神様を見つけました。高さは約4メートル。古くから村境の守護神として祭られてきたとされ、現在も年に2回、地域の人たちが協力して作っています。

幻想的な世界に誘う 西馬音内にしもない盆踊り

 湯沢市に隣接する羽後町で毎夏、行われる西馬音内盆踊りは、日本三大盆踊りの一つとされています。ひこさ頭巾と呼ばれる黒い頭巾や編み笠で顔を隠した踊り手たちが、優美でしなやかな踊りを見せます。「子どものころから踊っているので指の先まで動きが体の中に宿っている」。そう語る地域の踊り手たちが幻想的な世界を作り出しています。盆踊りの端縫い衣装(接ぎ衣装)は、絹布の端切れを工夫して継ぎ合わせて作り、中には、100年以上前の絹布を使ったものもあります。同町内の西馬音内盆踊り会館では、定期的に盆踊り講習会を行っており、盆踊り体験ができます。

 この地域はそば店が多く、「西馬音内そば」として親しまれています。江戸時代から伝わる代表的なメニューは、冷たいかけそば「冷やがけ」。「小太郎そばや」は、独特のコシのある太めの麺とコクがありながらすっきりとした味わいのつゆとの絶妙なバランスで訪れる人を魅了しています。

秋田の旅 第3回
「世界のナマハゲ」と絶景に出会う 男鹿半島
に続く。