「五感」でめぐる発酵食の町(前編) 秋田県横手市

秋田の旅 第1回

 JR秋田新幹線「こまち」の発着駅・秋田駅から車で1時間余り。秋田県南部の横手市や湯沢市周辺は、全国有数の米どころで雪が深く、古くから日本酒はもとより、保存食としてのみそ、しょうゆ、漬物、納豆など、豊かな発酵食文化が育まれてきました。

 現地を訪ねると、こうじのやさしい甘みがじんわり広がっていくような時間が待っていました。

時間を忘れる旅を楽しむ 人気の「内蔵うちぐら」見学

 江戸時代から商人の町として発展した横手市増田町は、明治から昭和初期に建てられた「内蔵」と呼ばれる土蔵が現存し、内蔵のある町並みで人気を集めています。増田町の中心部、「中七日町通り」を歩くと、タイムスリップしたようなゆったりした時間を過ごすことができます。

食べ物のエネルギーがぎっちり詰まったやさしい味

 「麴のつぶつぶも残さず食べてください」。内蔵のある麴料理店「旬菜みそ茶屋 くらを」で女将おかみの鈴木百合子さんの明るい声が響きます。この日の定食は、おみそ汁とごはんに、塩麴で漬けたサーモン、ふろふき大根などが並びます。みそ汁の主な具材は、採れたての旬の野菜。「麴やみそを使ってやさしい味に仕上げ、食べ物のエネルギーがぎっちり詰まったお膳を作っています」と鈴木さん。

 いぶした大根をさらに漬け込んだ秋田名物「いぶりがっこ」も付け合わせにいただきます。口に含んだ後、じんわりと広がる甘みに驚くと、鈴木さんは「漬物おけから出したばかりで麴で甘みを付けています。やさしい甘さや食感を含めてこの味を分かってもらえると、秋田に来てもらった価値がありますよ」と理由を教えてくれました。

 みそは、麴を一般のみその倍以上で仕込む「三重麴みそ」を使っています。また、ソフトクリームのソースは、みそと生クリームに砂糖を合わせています。

 鈴木さんの実家は老舗の麴店で、「麴がいっぱい入ったおいしいおみそ汁を主役に食堂をやってみたい」と、「旬菜みそ茶屋 くらを」を5年前に開業しました。「発酵食を毎日続けて食べることで体を中から整えます。おみそ汁とごはんという日本人が大切にしてきた食べ方をきちんと伝えていきたい」と鈴木さん。店内には、時計など時間が分かるものは置かれていません。「時間の流れを忘れて、じっくり食べ物と向き合ってゆっくり過ごしてほしい」との思いからだそうです。

「内蔵」で結婚式も

 続いて訪ねたのは、日本酒「まんさくの花」の醸造元で知られる1689年創業の日の丸醸造。店内に入ると、麴のほんのり甘い香りが広がり、背筋をピンと伸ばしたくなるような澄み切った空間に心地よさを感じます。

 1908年建築の文庫蔵と呼ばれる内蔵は、総漆塗りで瀟洒しょうしゃな造りで、「かつては自分の家の宝として外に見せることがなかった」といいます。近年の公開後は、「インスタ映えする」と写真撮影スポットとしても人気で、これまでに10組の結婚式が行われています。

 日の丸醸造では、毎年、酒米や酵母が異なるお酒を50種以上醸しています。主力銘柄の「まんさくの花」は、やさしくてすっきりとした飲み口です。なめらかな味わいの甘酒「秋田美人のひみつ」は酒造りの麴を利用し、甘酒ベースの梅酒や地元のリンゴやブドウを使ったお酒なども造っています。内蔵の見学とともに試飲を楽しめます。

 増田町の内蔵のある町並みは、2013年、国の重要伝統的建造物群保存地区に選定されています。「内蔵」はさやと呼ばれる大きな家の中に建てられています。蔵を雪の重さや湿気から守る雪国の知恵によるものです。各家は間口10メートル前後で奥行きが100メートルを超える短冊のような形をしています。内蔵は現在も40棟以上残っており、保存地区に選定されてから公開が進み、中七日町通りの一角にある増田の町並み案内所「ほたる」では見学案内を行っています。

発酵バルもオープン

 同じ横手市内に昨年オープンした発酵バルを併設するゲストハウス「CAMOSIBAカモシバ」。築100年の元お茶屋さんの蔵を利用し、オーナーの阿部円香さんの「町を訪れる人と暮らす人が出会って化学反応が起こる場所(醸し場)になりたい」との思いが詰まっています。

 麴を使った料理メニューや地酒、輸入ビールをはじめ、リンゴやミカンなどの果実酒をそろえています。

雪の町の小正月行事 「かまくら」

 横手市では、毎年小正月の2月15日、16日、伝統行事「かまくら」が行われます。雪室かまくらの中に水神様を祭り、火鉢を囲んで餅を焼き、甘酒を道行く人に振る舞います。かまくらの中では、子どもたちが「入ってたんせ」と手招きします。夕暮れとともに高さ3メートルほどの約100基のかまくらや無数のミニかまくらにろうそくの火がともります。

 幻想的でどこか懐かしい風景は、無邪気で楽しい時間と記憶を呼び戻してくれます。

秋田の旅 第2回
「五感」でめぐる発酵食の町(後編) 湯沢雄勝地域(湯沢市・羽後町・東成瀬村) 
に続く。