「シェイプ・オブ・ウォーター」“彼”が私を変えた…突然訪れた新しい愛のかたち

(C)2017 Twentieth Century Fox

今年最高のファンタジー・ロマンスをあなたに

 家と職場を往復するだけの単調な日々、心ときめくことってないかしら――。「シェイプ・オブ・ウォーター」は、そう思ったことのある女性に見てもらいたい映画です。「パンズ・ラビリンス」や「パシフィック・リム」を手がけたギレルモ・デル・トロ監督の最新作。2017年のベネチア国際映画祭で金獅子賞を射止め、その出来映えは折り紙付き。今年のアカデミー賞でも作品賞はじめ13部門にノミネートされた究極のファンタジー・ロマンスです。

地味だけど、魅力的な主人公の日常

 舞台は1962年の米国。主人公のイライザ(サリー・ホーキンス)は、清掃員として政府の極秘研究所で働いています。1階が映画館という風変わりなアパートに一人で暮らし、幼いときのトラウマから声を出せません。周囲の人とのコミュニケーションの手段は手話。年齢を重ね、容貌も誰もが振り返るような美人というわけでもありません。  どちらかといえば地味。そんな彼女が実に魅力的なのです。目覚まし時計のタイマーをセットして決まった時刻にベッド代わりのソファーから起き、好物のゆで卵を作って食べてからバスで通勤するといった規則正しい生活を送っています。

「シェイプ・オブ・ウォーター」劇中画像/声を出せないヒロイン・イライザ(サリー・ホーキンス)
(C)2017 Twentieth Century Fox

平凡な日常を楽しむ才能に共感

 平凡な日常が過ぎていくのですが、その中で些細な出来事を楽しむ繊細さを持ち合わせています。大好きなレコードで音楽を楽しみ、隣人の売れない画家のジャイルズ(リチャード・ジェンキンス)と見たミュージカル映画に合わせて軽快なステップを踏み、通勤バスでは周囲の音に静か耳を澄まして心を落ち着かせます。

「シェイプ・オブ・ウォーター」劇中画像/イライザ(サリー・ホーキンス)と画家のジャイルズ(リチャード・ジェンキンス)
(C)2017 Twentieth Century Fox

 質素な生活ですが、堅実で一日一日を丁寧に暮らす様子が伝わってきて好感が持てます。派手なブランドなどに頼らず、「持たない生活」が注目される現在のライフスタイルとシンクロするのかもしれません。見ている側の気持ちをふっとリラックスさせてくれます。

“彼”の神々しい姿に心奪われて・・・

 そんな彼女の日常に大きな変化が訪れるのは、研究所にアマゾンの奥地から不思議な生き物(ダグ・ジョーンズ)が運び込まれてから。特殊な水槽に入れられたその“彼”を掃除の合間に盗み見て、そのピュアで神々しい姿に心を奪われます。

「シェイプ・オブ・ウォーター」劇中画像/イライザ(サリー・ホーキンス)と不思議な生き物(ダグ・ジョーンズ)の出会い
(C)2017 Twentieth Century Fox

 一見、あり得ない倒錯的なシチュエーション。しかし、ここからデル・トロ監督ならではの映像マジックが展開していきます。イライザは、隙をみて自分の大好きなゆで卵を“彼”に与えて警戒心を解き、手話を教えて意思疎通もできるようになります。レコードプレーヤーを持ち込んで音楽を一緒に聴いて楽しむまでに接近し、単調だったイライザの生活はにわかに潤い、鮮やかに色づいていきます。

孤独でひ弱な女性から、頼もしいヒロインに

 ところが、その“彼”の運命が国によって危機にさらされます。特異な生物として研究用に生体解剖されることになり、イライザの思いは暗転します。彼女は、研究所から“彼”を救出し、大海に逃すことを決意。そして、ジャイルズや同僚のゼルダ(オクタヴィア・スペンサー)の協力を得て、実行に移します。その過程で孤独でひ弱な女性だったイライザが、危険を冒してもひるまない頼もしいヒロインに変わっていきます

「シェイプ・オブ・ウォーター」劇中画像/イライザ(サリー・ホーキンス)の勇気ある行動
(C)2017 Twentieth Century Fox

水中での美しいラブシーンにうっとり

 イライザがほとんど言葉を発しないことで、“彼”への一途な思いがストレートに伝わってきて、スクリーンに向かって「頑張れ!」と思わず叫びたくなります。水中で繰り広げられるイライザと“彼”との耽美的なラブシーンにもうっとりします。華麗なカメラワークとロマンチックな設定で、この映画のハイライトシーンの一つになっているので、お見逃しなく。

大人のロマンスとサスペンスを体感

「シェイプ・オブ・ウォーター」劇中画像/愛し合うイライザ(サリー・ホーキンス)と不思議な生き物(ダグ・ジョーンズ)
(C)2017 Twentieth Century Fox

 異形の生物が登場して、ラブ・ロマンスを繰り広げるという、一歩間違えると際物になりかねない映画を言葉や種族を超えた崇高な恋愛映画に仕立てたデル・トロ監督の実力はさすがです。  主人公イライザの魅力を通してこの映画を紹介してきましたが、それだけにとどまらず、多彩な楽しみ方もできます。古典的なモンスター映画やフィルムノワール、そしてミュージカル映画に対するオマージュも込められています。2時間を超える映画ですが、映画史的な引用や細部の描写が充実していて何度も見直したくなります。  今年が始まってまだ2か月ですが、早くも今年を、いや時代を代表する名作になりそうな予感。しっとりとした大人のロマンスと、手に汗握るサスペンスを劇場の大スクリーンでぜひ体感してください。