新潟・山古志で緑のカレーに仰天!過疎でも満席「母ちゃんの味」

山古志やまこし。この地名を聞いて真っ先に思い出すのは、2004年の中越地震です。震度6強の揺れに見舞われた新潟県の山古志村(現・長岡市)は、多数の地滑りが発生し、道路が寸断され、陸の孤島となりました。間もなく18年になり、村の人々はどう過ごしているのか――。5月中旬、地元で愛されている食堂「山古志ごっつぉ多菜田たなだ」を訪ねることにしました。

伝統野菜のさわやかな辛み

JR上越線の小千谷駅から車で向かいます。途中の道も、地震で大きな岩が崖の上から崩れ落ちたといいます。今はすっかり道路が整備されていて、約20分で店に到着しました。

白い軽貨物車で、食堂の代表、五十嵐なつ子さん(70)が颯爽さっそうとやってきました。ちょうど、集落の一人暮らしのお年寄りなどに弁当を配達してきたところだそう。すぐに調理場に入ります。五十嵐さんを含め、店の「おばあちゃん」は5人。煮物を作ったり、汁物の味をたしかめたり。「この味どうかな」「うん、いいね」「誰か手が空いている人いるかな」「はいよー」などと声を掛け合っています。

旧山古志村の人々は地震の後、長岡市へ全村避難しました。集団移転などもあり、人口は当時の3分の1、約800人に減りました。それでも、昼時になると店は満席に。オリジナルメニューの「山古志咖哩カレー」(1000円)を頼みました。

山古志ごっつぉ多菜田の名物「山古志咖哩」
山古志で古くから栽培されてきた唐辛子「神楽南蛮」をふんだんに使った「山古志咖哩」

「おまちどおさま」。運ばれてきたのは、鮮やかな緑色のキーマカレーです。こんな色のカレーは見たことがありません! この地で古くから栽培されてきた「神楽南蛮」という緑色の唐辛子をふんだんに使っているからだといいます。さわやかな辛みとほどよい甘みが口に広がります。

ご飯は、山古志の棚田で収穫したコシヒカリ。カレーとよくあいます。さらに小鉢が二つ。木の芽(アケビの新芽)のおひたしと、フキとタケノコの煮物です。いずれも地元のもので、春の旬をいただき、元気が出ます。カレーともども一気に平らげました。そして、グラスに注がれた山古志のおいしい水をぐっと飲み干しました。

山菜にキノコ、山の恵みを堪能

せっかく来たのに1品だけで帰るのはもったいない。人気の「多菜田天ぷら定食」(1450円)も頼みました。メインの天ぷらは、山ウド、ヒメタケ、タラの芽といった地元の山菜を中心に、ヤーコンやレンコンもあります。五十嵐さんたちが採ってきたものも。

新潟県の飲食店「山古志ごっつぉ多菜田」の天ぷら
山古志の山の恵みを思う存分楽しめる天ぷら

汁物は、具だくさんのキノコ汁。秋に収穫し、塩漬けしたナメコやヒラタケ、クリタケ、ナラタケが入っています。旬の野菜を使ったみそ汁を出すことも考えていましたが、「このキノコ汁が食べたい」と多くのリクエストが寄せられ、一年中提供することにしたそうです。越冬させたダイコンを使ったたくあんや、神楽南蛮味噌みそは、ご飯が進みます。ここでしか食べられない味がたくさんあります。

復興支援への恩返し

五十嵐さんは山古志生まれ。栄養士として小学校で給食を作りながら、山古志の食の豊かさに気付かされたといいます。春は山の雪解けを追いかけるようにすくすくと育つ山菜を採り、夏は神楽南蛮が旬を迎え、秋は納豆やこんにゃくを手作りし、冬にはそばを打つ――。「この地に生まれ、暮らしていることを誇らしく思えました」

食堂を開いたのは、中越地震がきっかけでした。五十嵐さんは自宅が半壊となり、長岡市の仮設住宅へ一時避難しました。当時、多くのボランティアが炊き出しやがれき撤去などに駆けつけてくれて、物心両面の支援に元気を得たといいます。しかし、復興が進むとボランティアらが去っていく。復興の途中に村の活気が失われていくのを目の当たりにしました。

「明るく元気に過ごす姿を見せることができれば、支えてくれた人たちへの一番の恩返しになるのでは」。2008年、被災した地元農家の女性ら4人で開店しました。自分たちや近所の農家が育てた野菜を使った郷土料理を提供、「母ちゃんの味」を大事にしてきました。味が評判となり、観光客や防災の視察に来る自治体職員、特産のにしきごいのバイヤーなど、国内外の人が訪れるようになりました。

大切にしているのは、1人で味を決めないこと。食堂の味を守っていくために、2人以上で味見をして、普段通りに整っているか確かめます。五十嵐さんは「ワンチームで店を切り盛りしている。このメンバーがいるから、お客さんが来てくれている」と話します。

新潟県の飲食店「山古志ごっつぉ多菜田」の店員
調理場では5人が声を掛け合いながら手際よく料理する

コロナ禍のピンチも乗り越え

コロナ禍に見舞われた2020年は、客が減少。食堂は窮地に立たされました。五十嵐さんが自分の年金から資金を捻出したり、お金を借り入れたりしてきましたが、2021年3月にクラウドファンディングで支援を募りました。賛同した人は140人を超え、目標額の2・5倍となる150万円超が寄せられ、厳しい局面を乗り越えました。

現在、食堂で働くメンバーは70歳以上が中心です。「もう、母ちゃんの味ではなく、おばあちゃんの味です」と、五十嵐さんは言います。けれど、今年春に中村郁代さん(40)が加わり、平均年齢は65歳と、大幅に若返りました。中村さんは「『山のごっつぉ(山のごちそう)』である店の味を継承したい。『わからないことがあったら聞いて』と声をかけてもらえるし、山菜の採り方も教えてくれる。ワンチームの仲のよい雰囲気を大切にしたい」と話します。

店名の由来にもなっている棚田を見下ろせる「薬師のおか」まで、歩いて15分ほど。青空を漂う雲が水を張った田んぼに映し出されていました。お土産にいただいたおにぎりをほおばりながら、五十嵐さんたちのふるさとへの愛を思い返し、思いが受け継がれていくことを願いました。

(文・読売新聞科学部 中根圭一 写真・三浦邦彦)

新潟県の山古志地区の棚田が広がる景色

山古志ごっつぉ多菜田
住所 新潟県長岡市山古志虫亀947
営業時間 午前11時~午後2時
定休日 月曜、木曜(祝日が重なった場合は営業し、翌営業日が休み)
アクセス JR上越線小千谷駅から車で約20分

【動画】新潟・長岡「山古志ごっつぉ多菜田」の五十嵐なつ子さんにインタビュー

「食堂のおばあちゃん」では、全国の食堂を巡り、現役で活躍する高齢者たちに、おいしさの秘けつや人生の喜びなどを聞いていきます。読売新聞朝刊や読売新聞オンラインでも関連記事を掲載します。おすすめの食堂の情報を、推薦理由や思い出などとあわせてkurashi@yomiuri.comへお寄せください。

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