青森・国道沿いにぽつんと一軒、ドライバーに愛される豚汁のひみつ

青森県三戸町の国道4号線沿いにある「豊誠園食堂」。あたりには商店がなく、人影もない。けれど、ここは長距離ドライバーたちが全国から集まってくる、知る人ぞ知る食堂です。

初めて訪ねたのは2月下旬。地吹雪に見舞われ車の前方がほとんど見えず、外に立っていたくない寒さでした。かじかむ手で引き戸をあけると、薪ストーブのやわらかな温かさに、すぼめた肩の力がふっと抜けました。

店主の豊川きぬさん(78)が一人で切り盛りしています。アルバイトの女性がいるといっても、約40種類というメニューの多さに驚きます。500~700円前後という安さも魅力です。

すり下ろしたニンニク入りの豚汁が名物で、「青森のニンニクは有名だから。うちのはおいしいよ」と、きぬさん。ニンニクは香りがきつくなく、汁にコクを与えています。汁をすすると、冷え切った体を通っていくのがわかります。キャベツ、タマネギ、ゴボウ、ニンジン、ネギ……たっぷり入った野菜は甘みが強く、思わず目を見開いてしまうほどです。お店で使う野菜やコメは、すべてきぬさんの田んぼや畑で取れたもので、みそも手作り。おいしいはずです。

朝6時頃から夜9時までの通し営業で、定休日もありません。厨房で次々と注文の品を作り、配膳をし、合間に買い出しに行き、そばを打ちすいとんをこね、畑仕事まで。78歳でそこまでこなしているというのが信じられません。まさに、ハイパーな「食堂のおばあちゃん」です。

名物の豚汁定食
すりおろしたニンニクをたっぷり入れた豚汁定食

ぽつんと一軒のわけ

それにしても、なぜこんな物寂しい場所に食堂が? 不思議に思って聞いてみると、もともとは観光客向けのリンゴ直売所だったそう。関東から東北への大動脈である国道4号には、十和田湖へ向かう観光客の車がたくさん通っていたのです。1967年(昭和42年)に義母が食堂を始めました。店名は、夫・豊川誠次さん(77)の名前がついた「豊川誠次の農園」を略して「豊誠園」に。

きぬさんは1965年(昭和40年)、22歳の時に結婚して隣町からやって来ました。3人の子どもを育て、40歳頃に義母から食堂を引き継ぎました。「おらはやれね、って言ったんだけども。ばあちゃんが『やれる、やれる』って言うから」

東北自動車道が開通すると、国道を利用する観光客は減少し、近くのドライブインや食堂は閉店に追い込まれていったそうです。そして、ぽつんと一軒、長距離運転手の貴重な食事場所として残ったというわけです。

きぬさんの人柄も食堂の名物
きぬさんの人柄にひかれて常連になる人も

縁が生まれる瞬間

昼過ぎに、作業着姿の男性5人組が来店しました。埼玉県の建設会社の面々で、近くの鉄工所の仕事で2泊3日の出張中とのこと。社長の唐沢龍華さん(58)が午前中、店の前を通りかかり、部下たちを連れてきたそうです。

「仕事でいろんなところに行くけど、コンビニやチェーン店ではなくて、地元のお店に行く
ようにしているんだ。特に、こういうおふくろさんの店は、あったかくていいね」と唐沢さん。食後にお茶を飲みながら、小上がりですいとん(この地域では「ひっつみ」と言います)をこねるきぬさんと、おしゃべりに花を咲かせます。

すると、昨年、野生のクマが国道から店内に入ってきて、大騒ぎになったという話題に。「うちはクマも食べに来るくらいおいしいんだよ~」。びっくりするような出来事だったわけですが、きぬさんのお茶目な冗談に、みんなが笑いました。

お店を気に入った様子の一行は、予約制はないのに翌日のすいとん定食を予約して午後の仕事に向かって行きました。偶然にも、お店のファンの誕生に立ち会うことができました。

こうして、きぬさんとの何気ない会話や振る舞いから、お客さんとの縁が育まれていくようです。「九州のドライバーさんがカステラのお土産をくれたから、お返しにうちで作っているリンゴジュースをおすそ分けしたこともあったな。みんなと家族みたいな付き合いしているんだ」

黙々と仕事をし、人々を温かく迎え入れ、さりげなく気遣う。当たり前にも思える光景に心が和むのは、実はそれが当たり前じゃないとわかっているから。ありふれたメニューのはずの豚汁が、作る人や食堂の空気によって私史上最高の味になりました。

(読売新聞生活部 福元理央、三浦邦彦撮影)

国道沿いの豊誠園食堂
長距離ドライバーに愛される豊誠園食堂

豊誠園食堂
住所 青森県三戸郡三戸町梅内竹林25−16
営業時間 午前6時ごろ~午後9時
定休日 なし
アクセス 青い森鉄道 目時駅より4.3キロ

【動画】豊川きぬさんが好きだった遊びは?

「食堂のおばあちゃん」では、全国の食堂を巡り、現役で活躍する高齢者たちに、おいしさの秘けつや人生の喜びなどを聞いていきます。読売新聞朝刊や読売新聞オンラインでも関連記事を掲載します。おすすめの食堂の情報を、推薦理由や思い出などとあわせてkurashi@yomiuri.comへお寄せください。

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